在りし日の花言葉

第23話 在りし日の花言葉編 序幕

ダンジョン探索協会の元エースである俺は過去を精算した後、『普通の人』らしい人生を送るために学校に通うようになった。


とは言っても、既に高校を卒業しているような年齢だ。そこで俺は、今年から設立される能力者のための学園に通うことにした。404の皆はそれぞれトネリコとニワトコ以外年齢が違うので、俺と同じ学年はルナリアだけだった。


「…緊張してるのかい?」


サポート担当のフェリシー。俺の保護者という扱いになっている。実際、俺の家は彼女の研究所だ。


「いいや。死地は何度も越えてきただろ?」


「それもそうか。まぁ、肩の力は抜いておけよ。君には…青春が必要だ」


青春か…そんな言葉とはずっと無縁だった。人工の神として作られ、過剰な力を抑え、道具として生きてきた俺の人生に、心踊る楽しみなどなかった。


「お前も変わったな。…ルナリアは?もうそろそろ時間だぞ?」


「最終確認を済ませていました。全て異常なし、いつでもどうぞ、隊長」


「隊長はやめてくれ」


靴を丁寧に履き、研究所を出る。迎えの車は既に来ていた。隊員のルナリアと乗り込み、特に意味もなく携帯を眺める。


「もう二ヶ月も前ですか…」


「何が?」


「隊長…ジン君が私達と追いかけっこをしたときからです」


「ああ…」


そんなこともあったな…俺の中では若気の至りの一つだが、彼女には深い傷を残してしまった。


「なぁルナリア…俺達、五年後はどうしてると思う?」


「卒業する頃、ですか…そうですね。想像もつきませんが、こうして変わらずジン君の隣に居られることを願っています」


「…照れるだろ」


彼女達は俺の家族だ。血の繋がりも、婚約しているわけでもないが、それでも家族だ。だが最近は妙に色気付いたというか…俺にも遅めの思春期がやってきたのだろうか。自分のことは普通の人間だと信じて疑わなかったが、あの一件以降、どうにも俗世との疎外感があった。


「しかし良いのでしょうか。全てのダンジョンの『扉』が閉じたわけではありませんし、相変わらず魔物の被害は続出しています。私達がこんなことをしている間にも…」


「いつまでも俺達に頼ってばかりじゃ駄目だろう。まぁ、そのための能力者の学校なのかもしれないが」


ルナリアの杞憂はよく分かる。だが、今は最前線に出ることに少し疲れを感じているのだ。ユイナの件も、完全に未練が消えたわけではない。未だに夢に出てくる。


「隊長——ジン君の判断に任せます」


「なら少し距離を置いてくれないか?恋人じゃないんだし、家族だとしてもこの近さは何というか…」


「もう、照れないでくださいよ。誰も見てませんから」


「そういう問題かなぁ……」


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