第4話 任…務…?
404の黒い隊服、ナイフとトマホーク、種類別々の銃に祝福儀礼済みの弾丸…重い。
「うへ〜…ダンジョンって言うから重装備で来たのに…めちゃくちゃ山じゃねーか」
あの後なんやかんやあって結局401の隊長との決闘を行うことになり、指定されたエリアからダンジョンに入ったのだが、どこからどう見ても山だ。幸い低山で傾斜はそこまでだが、その分山頂までの距離が長い。
「ヘリを手配してもらえばよかった…」
嫌がらせだろうか。わざわざ未開拓のダンジョンの山頂に集合など正気とは思えない。ダンジョンの危険性を理解しているのだろうか。『入り口』は広く、『出口』は狭い、それがダンジョンのよくあるパターン。特定の条件を達成しないと出られないだとか、そもそも出口が存在しないとか、明らかに何者かの意図が見え隠れしている。
その得体の知れないナニカによって作られ、現実を侵食しようとするのがダンジョンを作っている者の目論見だとフェリシーは言っていた。そんな場所に一般人を向かわせる可能性のある製品など賛成できないに決まっている。
「ここか?」
「遅いぞ。十分の遅刻だ」
ん…?ああ、401の隊長か…ダンジョンで隊員以外の人間に出会うことが稀だったので慣れないものだ。ちなみに探索者は公的な探索者がほとんどなので、チェスのナイトの駒の形をした紋章と、その隊のシンボルを隊服に使用するのが義務付けられている。それが無い場合は魔物が化けている可能性がある、というのが共通認識だ。
「遅刻だぁ?呼びつけといてそりゃないだろ」
まぁつまり、彼らは一応俺と同じく政府公認の探索者…ダンジョン協会の探索隊だ。協会といっても碌なものじゃない。ウチの部隊を404…存在しないことにしているような連中だ。
「冷酷、無慈悲、薄情、浮世離れした実力、そして何よりその傲慢さ…情報通りだな」
「前半は確かめようがないだろ。決めつけてるのか?」
隊長含め5人、全員が黒を基調として、所々にオレンジの差し色が入った隊服、蛇のシンボル…しかも全員ヘルメットで顔を覆っている。
「遅刻したら謝る、学校の先生に教えてもらわなかったのか?」
…挑発的な口調の隊員もいるようだ。
「?俺、学校なんて行ったことないけど。おい401の隊長さんよ、事前の情報収集は怠らない方がいいぞ。まぁいい、そこの新入り、教えといてやる。404は『あの研究所』の計画の産物だ」
401がどよめく。何を隠そう、フェリシーを除き404は研究所で行われた実験で生み出された超人だ。
「御託はいい。そちらのオペレーターから話は聞いているな?なら十分後に始める。その時間で戦闘配置につけ」
「タイマンだって聞いたんだが?」
「さぁ?言った覚えながないな」
「へぇ…まぁいい、全員ボコしてやるから泣いて詫びる準備でとしとけ」
「フン…」
つまり騙されたと。いや、これが単に恥をかかせるためなのか、上層部の意向で俺を始末するためなのかは分からない。後者のケースを考えていた方がいいだろう。どちらにせよ面倒なことに巻き込まれた。まさか404とエンカウントしたのはこの事態にSOSを…?いや考えすぎか…?
まぁいい、今はこいつらをまとめてぶっ潰してから全員で考えるとしよう。
「あ、あの…」
「…なんだ?」
401が配置に移るために場を去った後、一人だけ引き返してきた。声からして女だが、ヘルメットのせいで顔は分からない。
「ひ、氷雨…ジンさん…ですよね…」
「よく知ってるな。その情報は消えてた気がするんだが…」
「わ、私…ジンさんのファンです!」
ファン…?そんなものができるほど表立って戦った記憶はないが…
「すまん、どこかで会ったか?」
「いえ…!その…アストラの公式サイトで…探索者のtier表…みたいなのを見たら、ジンさんだけ規格外の評価でして…そこで初めて知って、協会に残されていた作戦記録から映像を漁って…なんというかその…見入ってしまったのです…」
ゲーム開発会社(?)アストラよ、実在する人物でtier表を作るな。そもそも公式が作っていいのか。いやダンジョンに関しては公式じゃないが…というか、もしかして俺達の存在が秘匿されてると思ってるのって俺だけ…?それともエーデルワイス時代のデータか?だとしたらこの子はいつから…
「まぁ嬉しいが、手本にはするなよ」
エーデルワイス時代は探索者としてトップを走り続け、今回のような模擬戦も全て圧勝、ダンジョン界隈のスーパースターであり、その時はちょうど、誰かの役に立てることが嬉しくて有頂天になっていた。
つまり、『イキっていた』。今では見返したくないクリップが本部のデータベースに残されているのだろう。あくまでエーデルワイスとしての戦闘記録なので、404の隊長など存在しない…という理屈なのだろうか。とにかくあまり見られたくない。
「狙撃手なのにストックで殴りにいったり、あんなに重い対物ライフルを片手で撃ったり!一番気に入っているのはドラゴンのブレスで吹き飛んだ後に空中で真っ逆さまになりながら心臓にレールガンを撃ち込んで倒したところです!」
熱意が凄い。ルナリアが中に入っていたりしないだろうか。
「ああ…うん、真似するなよ」
「あ、最後に握手だけしてください!」
「…どうぞ」
「はい!お互い頑張りましょう!」
手つきがいやらしいと感じるのは俺の心が汚いからだろうか。別に興奮しているわけではない。ヘルメットで顔も見えないし、隊服なので露出なんてあるわけもない。おまけに手にはグローブだ。そういう趣味じゃない。
…と、何を考えているやら、神秘と神秘がぶつかり合ってダメージが軽減されるとはいえ、彼女を撃つことに変わりはない。つまり、心を殺意で満たす必要がある。フェリシーに一度このことを相談しても、『普通の人は殺意が無くても、ゲームだと思って戦えば模擬戦も躊躇なく行えるものだが…』と返された。
どうやら俺にはゲームが理解できないらしい。
……………………………………………………
「配置完了っと」
俺が待機しているのは崖側。高所から撃ち下ろすことでアドバンテージを得る。一方向からしか来れないので守りやすい。他にも目的はあるがそんなところだ。
『あー、あー、遅れてすまないね。何しろルナリアとマーガレットが駄々をこねるものでな…戦況は?もう終わったりしてるかい?』
通信機越しに聞こえるフェリシーの声。ダンジョンの中なので少し聞こえにくい。
「もうすぐ始まる。おいフェリシー、タイマンだって話じゃないのか?」
『そうだったんだがねぇ…一応、彼らはダンジョンの探索という任務を兼ねているから特に問題視されないんだ。まぁ君なら大丈夫だ、エーデルワイス』
久しぶりにその名で呼ばれた。エーデルワイス…いい響きだ。本当はエーデルワイス小隊という名前で活動していたのだが、アイツらが暴れすぎて上層部は俺らを秘匿することになったため404に変わった。
「その名前で思い出したんだが、今なら404の隊長としてじゃなくて、エーデルワイス個人として活動していることになるよな?なら思いっきり暴れても…」
『今サポートをしているのは誰だ?』
「…チッ…はいはい、程よく揉んでやるよ」
流石に無理か…
『そもそも、今回の決闘はアストラのスキルチップの試験運用として行う、という名目なんだ。だからどう足掻こうが任務扱い、随時報告はしてもらう』
「報告しなくてもお前ならだいたい分かるだろ。何年の付き合いだと思ってる」
『君からそういう言葉が出てくるのは嬉しいが、規則は規則だ。ほら、もう始まるんだろ?スコープでも覗いておけよ』
「はいはい」
『ちなみにアイビーは研究所にいないよ』
「?それがどうし…おい、それって…」
『ごゆっくり』
通話が切れた。背後に感じる気配…
「お兄様〜!」
「ぐえっ!」
アイビー、紗夜に抱きつかれた。あの時のように、次元を切り裂いてやってきたのだろう。本当にやめてほしい。反則だろその技。こっちがせっせこ出口を探しているのが馬鹿らしくなる。
「ねぇお兄様?さっきお兄様の手に触れた雌豚は一体何者なんですの?」
「えーと…」
究極の選択。彼女はきっと次元の狭間から俺とあの子のやり取りを見ていた。とぼけることはできない。問題はどちらが地雷かだ。肯定して発狂するか、否定して嘘がバレるか…
「お兄様?お兄様には既に6人も想い人がおられるでしょう?」
「想い人…かなぁ…?」
想い人ならぬ重い人…なんて言ってる場合ではない。どうしようか…
「私達が嫌いなんですか?」
「そういうわけじゃ…」
答えは聞かず、か。嬉しいのか嬉しくないのか…
「ねぇお兄様?私、本気でお兄様のことを愛しているんです。404の皆さんにも譲りたくないとさえ思っているんです。必ずしも想いが届くなどと浅はかな考えは持っておりません。ですがお兄様はこの気持ち、気付いておられますよね?なのにどうして応えてくれないのですか?何か後ろめたいことでもあるのですか?」
困った…こうなったら手段は一つ。
「紗夜」
「なんですか?」
「愛してるよ」
紗夜を優しく抱きしめ返す。羞恥心で死にたくなるが我慢だ。
「はわわ…お、お兄様…」
「紗夜、家でいい子に…できるよね?」
精神状態がおかしくなったルナリアとマーガレットをあやすために身につけたイケボ()がここで役に立つ。いい調子だ、紗夜は照れている。…俺もだが。
「は、はい!その…期待してますね!」
俺を解放し、刀を抜いて空間を切り裂き、次元の狭間に消えていってしまった。恥ずかしさでこっちまで大ダメージを負った。心のダメージは神秘で軽減できないのだと、改めて知った瞬間だ。
『帰ってきたら私も期待してていいかい?』
ふざけんな…と返す気力も無い。今日はなるべく長引かせてから帰ろう…
「見つけたぞ、ゲームオーバーだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます