第3話 どちらも同じ
『先生、いつになったら僕は実戦に出れる?』
『ジン、何も急ぐことじゃない。彼女達の戦闘で充分なデータを手に入れ、君の訓練に生かす。そうするのが最善だ』
『でも…!それじゃあ彼女達が道具みたいじゃないか!僕を人間扱いするなら彼女達も人間として扱え!』
『困ったな…彼女達は君を完璧にするための道具として作ったんだが…』
『完璧になんかなれるもんか!彼女達が傷ついて、それを後目に強くなる僕のどこが完璧だって言うんだ!!』
在りし日、確かそう言った。なぜだか顔が思い出せない。きっと、その人は自分にとって親の代わりだったはずなのだ。なのに…
……………………………………………………
「っ…!」
「目が覚めたか」
ここは…見覚えがある。404探索隊のアジトだ。組織からも腫れ物扱いされた俺の部隊は本部に根城を置かず、その代わりに研究所を丸々一つ与えられた。そしてこの声はフェリシー、つまりこのアジトの管理人。
「謀ったな」
フェリシー…サポートや開発、研究の専門だが、最も謎の多い隊員。自分のことを不老不死だと言っているが、確かめる方法はない。神秘の強さで死にづらいのか、本当に不老不死なのか分からないからだ。
「馬鹿か?最初から返答はしていないよ」
「…今の俺…どうなってんの」
固いベッド…実験台だろうか、それに拘束され、紗夜に切られた手足はまだ再生していない。
「見れば分かるだろう。取引さ。このままここで彼女達の慰み物として植物のように生きるか、復帰を果たすか…聞くのも馬鹿馬鹿しいと思うけど。或いは私だけの所有物になるかい?」
「分かった分かった、復帰するよ。すりゃいいんだろ!」
「そんなに嫌か、ショックだよ。まぁいい、そう言うと思って手続きは事前に済ませてある。これより氷雨ジンは404の隊長となる」
はぁ…結局こうなるのか。なんとなく分かっていた。彼女達から逃げるのは無理があると。それが早いか遅いかの違い…それだけだ。
「アイツらはどうした?」
「私の指示で待機させている。知らぬ間に童貞を捨てるのは嫌だろう?」
「お前なぁ…まぁいい、んで、何すりゃいいんだ?人手は足りてるだろ。それこそアストラの新製品とやらがあれば一般人だって…」
「ダンジョンから最悪の魔物が確認された」
「…ほう」
こんな会話をしているが、俺は両手両足を失って絶賛再生中なので、大変不恰好なのだ。誰にも見られたくないのが本音だ。
「まぁそれは追々話すとしよう。問題は…カウンセリングさ」
「あー…そうなるな…」
俺の隊員はフェリシーと俺を除いて5人。ルナリアとマーガレットと紗夜の他に2人。もれなくヤンデレ。うーん、詰みって感じ。
「君が散々彼女達の純情を弄んでくれたせいで404はどん底に落ちたよ。君がいなくなってから部隊として機能したのは君の捕獲作戦が初めてだ」
「悪かったよ、だがお前にも責任あること、忘れるなよ」
「そのナリで言えるかね。まぁいい、ちょうどアストラの例のスキルチップで再生できるはずだ」
スキルチップ…?貰った覚えがない。まさか…
「お前!気絶してる間に…!?」
「軽い手術さ。まぁいいじゃないか、純粋なパワーアップと捉えたまえよ。リハビリの手間が省けるだろう?」
「ふざけるな。俺は信用してない」
得体の知れない機械部品を埋め込まれることほど恐ろしいこともあるまい。
「そうは言うが資金不足でね…半年間まともに任務も受けていないものだから、あの女社長の提案は目に鱗だったのさ。君が特殊なスキルチップの被験体になるだけで二千万、美味しい話だろう?」
「…覚えとけよ」
「記憶力には自信がある。君との思い出は一秒たりとも忘れたことはない」
ふざけているようには見えない。彼女はいたって真面目な顔だ。404の中ではポーカーフェイスの上手い方なので信用はできないが。
「…んで?スキルチップとやらの効果は?」
「再生能力の強化、反応速度の向上、空間認識能力、演算力の強化を行う特殊な状態…選手で言うところの『ゾーン』に意図的に入ることができる…まぁ、あの女社長に言わせるなら『モードチェンジ』というやつさ。常にそれをオンにできないかと聞いたが…」
「なんて?」
「『ロマンがない』と返された。ゲーム会社らしいというべきか…そんな訝しげな顔をするな。向こうも茶化しただけだろう。普通に考えて、負担の大きさやら持続時間の問題やらの課題が残っているだけだろうさ」
ならよかった。人の命がかかってるのにロマンなどとふざけたことを抜かすような社長ではなくて…いや、だとしても本人の了承を得ずに手術するなよと…
「…心配するな、私達はテストプレイヤーではない、埋め込んだのは君だけだ」
「ならよかった。いやよくないが。任務に支障が出たらどうする」
「まだ疑っているのか。手術に伴って私達も独断でアストラを調査したが、何も怪しい点はない。あの社長の異常なまでのゲーム愛の産物だよ」
「………」
言い返す言葉もないが、やはり漠然とした不安が残る。
「…任務で思い出したのだが、復帰の際君の初任務なのだが…ただのダンジョン探索ではないんだ。少々反対も多くてね…401の隊長が君の扱いについて不満を持っているんだ」
「なんだよ、嫉妬か?」
「個人の心情までは把握していないが、とりあえず彼は君との一対一での決闘を所望している」
401という部隊は聞いたことがない。少なくとも半年前には結成していなかったか、あるいは404と同じように存在を秘匿されていたかのどちらかだろう。だがその隊長とやらがなぜ俺に…
「俺じゃないとダメなのか?紗夜…アイビーだって更に成長したじゃないか。満足のいく戦いができると思うけど」
なんとなく言っただけだったが、フェリシーにはため息をつかれてしまった。
「あのなぁ…誰も彼もが君みたいな戦闘狂じゃないんだ。彼はあくまで責任の所在として君を所望しているのであって、強者と戦いたいわけじゃない。分かったか?」
「俺はそんなバーサーカーじゃない。まぁいい、ぶちのめせばいいんだろ?んで強さはどれくらい?」
やれやれ、といった顔のフェリシーだが、普段は彼女のせいで俺が疲れることばかりなのでいい気味だ。
「君がこの半年でよほど衰えていない限り、苦労する相手ではないだろう。ルナリア、アイビーなら圧勝、マーガレットなら条件次第でトントン、トネリコとニワトコなら二人で挑めば圧勝、片方だけなら厳しい戦いになる…それくらいだ」
「呼ばれて飛び出て…っと、呼んだ?」
視界の端から現れる黒髪の双子、コードネーム『トネリコ&ニワトコ』に驚き、上体を起こすと四肢の再生が終わっていることに気づいた。
「うおっびっくりした」
彼女達は能力者の中でも特別な存在だ。全く同じ性質の神秘を宿していながら発現した能力がこれっぽっちも似ていない。トネリコは攻撃必中の加護、ニワトコは触れた物に対して強制的に弱点を付与する能力を有する。
この弱点は決して、触れるだけで死ぬとかそういうものではないが、あらゆる物理的硬度や神秘、魔力によるバリアも無視して本来のダメージを与えることができるようになる。…つまり、二人揃ったら最強。
「わーい、隊長が帰ってきたよニコ」
「今夜はパーティだね、リコ」
この双子は全く区別がつかない。性格もほぼ同じで好き嫌いも同じ。更には、彼女達自身がもう片方との区別を気にしておらず、むしろ同一に見られることを望んでいること。そして何より彼女達の区別を難しくしているのが、彼女達二人に共通する能力…二人の位置を入れ替える能力だ。
「リコとニコ…おいフェリシー、外で待機させてるんじゃなかったのか?」
「二人は特別さ。捕獲作戦に反対したのが彼女達だからね」
「マジ?」
「大マジさ。なぁ?」
まさかこの双子が…トネリコとニワトコ、通称リコとニコは隊員の中で、ルナリアや紗夜とはまた違ったベクトルのヤンデレ…俺を神か何かだと信じているヤバい奴らだった。そう、だった
「うん、だって隊長の意思は絶対」
「私達ごときが口を出しちゃいけない」
声も喋り方も同じ。区別する方法は二つ。まず、戦闘時のみだが、能力を駆使する時。次に、リコ…攻撃必中の方が先に口を開くことが多い。…7割くらいの的中率だが。
「隊長は偉い人」
「みんな、隊長を尊重しなさすぎ」
「そういえば隊長、ダンジョン行くの?」
「フェリシーが話してくれた。また探索者になるって」
「気をつけてね、401の人、性格悪いから」
「でも隊長なら大丈夫、隊長、最強」
「お前ら…!」
涙が出てきそうだ。こんなにいいやつらだなんて…自称妹とは大違いだ…
「よしよしいい子だ!やっぱりお前らは最高だ!」
リコ&ニコの頭を撫でる。二人はぱっと見中学生くらいだが、俺と年齢はそう変わらない。かくいう俺も19歳なのでフェリシーからしたら尻の青いガキだ。よって俺はロリコンではない。
「わーい、隊長の手、あったかい」
「…リコの方が撫でる回数が多い。隊長は隊員に平等であるべき」
「焦るな焦るな、俺は二人のこと大好きだから、もうどこにもいかないよ」
なんだろう、天国だろうか。決して俺はロリコンではないのだ。むしろ年下は苦手だった。だが、他の隊員と比較して彼女達はなんというか…良い。俺の意思を尊重してくれる時点で最高だ。
「ちょっとお兄様ぁ!?」
「あっやべ」
無惨にも切り裂かれる扉。…そうだ…『外で待機』としか言ってなかった…『盗み聞きするな』とは言ってなかったな…
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