第10話 次の作戦だよ

 王国と共和国を属国にした僕は、次に大教会やカトリク教国が崇める神に対抗して魔国の宗教を作ることにした。他国を侵略するのに有効だと思ったので。

 たしかカトリク教の主神は、天空神ゼウスとか言ってたな。たぶん転移時のハゲジジイの事だろう。


 さて、どんな神を捏造しようか。

 大衆神の女神サザ・エサンにしてやろう。有名だしな。

 女神として髪の毛がモコモコしているイメージでいいか。

 教典は適当に大衆受けする言葉を並べればいいや。

 祈りの言葉は『目には目を、歯には歯を、剣には剣を。ラーメン。』でいいか。

 麺をすする仕草をして祈りを捧げる。滑稽だな。

 バカ丸出しだ。シンボルはラーメン丼ぶりにしてやる。


 僕はカトリク教国を滅亡させる手段の一つとして新興宗教を設立することにした。

 総本山は魔国にする。公共事業として教会建設をすれば景気も上向くだろう。

 手始めに魔国に総本山のサザ大教会を作る。

 そして王国の大教会を改築してサザ教会ブランズ王国支部にする。


 そのとき、周囲の国名を知らない事に気が付いた。

 僕に抱き着いているメビウスに質問をする。


 「なあ、メビウス?周囲の国名って知ってる?」


 「知ってるわよ。戦争した王国はブランズ王国、無血開城したのは、ポランド共和国。あとはドツイン帝国にコリアラ王国、カトリク教国やチャイナル人民国などがあるわ。」


 「ふーん。周囲の国は強いのか?」


 「ドツイン帝国は技術力が高くて強敵ね。カトリク教国も強敵よ。

  チャイナル人民国は人口が多く兵力が桁違いね。攻めにくいのが島国だわ。」


 「島国って?」


 「エゲレス王国やジパング皇国が島国ね。」

 「そのため海軍を何とかしないと戦争は難しいわね。」


 「間者から戦力が低い国の情報は?」


 「そうね、都市国家のシガポル、ホングコングなどは国力が低く、経済力が高いので狙い目ね。あとはコリアラ王国も勝てると思うわ。」


 「そっか、参考にするよ。」


─━─━─━─━─━─━─━


 僕は都市国家を侵略する準備と教典の原案を考えた。原案はうろ覚えのキリスト言葉の改変と、ことわざを混ぜた。


  求めよ、さらば与えられん。

  たずねよ、さらば見出されん。

  門を叩け、さらば開かれん。

  いつも与えなさい。そうすれば、人々はあなた方に与えてくれるでしょう。

  己を愛するごとく、汝の隣人を愛せよ。

  自分の敵を愛し、迫害する者の死を祈りなさい。

  暗いと不平を言うよりも進んで明かりを点けさせましょう。

  立っている者は親でも使え。

  右の頬を打たれたら、左の頬を打ち返せ。

  信仰と、希望と、愛、この三つは、いつまでも残る。

  その中で最も大いなるものは、信仰である。


 うん。これを大衆神の女神サザ・エサンの言葉として広めよう。

 教皇はメビウスでいいか。女だしな。女神に仕える使徒として。


 「なあ、メビウス。お前は今日から教皇をしてくれ。大衆神の女神に使える使徒を演じてくれ。」


 「教会建設を指示してた件の?」


 「うん。教典はこれをベースに考えてくれ。細かい事は今から説明する。」


 教区は国単位として分ける。

 寄付金は金額を問わずとし、一度、総本山に全て集める。

 寄付金の集金高に応じて教区の地位や聖職者の地位を変動させる。

 予算の分配は寄付集金高と信者数に応じて分配する。

 輸送や護衛の目的で、サザ教騎士団と言う名の軍事力を有する。

 騎士団は信者から募る。貴族には高位クラスを与える。

 異端審問所を各所に設置して審問官を配置する。

 審問官は異端宗教を取り締まる。

 炊き出しや宿の提供、孤児の保護などを行い、低所得者の信者獲得に注力する。

 貴族や高所得者には、寄付額に応じて聖職の付与を行い名誉を煽る。


 「こ、これが宗教なの?集金団体に見えるけど…」

 「表向きは宗教だよ。本当は民兵と集金組織だけどね。」


 「これの教皇に私がなるの?ちょっと怖いんだけど…」


 「異端審問を属国各地で行い、カトリク教の力を削ぐ、そして基盤を根こそぎ奪い魔国の収益と軍事力に転換するんだ。」


 「異端審問って?」

 「唯一神は、女神サザ・エサンであり、他は邪神として取り締まるんだ。」


 「その女神サザ・エサンってどんな神様なの?」

 「実在しないよ。とある国の人物像だし、僕が適当に考えたから。」


 「そ、そうなんだ…」


 「これは決定事項だから宜しくね。司教や司祭などは適当に人選しててよ。人間を中心に選んでね。」


 新興宗教の設立が動き出した。魔国の総本山は多額の費用を投じて大教会を建設した。ブランズ王国の大教会も教区の中心として改築を行っている。


 異端審問官の育成は魔国で進めている。

 これは人型の魔族を中心に編成させた。


 サザ教騎士団は、白を中心とした装備で揃え、騎馬隊、歩兵隊、弓矢隊、魔導隊、衛生隊、資材隊、工作隊、情報収集隊で編成した。


 宗教に国境は無いので、じわじわと版図を広げていく。

 他国の人材資金を魔国に流入させるためだ。


 異端審問官の教育とサザ教騎士団の設立が完了したので、手始めにポランド共和国内のカトリク教を排除する。

 教会を訪問し、聖職者を拘束する。そして異端審問所へ移送して尋問を行う。魔国の総本山近くに大きな収容所も作った。最終的にそこへ捕虜として収容する。


 信者には手を出さない。教会の看板が付け変わるだけだ。

 司祭や司教などを送り込み、適当に教典を述べて教会の体を保つ。


 自国内は、魔族領のためカトリク教を始め、宗教は一切存在しなかった。


 現在は、教会の改築や炊き出し、低所所得者の保護で費用が持ち出しているが、最終的にはプラスに転じるだろう。


 僕は残りの宗教関係の事をメビウスに丸投げして都市国家の侵略を考えることにした。


 手始めに都市国家シガポルの情報を徹底的に集めるようにお願いした。

 現在、把握している情報内容は、戦力が低い、経済力が高い、都市単一で国家を形成している、貿易が収入の中心、そんなところか。


 軍事力で攻め落とすと、都市機能が壊滅して意味が無くなるな。貿易が中心ってことは人が中心で収益を出しているって事だし。


 難民を出さず、都市を破壊せず、貿易拠点として維持したままで占領をする。

 これは難しいな。間者の情報を待つことにしよう。


 ─━─━─━─━─━─━─━


 それから数日後のこと、間者から情報が寄せられた。


 「魔王様、都市国家に調査で潜伏していた間者から情報が寄せられました。」


 「ナイ、だから、ココを"ちょんっ"ってして"ぱっ"とするんだ。」

 「ご主人しゃま、難しいでしゅ。」


 「この義手をフェイクにしてだな…」


 「魔王様?あの…?」

 「え?僕のこと?」


 「はい…。あの、間者から情報が…」

 「あ、僕が魔王だったね。忘れてたよ。」


 シガポルの政治形態は議会制で、貴族は存在しない。

 投票で議員を選出して元首を任命するそうだ。

 つまり、元首を拉致しても後釜が次々出て来るってことか。


 貿易は海運が主で、他国から商品を買い付けて他国に転売する。

 その利ザヤで収益を上げているとのこと。


 国家に有力者が3名いて

 土地所有、海運貿易、商店ギルドを仕切っているらしい。

 現在の元首は商店ギルド長をしている者とのこと。


 軍事力は志願制で約5,000人前後、ただし最新の軍艦を5隻所有している。

 陸軍4,000人と海軍1,000人で構成されている。

 陸軍の練度と士気は低く、脅威とはならない。

 しかし、海軍は練度と士気が高く、海戦となると魔国では対抗不可との事だった。


 「そっか。ありがとう。引き続き情報を収集してきて。」


 「はい。お望みのままに。」


 「海軍か、軍艦って魔国で作れるのかな?そこの君、骨宰相を呼んできてよ。」


 僕は骨宰相を呼んで、今後のために軍艦が作成可能か、魔国はどの程度の技術力なのかを知りたかった。


 「お呼びでしょうか?魔王様。」

 「うん。ねえ宰相、その声はどこの骨から出ているの?」


 骨宰相が後ずさりした。しかしナイが回り込んだ。前後を挟まれる骨宰相。

 

 「あの… 本当にやめて…」

 「冗談だよ。ちゃんと聞きたい事があるんだ。」


  シュタッ… ガシッ!


 「ちょっと、ナイ様! 頭を引っ張らないで!!」

 「魔国で軍艦って作れるの?あと港って魔国にあるの?」


  ガシッ! ガシッ!


 「い、痛いって、ほんともうやめて!」

 「属国は軍艦を保有してるかな?宰相は知ってる?」


 「ねえ、宰相聞いてる?」

 「聞けません!痛いって!あ!短剣出さないで!!」


 「あ、忘れてた。ナイ、もういいよ。頭蓋骨は中止だ。」

 「あい」


 「な、ナイ様はなんて恐ろしい子供なんだ…」


 「で、さっきまでの話は聞いてた?」


 「ふぅ…。はい。何とか聞こえておりました。

  魔国で軍艦の建造は困難かと思います。

  まず、港がございません。」


 「港は作れないの?」


 「いえ、海に面した土地はございますが、必要性が無かったもので。」

 「じゃあ、大急ぎで港町と造船所を作って。それと属国は軍艦を持ってるの?」


 「ブランズ王国は旧式を3隻、ポランド共和国は新型を2隻所有しております。」

 「ですが…我が国には造船技師がおりません。」


 「そっか。シガポルは最新の軍艦って言ってたな。そこから造船技師を拉致してきてよ。終わったら帰してやるって言って協力させるんだ。」


 「わ、わかりました。」


 「造船技師の家族も調べ上げて、一緒に拉致するんだ。あとは飛竜と魔導士を沢山集めて。可能な限り。」


 「は、はいぃ。」


 よし、シガポルの攻略法が見えてきたぞ。





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