第9話 魔王になったよ

 僕は魔王になった。

 突然、言われても混乱するだろうね。僕も混乱しているから。


 夕食時に団長達が暴れて、僕が近衛騎士団と魔導団の各団長を倒した。

 この国は強い物が上に立つ仕組みだそうだ。

 魔王メビウスが僕に王座を譲り、そして従うと言ってきた。

 

 近衛騎士団の団長ビデンは、ナイを生涯のご主人様と言って

 魔王メビウスの言う事を聞かなくなった。


 魔導団の団長マヨネルは

 生娘の尻に触ったので責任を取って娶れと言って譲らない。


 魔王に至っては、僕のご褒美さえあれば、他は何も要らないから

 側に居たいとまで言い出した。


 ラークと骨宰相キャメルは何も言わない。一言も意見を発しなかった。


 僕は変態の国、魔国の魔王になった。


 ナイの腕を治す旅以外は、特にすることも無かったので承諾した。

 国金を使い切ったら、ナイと二人でどこかに逃亡すればいいだろう。


 そして、隣の王国に侵略をする件なのだが、指示を皆が仰いできた。


 僕は人間だ。そして隣の王国も人間の国だ。

 それを皆は気にしている。



 僕は…




 隣の王国を…




 攻めろと言った(笑)



 根こそぎ金を奪ってこい。と注文も付けて。

 特に大教会を念入りに調べて全てを奪ってこいと厳命した。

 他に侵略出来る国があるかを間者を放って調べろ。とも指示を出す。

 

 開墾と工業力の増強に略奪資金を充当する。と方針を伝える。

 王国に奴隷がいれば、全て連れて来い。

 そしてその奴隷に土地と家を与えて生産者とせよ。と指示を出す。


 兵農分離で職業軍人を育成し、愛国心を高めよ。

 移民を受け入れ、戸籍管理を行って国民管理を行い

 他国の技術を吸収せよ。

 そして魔国内に住む全ての魔族を調査して管理を行い

 種族の人口分布を調べ、戦力特性を解析するように宰相へ伝える。

 

 近隣の小国へは恫喝を行い、属国か滅亡かを選ばせよ。

 抗戦を選択した場合は、民以外の兵士、貴族、王族を全て始末せよ。

 民は連れてきて奴隷にしろ。

 

 属国になる場合は、貴族の身分保障と資産保護を行い

 民の生活を保障する条件を提示せよ。と伝える。


 僕が国家方針を伝えると皆が恐怖で震えていた。


 ちょっと過激では無いかと、メビウスが言ってきた。

 僕は甘い!逆らう者には死を与えると伝えた。

 皆が悪魔だ…と言っていた。

 魔族のくせに何を言ってるんだろうと僕は思った。


 それから、数か月が経過した────


 ナイの右腕は魔道具による義手が付けられている。

 最初は痛みで泣いていたが、今は自分の腕のように器用に動かしている。


 そして王国との戦闘は激戦だった。双方に相当数の被害が発生した。

 しかし、戦地は王国側。トータルで考えると向こうの被害が大きかった。

 魔族は数が少ないが、人間より戦闘能力は高い。


 飛竜と魔導士を集めてペアにし、上空から攻撃を行う飛竜爆撃隊を編成した。

 これが大成果を発揮した。

 魔族は夜間でも視力が良い。これを利用して夜間魔法爆撃をした。


 日中に飛竜で上空から、一番豪華な天幕の場所を調べる。

 そこが指揮所の可能性が高い。


 深夜に駐屯地にある指揮所へ魔法爆撃をする。

 混乱している所に歩兵が一気に攻め込む。

 一定時間で退却をして、翌日も同じように攻め込む。


 兵は昼夜眠れず、疲弊して、士気が下がる。

 そこへ使者を送り、降伏勧告を行う。


 「 生か死か 」


 指揮官を失い、士気の下がった戦時昇進の指揮官など容易いものだった。


 僕たちは、今、王国の王城にいる。終戦協定を締結するためだ。

 王国軍8万に対して魔国軍3万で戦い勝利した。

 貴族達が次々と降伏を行い、王国軍は瓦解していった。


 「では、終戦協定の内容を通知します。」

 

 骨宰相のキャメルが進行役を務めている。

 投降した貴族には、身分保障と資産、領地保護を伝えている。

 そのため、出席者している貴族は大人しかった。


 「き、貴様は人間だろう!なぜ魔王となり、余の国を攻めるのじゃ。」


 「僕が魔王になったのは何となくかな。

  この国を攻めるのは、元から決定事項だったのです。

  新国家方針の決定前から抗戦が決まっていたので

  今回は特別に王族の命は助けてあげましょう。」


 「ほ、本当か!」


 「ええ、いいですよ。」


 「それに属国としてですが、自治権も認めましょう。

  ただし、国家運営方針と軍事権、通貨発行権、人事権は魔国で管理します。

  それに定期監査も受けてもらいます。」


 「監査や内偵で不正や謀反を確認した場合は

  一族を処罰しますのでご承知下さい。」


 「貴族の方々は、従来通り領地運営と納税、軍事の提供を願います。

  ただし人事権が魔国にあります。その点は忘れないように願いますね。」


 そうして、終戦協定が締結され戦争が終わった。

 

 大教会は、根こそぎ資産を略奪されていた。僕が命じたんだけどね。

 大司教と呼ばれるジジイと聖女のババアが魔国兵士に拘束されていた。


 大司教はカトリク教国から討伐軍が派遣されるぞ!と脅してきたが

 じゃあ、その国も攻めてやると脅し返すと絶句していた。


 そして聖女(笑)が神罰が下りますと言ってきた。

 僕は神を知っている。

 あのハゲジジイだろと転移前に行った天界のことを話してやった。


 しかし彼女は信じなかった。

 僕は欠損部位を治せるのか聞いてみた。聖女は治せないと言った。

 では、なぜ治せる噂が回っているのか聞いた。

 彼女は答えなかった。恐らく寄付集めの手段なのだろうと僕は理解した。


 始末するほどの恨みも無かったので、大司教と聖女を解放した。

 

 僕たちは魔国に帰ってきた。凱旋祭が開かれ、僕たちは魔国民に称えられた。

 

 今回の王国と大教会から奪った資産と敗戦負担金は金貨35万枚

 よく分からない金額だった。

 貨幣価値を日本とすり合わせて計算した所、350億相当だった。

 金貨1枚が10万円ぐらいの価値となる。


 これを持ち逃げしようと考えたが、量が多すぎて無理だった。


 今回の収入は

 主に遺族補償と開墾、工業力増強、内政管理費で半数を消費するらしい。


 王国に居た奴隷は相当数確認したが、可能な限りは魔国に連れてきた。


 回復と状態異常の魔法を掛け、奴隷契約を解除してやる。

 畑と土地を与え、国民として登録をしてやる。

 逃げ出す者も居たが、ごく一部だった。


─━─━─━─━─━─━─━


 そんな戦後処理を行い、多忙な日々を送っていると間者から情報が入る。


 隣にある共和国が政治不信でクーデター発生の兆しあり。とのこと。

 僕はこれのチャンスを逃さず、使者を送り服従勧告をする事にした。


 地位保全の飴と殲滅の鞭を持たせて。


 結果、共和国はアッサリと属国を選択した。

 無血開城である。

 

 この世界は、共和制と言っても形骸化している。

 国家元首は貴族院から選出される。

 つまり貴族による統治であり、貴族を任命する王も存在する。


 僕は王国と同じ条件を提示して自治権を認めたが、元首は魔国から派遣した。


 派遣された魔族はラークの部下である、人に近い容姿をした者を選定した。

 彼は優秀で共和国の税制や貴族制度の一部見直し

 インフラの整備などに着手した。


 共和国の国庫は蓄えが非常に少なく

 魔国から融資を行い制度改革を進めて行った。


─━─━─━─━─━─━─━


 魔王らしからぬ仕事をしてるある日のこと、寝所にメビウスが来た。


 「ねえ、最近、私も頑張ってるじゃない?だからご褒美が欲しいの…」

 「あ、あぁ…」


 僕はこのご褒美を避けていた。この人が変な声を出すからだ。

 しかも自ら脱いでお尻を僕に向けている。


  ぺち…  ぺち…


 「も、もうちょっと強くして欲しいの…」

 「ん、あぁ…わかった。」


  ぺちん… ぺちん…


 静寂な空間にぺちぺちと音が鳴る。

 不意にこの尻に腹が立ってきた。

 なぜ僕がこんな変態な事をしなくちゃいけないのか。


 ふと室内を見ると、なぜか"ロープ"が置いてあった。

 僕はこのロープを使って、尻丸出しで縛って懲らしめてやろうと思った。

 

  シュッ サササッ ギュッギュッ…


 「ふう。上手に縛れた。メビウスこれに懲りて変態なこ… 」


 「ハァハァ… 凄い… キミヒトは天才ね…」


  ガチャッ バーン!


 「ちょっと待ったぁぁぁ!アタシもご褒美貰ってないわ!」


 マヨネルが寝所に乱入してきた。

 ご褒美とか言う尻叩きを要求されるのに怒って

 マヨネルも尻丸出しで縛り上げた。


 「お前たち、これに懲りて変態なことは止めるんだ。

  これからは、もっと普通に生きて行くんだ。

  こう見ると豚のようだ。お前たち。醜い雌豚め。

  ハァハァ鳴いて、家畜同然だな。

  尻を丸出しにして、品性下劣な姿だな。

  全部見えているぞ。ああ恥ずかしい。

  僕が眺めててやる。この肉塊の豚どもめ。」


 怒っていた僕は二人を叱りつけた。彼女たちは涙目になっている。

 きっと変態なことをしてきたのに後悔しているんだろう。

 二人が涙を流してハァハァ言ってたので、ロープを解いてあげた。


 「これに懲りて、これからは真っ当になるんだ。」


 「「ご主人様、ご褒美ありがとうございました。」」


 僕は彼女達の罠にはまった事に気づいたが、もう遅かった。




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