第二章 帝国学院編

栄冠の節「始まりの前夜」




 ―エリスリーゼ帝国学院。


 帝国より少し離れた山林の中に建つ、帝国内で選ばれた将来有望のエリートの集う学校だ。


 生徒達はここで三年間の間学院内の寮で生活を共にし、多種多様な科目の中から授業を選択して行き、将来の道を自身で切り開きながら学び成長して行く。


 入学式を翌日へと控えたアーデルハイト達は、前日の今日の段階から一足先に学院へと到着していた。


 それは、アーデルハイトがレグルスの為に出した推薦状の最終確認を直接学院で行う為であった―。



 アーデルハイト達は学院の最上階にあるエリスリーゼ帝国学院の最高責任者である学院長の部屋に居た。

 アーデルハイトは学院長の前で姿勢正しく立っており、その背後にはリアとヘンリエッタ、そして欠伸をしながらダルそうにしているリオンの三人が整列していた。



「…なるほど。あなたからの推薦状が届いた時には正直驚きましたが、この報告書と実際にこの目であなた達を見て確信しましたわ。何と素晴らしい才能の持ち主達なのでしょうか!」


 目を輝かせながら微笑むこの女性こそ、エリスリーゼ帝国学院の最高責任者であり学院長のダガである。


 アーデルハイトの横で笑顔を見せるダガをリオンはじーっと見つめていた。



 ―原作ゲームでとも言われた大賢者ダガが、まさか帝国学院の学院長だったとはね……。

 まぁ、この学院は後に帝国の重要な拠点となる場所だからなぁ……ラスボスであるアーデルハイトに挑む前にこの学院をレグルス率いる王国側の仲間達と襲撃した日の事を思い出しちまうぜ。


 学院の生徒達を殲滅した後、最後に残ったダガを自らの手でとどめを刺したあの激しい戦いをレグルスは思い返していた……。


 ダガは水色の長髪に、まるで女神の様な美しい女性だった。

 しかし、戦闘に入るやいなやその美しさとは裏腹に、敵に対しての残酷さとその巨大な魔力による攻撃で多くのプレイヤー達を苦しめる存在であった。


 リオンは原作ゲームでレグルスとしてダガと戦った経験があるので、この場にいる中で唯一ダガの本性を知っていた。


 なので、自分の目の前で目を輝かせながら微笑むダガに寒気すら感じていた。



「それでは、以下の三名を正式にこの学院の生徒として認め迎れる事を許可致しましょう。リア=ヴァレンタイン。ヘンリエッタ=フォン=ヴェルグ。そして、リオン=レオンハート。ようこそエリスリーゼ帝国学院へ! 私は学院長のダガと申します。三年間共に学び成長し、楽しい学園生活を送りましょう」



 ダガは三人に向かって大きく両手を広げた。


 しかし、ダガの言葉は三人の心には全く響いてはいなかった。


(フン、この学院長もアーデルハイトと同じムチムチボディではないか。学院長ともあろう者が恥ずかしくはないのか? 余のスマートボディを見習うがよいわ)


(…はぁ、早く部屋で引き籠もりたい……学校なんてやっぱりあたしの居る所じゃないですよぉ……)


(この腹黒女め。俺はお前の本性を知ってるんだっつーの! まぁ、おっぱいがめちゃくちゃデカいのは認めるがな)



 ―あぁ……この子達、全く学院長の言葉が耳に入っていないわね……。



 アーデルハイトはため息を吐きながら三人を見つめた。



「では、入学式も明日に控えている事ですし今日はゆっくり寮でお休みなさい。明日には他の生徒達もここへ到着する事ですし」


「はい。では学院長、本日はありがとうございました」


「いいのですよアーデルハイト。あなたはこの帝国の未来を導く者……また、ゆっくりお茶でも飲みながらお話致しましょう」



 アーデルハイトから部屋から退室すると、リアとヘンリエッタも続いて退室した。

 そしてリオンが退室する時、ダガが一言声をかけた。



「あなたには期待しておりますよ……リオン」



 リオンは何も言わずそのまま無言で退室した。

 ダガはリオンの姿が見えなくなるまで、ずっとその目を光らせていた……。




 ★☆★




 ―その夜。



 リオンは寮の部屋のベッドの上で考え事をしていた。



 はぁ……いよいよ明日から学園生活の始まりかぁ。

 しかも、レグルスからリオンへ変わってのスタートだからなぁ……今から気が思いぜ。



「何よ? もう、入学前から弱気なの?」


「だーかーらー……何でアーデルハイトはいつも俺の部屋ん中に居るんだよ!?」



 リオンのベッドの向かい側にはもうひとつのベッドがあり、その上にアーデルハイトが脚を組みながら座っていた。



「いいえレグルス、今回は俺の部屋じゃなくて部屋よ。この学院の寮は二人一組の部屋だって説明されたでしょ?」


「そりゃそうだけど、何で俺がアーデルハイトと同じ部屋なんだよ!?」


「仕方ないでしょ? 今のあなた……リオンがレグルス本人だって知っているのは私だけなのよ? あなたもその方が過ごしやすいと思って、わざわざ同じ部屋にしてもらったのよ?」



 ―うっ。



 アーデルハイトの気遣いにレグルスは何も言い返す事が出来なかった……。



 午後23時を過ぎ、学院内は真っ暗となった。

 暗闇の部屋の中で、リオンはアーデルハイトに背中を向けながら横になっていた。



「ねぇ……レグルス、まだ起きてる?」


「んー寝てる」


「もしかして、この学院へ来た事……後悔してる?」


「んーどうだろうな」


「私ね……本当は嬉しいのよ。あなたと、そしてリアとヘンリエッタ……もちろんギルベルトも皆一緒だから」


「……」


「私、あなた達と会うまではここへ来る自信が無かったのよ。この学院は本当に才能ある選ばれた者だけが足を踏み入れる事が出来る場所。でも、所詮私は皇女であるという理由から入学が決まっていたに過ぎないの。私は自分に誇れる才能何てずっと無いと思ってたのよ……」


「……」


「でもね、あなたと出会って……まぁ色々と無茶や理不尽な事ばかり続いたけど、自分がどんどん成長して行って強くなって行く事が実感出来て、少しずつだけど自分に自信が持てる様になったのよ! それにずっと一人だった私には、あなた達の様な頼れる仲間が居るんだって今は心の底から思えてるから」


「……」


「だからね……レグルス、私と出会ってくれてありがとう。私、あなた達と一緒にここで学んでもっと成長して、必ず将来立派な女帝になってみせるから。特にあなたには私の側でずっと見届けて欲しいのよ」


「……」


「もしかして本当に寝てるの? はぁ……まぁ、いいわ。明日も早いし、また明日ね。おやすみレグルス……」



 リオンの瞳はずっと開いたままだった。

 後ろを振り返ると、アーデルハイトは目を閉じすやすやと眠ってしまっていた。



「ずるいぜアーデルハイト……そんな事言われたら、余計に眠れなくなるじゃねぇかよ……」



 リオンはそう言って、布団を顔まで被り夜を過ごした。




 ―第二章 帝国学院編 開幕。




 —————————

 あとがき。

 最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!


【次回】入学式の始まり!!!


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