栄冠の節「笑顔のラスボス」
「…………」
リオンは正座をしていた。
目の前にはこちらを不審な目で見下ろすギルベルト、リア、ヘンリエッタ、そしてアーデルハイトの四人の姿があった。
魔軍との戦いに見事勝利した帝国軍。
兵士達は皆その疲労を休めながらも、レグルスと闇の竜騎士の戦いにより破壊された王城の復興作業を行っていた。
アーデルハイトとギルベルトが王城へ戻るなり、リアからリオンの話を聞き即座に駆けつけ現在に至る―。
「まったく……レグルスの奴め。最後の最後まで俺達を混乱させやがって。魔軍へ勝利し、王城へ戻った途端にこれか」
「余も今回ばかりはどう判断して良いものか分からなくての。お主達の意見を聞きたくて話したのじゃが……」
「…アーデルハイト、あなたはどう思われますか? あたしはアーデルハイトが一番懸命な判断を下せると思っているのですが……」
「…………」
アーデルハイトは王城へ戻りリオンと会ってからはずっと黙りっぱなしだった。
流石のアーデルハイトも今回ばかりはお手上げなのか、三人はアーデルハイトを見つめながら、ただため息を吐いた。
「…皆、少しこの子……リオンと二人きりにしてくれないかしら? 少し聞きたい事があるのよ」
アーデルハイトの真剣な眼差しに、ギルベルトはリアとヘンリエッタを連れ無言のまま退室した。
そして、沈黙が流れる部屋の中、アーデルハイトとリオンは二人きりとなった。
―流石にアーデルハイトの前では嘘は通用しなかったか? 他のやつらを部屋から出して俺と二人きりで一体何を話すつもりなんだよ!?
ガチャ
すると、アーデルハイトは部屋のドアに鍵をかけた。
そして無言のままリオンに視線を向けると、そのまま冷たい眼差しでこちらへと歩み寄って来た。
―おいおいおい。アーデルハイト鍵までかけて一体どうするつもりだ!? もしかして俺の帝国生活も、もうここで終わりなのかよぉぉぉぉぉ!!!
アーデルハイトはリオンの前でしゃがみ込んだ。
「あなた……
「…………へ?」
―今、アーデルハイトのやつ俺のことレグルスって言ったよな……?
「あ、あのう……今、私になんて?」
「だから、あなたレグルスなんでしょ? どういう理由で女性の姿になったのかは分からないけど、私はあなたがレグルスの妹って言う事よりも、あなた自身がレグルスだと言う事の方が信憑性があると思ったんだけど……違うの?」
―うぅ……。
すると、リオンの目からは涙が溢れ出していた。
「うわぁぁぁぁぁん! アーデルハイトォォォォォ! お、俺……てっきりこのまま帝国から
リオンはレグルス丸出しの状態で、アーデルハイトにしがみつきながら大泣きした。
そんなリオンの頭を、アーデルハイトはゆっくりと撫でていた。
「私だって王城に戻ってはじめてあなたを見た時には正直驚いたわよ? でも、レグルスと闇の竜騎士の両方が姿を消してリオンと言うあなたが現れたって事は、きっとまた
「あ、アーデルハイトォォォォォ!」
「とにかく、まずは何があったのかをちゃんと説明しなさい。それから今後の事を二人で話しましょう。その為にこうしてあなたと二人きりになったんだから」
アーデルハイトの言葉に感激しながら、リオンは今までの流れをこと細かく説明した―。
「…なるほど。じゃあレグルスはそのバグと言うものを引き起こして不死身の騎士を封じ込めたのだけど、今度はその代償として元の姿に戻れなくなってしまった訳なのね……」
「…あぁ。まさか、こんな事になるなんて思っても見なかったぜ……ってか、よく俺のこんな嘘みてーな話信じてくれるな?」
「当然よ。だって、あなたと出会ってから今までずっと
―流石はこの世界のラスボスであるアーデルハイト様。もう俺に関してどんな事が起きようが何の不思議もないって訳ね……。
レグルスは思わず苦笑いをしてしまった。
「ねぇ、レグルス。もしかしたら、その不死身の騎士に掛かっているバグを解除すれば、あなたは元の姿に戻れるんじゃないかしら?」
「あぁ……まぁその可能性が一番高そうだが、問題はまた不死身の騎士が行動可能になっちまう事だな。考えても見ろよ? あの闘神オーディンよりも遥かに強くてしかも不死身だぞ? そんな奴がまた帝国へ乗り込んで暴れて見ろ、俺は問題ないとしても今度はアイツ一人でもこの帝国を滅ぼしかねない危険な奴だぜ? そんな奴を解放させる訳にはいかねぇだろ……」
レグルスのその言葉にアーデルハイトは心を打たれていた。
今、自分が元の姿に戻ることよりもレグルスは自分達……帝国の事を思ってその選択をあえて取らないでいてくれる。
そもそも、最も危険な闇の竜騎士を抑える為にレグルスは身を呈してバグを使用したのだ。
本来であれば次期女帝である自分がやらなければならない事をレグルスはたった一人で背負っているのだ。
「……ありがとう、レグルス」
アーデルハイトの口から思わず感謝の言葉が零れ出した。
「気にすんな。結局自業自得だからな! まったく……俺の人生いつもこんなんばっかだぜ!?」
そう言って笑いながら話すレグルスに、思わずアーデルハイトもつられて笑った。
「それでよぉアーデルハイト、来週から帝国学院へ入学だろ? 俺、女になっちまったけどその辺は大丈夫なのか?」
「えぇ、そこは何の問題もないわよ。推薦状は追加の三名ってだけの報告内容だから、名前も性別もまだ学院へは伝えてないのよ。それは入学の前日に学院へ到着してから私とあなた達が手続きすれば済むことだから」
「なるほどねぇ……ってか、どうしても入学しないとダメか? こうなっちまった以上、ここは入学を諦めて……」
「ダメよ。もう推薦状は送ってあるんだから! 例えあなたが
―ハァ。
レグルスは大きなため息を吐いた。
元々乗る気ではなかった帝国学院への入学。
それに加えて、女主人公リオンとしてこれから学園生活を送らなければならないと思うと、レグルスは今の段階から何とも気が重い心境であった。
「それで、ギルベルト達にはなんて言うつもり何だよ? アイツらはアーデルハイトみてーに、すんなりとはリオンの事を受け入れるとは思えねぇけどさ」
「そこは何とか私が上手くフォローするわよ。とりあえずあなたはレグルスの妹であるリオンでこの先通しましょう。解決策が見つかるまでは、レグルスの代わりはあなたリオンよ!」
「この際仕方ねぇか……わかったよ。しばらくリオンとして何とか上手くやって行ける様にせいぜい努力しますよーだ!」
「フフフ。でもね、私正直言うと
「はぁ!? 何でだよ?」
「私一人っ子でしょ? 昔から
するとアーデルハイトはリオンに抱きついて頭を撫でなでした。
「わっ! な、なんだよ!?」
「フフフ、さぁ、リオンちゃん? 今日から私の事はお姉様とお呼びなさい。お姉ちゃんがいっぱい可愛がってあげるわ!」
こうして、レグルス改めリオンは笑顔のラスボス……アーデルハイトと共に新たな学園生活をスタートさせる事となるのであった……。
―第一章 完結。
—————————
あとがき。
最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!
【次回】第二章の開幕!!!
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