栄冠の節「嘆きの幕切れ」



 ―瞬間移動。



 レグルス改めリオンは帝国王城へと戻って来た。



「…とりあえず闇の竜騎士は岩山に放置して来たが、投げキッスバグで永遠に行動不能だし……まぁ問題はないだろう」



 リオンは王城から外の様子を見た。

 アーデルハイト率いる帝国軍は残りの魔軍を圧倒し、一万の魔軍は残り数百まで減っており、帝国軍の勝利はほぼ確定した戦況であった。



「なんだかんだ言っても、やっぱりこの世界のラスボス率いる帝国軍だよなぁ。流石に魔軍如きに負けはしないか……」


 リオンは何やら嬉しそうに、帝国軍の戦いを眺めた。



「おいレグルス! あの黒いワイバーンと闇の竜騎士はどうなったのだ!?」


「…レグルス、もし苦戦しているのならあたしも加勢しますよ!」


「お、リアにヘンリエッタじゃねーか! お前らも無事だったか!」



 …………。



「貴様、誰じゃ!?

「あなた誰ですか!?」



 二人は同時に大声を上げた。



「あ? 何言ってんだお前ら? 俺だよ俺! イケメンレグルス様に決まってんじゃ……あ、そっか。今俺はだったな……バグを元に戻すのすっかり忘れてたぜ」


「おい、貴様一体誰じゃ!? さっきから何訳の分からぬ事を言っておる。それよりレグルスは何処におるのだ!」


「…リア、もしかしたらレグルスはこの女と接触して何かあったのかも知れません……ここは、力強くでこの女にレグルスの事を聞き出しましょう」



 リアとヘンリエッタはリオンに向けて杖を構えた。



「お、おい!? マジで待てって! 俺は本当になんだよ! これにはいろいろ事情があってだな……」



 しかし、リオンの言葉に二人は耳を貸さず、ゆっくりと杖を構えながら近づいて来る。



 ―ヤバいぞ、このままだとリアとヘンリエッタのやつマジで俺に攻撃して来やがる。

 早いとこ、魔力を全開にしてバグから元の姿に戻らねぇと……。



 リオンは両手を広げ魔力を全開に解放した。



 しーん



「…………え?」



 しかし、何故かバグが発生しなかった。



 ―あれぇ? 何でバグが発生しないんだ? 魔力はまだ十分残ってるのに……えぇい、もう一度だ!



 フンッ!



 リオンは両手を広げ魔力を再び全開に解放した。


 しかし、またもやバグが発生する事はなかった。



 ―も、もしかして……闇の竜騎士との戦いでバグを立て続けに発生させまくったから、この世界がなっちまったのかあぁぁぁぁぁ!?



 なんとレグルスは、リオンの姿から完全に戻れなくなってしまっていた。



「おい、ヘンリエッタ……見たかコヤツの凄まじい魔力を!? もしかして余達とここで殺り合うつもりなのか!?」


「…考えられますね……もしかしたら、この女も闇の竜騎士の仲間なのかもしれません。だとしたら全力で行きますよリア!」



 ─や、ヤバい! マジでヤバいって!?

 こうなったら……ここはいったん何とか誤魔化すしかねぇよな……。



「ま、待て! い、いや、待って下さい! 俺……じゃなくて、わ、私はあなた達の敵なんかじゃないです!!!」



 リオンは手を前に振りながら、その場へと座り込んだ。



「じ、実は私……なんですー!」



「妹だと!?」

「妹ですって!?」



 またもリアとヘンリエッタは同時に大声を上げた。



「は、はい……。実は、兄は王国から追放されてしまって……その後ずっと行方が分からなかったのですが、この帝国で兄らしき人物の目撃情報があったので、つい先程この帝国へ到達したのですが、まさか魔軍と交戦中だとは思いもしなかったので……」



 じーっ



 リアとヘンリエッタはリオンの事を怪しい眼差しで見下ろしていた。



「…ヘンリエッタよ、コヤツはレグルスの妹だと思うか?」


「…どうでしょうか……でも、どことなくレグルスの雰囲気と似てると言えば似てますが……」


「だ、だから私はレグルスの妹リオンなんですよ! ほら、髪色だって兄と同じ赤毛でしょ!?」



 ―や、やっぱりダメか? 流石にいきなりレグルスの妹設定は無理がありすぎたか!?



「そうじゃな……とりあえずこの戦いが終わってから、アーデルハイト達に相談してみるかの。あやつらの方が懸命な判断を下せるじゃろうし」


「…そうですね。もしかしたら、アーデルハイトならレグルスから妹との事を聞かされているかもしれませんし……」



 そう言って、リアとヘンリエッタは杖を降ろした。



 ―た、助かった……。とりあえず、何とか二人とは戦わずに済んだみてぇだな……。



 うおぉぉぉぉぉ!!!!!



 帝国軍の兵士達の喝采が鳴り響いた。


 リアとヘンリエッタが急いで外の方を見ると、そこには最後の魔物を倒し、高らかにグングニルを天へと掲げるアーデルハイトの勇姿があった。



「アーデルハイトのやつ、まるでもう立派な帝国の女帝の様だの!」


「…いいえリア。アーデルハイトは立派な帝国の女帝ですよ……」



 二人は帝国軍の勝利の景色を眺め続けていた……。



 ―俺、これからどうしよ……アーデルハイト達になんて言ったらいいんだろうか……何で最強の主人公の俺ばっかこんな目にあわねぇといけねーんだよおぉぉぉぉぉ!!!!!



 こうして、レグルスの心の嘆き声と共に帝国と魔軍の戦いは終幕した―。




 —————————

 あとがき。

 最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!


【次回】レグルスの姿を見たアーデルハイトは……。


 少しでも「面白い!」「応援したい!」「続きが気になる!」と思った方は、フォロー、★評価、レビューをして頂けますと作者の励みになりますので何卒。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る