栄冠の節「もう一人の主人公」



 闇の竜騎士が不死身の騎士である事を知ったレグルスは、そのチートとも言える敵に対しバグ技を発生させ対抗する事を決意。


 そして、そのバグを発動させる為にもう一人の主人公へと性転換してしまったのだった……。



 ―この原作ゲームでは、主人公は存在している。


 男性主人公のレグルス=レオンハート。


 女性主人公のリオン=レオンハート。


 プレイヤーは好みの性別の主人公を選択する事が出来る使用となっていた。


 どちらを選択してもステータスの変化は無いので、完全に見た目の好みか同じ性別を選択し主人公になりきってプレイするくらいの理由しか基本は無かったのだが、決定的に違う点が存在した。


 男性主人公のレグルスを選択した場合、特技に『吹っ飛ばし』と言う技を覚える。

 この技はその名の通り、敵をかなり遠くの位置まで吹き飛ばす事の出来る技で、初心者のプレイヤー達には重宝された技であった。


 そして、女性主人公のリオンを選択した場合は、特技に『投げキッス』と言う技を覚えた。

 この技は敵に投げキッスを使用する事によって、一定の確率だが敵を1ターン魅了し行動不能にする事の出来る技であった(ただし、ボスには効果は無効)


 ゲームガチ勢の転生前のレグルスは、少しでも役に立てると言う理由から男性主人公のレグルスを選択しプレイしていたのだが、後にネット上でが発見される事となる。


 それは、女性主人公のリオンのと呼ばれるバグであった。


 リオンをゲーム内の戦場で敵に投げキッスを行った後、データをリセットし再起動する。

 すると、敵は魅了された状態で行動不能状態となっているのだが、何故か1ターン経過しても魅了状態が継続すると言う致命的なバグを引き起こしてしまっていたのだ。


 このバグが発見された当時、女性主人公のリオンを選んだ方が圧倒的有利と攻略サイトや掲示板でも一時期話題となっていたのだが、通常の敵のNPCにしか使用出来ず、ステージボスには使用出来ない事からあくまでも初心者向けのバグと言う事に落ち着き、いつしか投げキッスバグの存在は日に日に忘れ去られていった。


 もちろんこのバグはレグルス当人も知っていたのだが、リオンを選択していない自分にとっては無関係なのでまったく気にはしていなかったのだが―。



「まさか、こんなところでこのバグを使うとは思っても見なかったぜ……」



 そう言って、レグルス改めリオンはニヤニヤと笑っていた。


 ちなみに、レグルスがリオンとなったのもバグの一種であり、これは始めに選んだ主人公の性別は本来二度と変えられない仕様となっていたのだが、バグを使用すると何故か途中で性別が入れ替わってしまうと言う『性転換バグ』と呼ばれる何ともつまらないバグであった。


 そして、リオンとなったレグルスが不死身の闇の竜騎士へ使おうとしているのがリオン専用技のである。



 ─この不死身野郎は今の俺がどうあがいても倒す事は絶対に出来ない……本来ならチートにはチートで対抗するのが極論だが、転生前の俺はそもそもチートなんて使った事ねーからそれは不可能。

 なら、唯一チートに対抗できる手段はこの世界でバグを発生させるしかないって事になる。



 ―ビュッ



 闇の竜騎士の攻撃が再び再開する。

 リオンは闇の竜騎士の攻撃をかわしながら、バグを発生し投げキッスを打つタイミングを見計らっていた。



「とりあえずお前は大人しくしてろって……フン!」



 ―ドゴォ!



 リオンの蹴りは闇の竜騎士の体を吹き飛ばした。



「後は、時間稼ぎの為にを使って……ほい!」



 リオンは丸い玉を取り出すと、闇の竜騎士目掛けて投げ飛ばした。

 闇の竜騎士の前で破裂したその玉は白い煙を大量に発生させ、辺りは視界が見えなくなる程の霧に包まれていった。



「よし、煙玉で足止めしているうちに、大量の魔力でまずはバグを発生させねーとな!」



 リオンは再び大量の魔力を溢れ出した。

 先程のバグ実験が成功した様に、この世界は大量の魔力さえあればバグを引き起こし自身に影響を及ぼす事が出来る。


 レグルスが今行おうとしているのはバグを発生出来る状態にし、リオンの投げキッスを不死身の騎士に放ち、投げキッスバグを発生させてや永遠に行動不能状態にする事であった。


 いくらチートの不死身だとは言え、そもそも動けないのであれば何の意味も持たない。

 レグルスは倒すのではなく、一生行動出来なくする選択を選んでいたのだ。



「よし、これくらい魔力を溢れ出せばバグを発生させる事が出来るな!」



 煙玉の効力も弱まり、視界が開けかけた瞬間を狙ってリオンは技を闇の竜騎士目掛けて放った―。



「喰らえ! 投げキッーーーーース!!!」



 ―チュッ



 リオンの唇からハートマークが飛んで行くと、霧から飛び出して来た闇の竜騎士へと命中した。


 すると、闇の竜騎士はその場で立ち尽くしてしまい、一歩も動けなくなってしまった……。



「お? もしかして、投げキッスバグ成功かな?」



 リオンは闇の竜騎士に近づくと、顔の前で手を振ったり、踊ってみたり、お尻ペンペンなどをして確認した。



「うん。投げキッスバグ……成功だね!」



 フリーズした闇の竜騎士の前でリオンは笑顔でピースをした。



「…あ、しまった! 肝心な事を忘れてたぜ!!!」



 ―モミモミ。



 リオン改めてレグルスは、リオンの胸を揉んだ。

 そして、大きく息を吸い込むと空を見上げながら一言放った―。



「ありがとう……性転換バグ。お前はだぜ……」




 —————————

 あとがき。

 最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!


【次回】帝国へ戻ったレグルスに思わぬ事態が発生!?


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