栄冠の節「女帝の誇り」



 ワイバーンと闇の竜騎士をレグルスに任せ、下の階へと飛び降りたアーデルハイトとギルベルトは、魔力を消耗しすっかり疲れ切ったリアとヘンリエッタを壁へともたれかせ座らせた。



「…とりあえず、ここまで離れれば問題は無さそうね」


「えぇ……ですが、レグルスやつ一人で平気だと思われますか?」


「レグルスが私達に逃げろと言った以上後は彼に任せるしかないとその場では思ったけど……ギルベルト、あなたも感じたわよね?」



 アーデルハイトの問にギルベルトはゆっくりと頷いた。


 この時二人は同じ事を感じ、そして思っていた……。



 あのワイバーンと闇の竜騎士は遥かに強い。



 レグルスが大声を上げる前から、二人はワイバーンと闇の竜騎士を見た瞬間に恐怖を感じ取っていた。


 闘神オーディンとのレグルスによる理不尽とも言える命懸けの修行。

 そのオーディンとの死闘に見事打ち勝ち、飛躍的なレベル上げによりこれまでにない強さを手に入れたアーデルハイトとギルベルト。


 正直二人は魔軍を目の前にしても、内心それ程までに恐れる事はなく、今の自分達の力に自信さえも持っていた。


 だが、突如現れたワイバーンと闇の竜騎士を目の前に二人の自信はあっという間に失われてしまっていたのだ。

 その為、レグルスの言葉をすんなりと聞き入れ即座にその場から逃げ出し、レグルスを一人その場に残して来た自分達を恥じてもいた。



 ―ドゴッ!



 ギルベルトは思わず床に向かって拳を振り下ろしていた。

 また、アーデルハイトも悔しさと自分の愚かさに腹が立ち、その拳を強く握り締めていた。



「…アーデルハイト様、リアとヘンリエッタの二人をよろしくお願いします。俺はやはりレグルスの所へ戻ろうと思います」


「ギルベルト……あなたの気持ちはよく分かる。私も同じ気持ちよ……でも、私達が戻っても何の意味もないわ。レグルスの言う通り、後は彼に任せて私達は自分の出来る事だけに集中しましょう」


「し、しかし……」


「…アーデルハイトの言う通りだ……大人しくしておけギルベルトよ」



 リアがゆっくりと口を開いた。



「リア! 良かった……何とか無事みたいね」


「当たり前だ……余は最強の聖女だぞ?」


「……今回ばかりは認めざるを得ませんね……リア」



 するとヘンリエッタもゆっくりと口を開いた。



「ヘンリエッタ! はぁ……二人とも無事でホッとしたわ」


「ですがアーデルハイト様、流石にもうこれ以上は二人は限界の様ですね……魔力が完全に尽きてしまっている」


「バカを言うなギルベルト……余達にはまだやるべき事が残されておる」


「…そ、そうですよ……まだ魔軍も三万程残っていますしね……」



 するとリアとヘンリエッタは、それぞれ何やらが入った瓶を取り出した。

 そして二人は一気にその液体をゴクゴクと飲み干した。



 ぷはーっ!!!



 次の瞬間、二人は即座に立ち上がり何やらポーズを取って見せた。



「ファイトー!」


「一発です」



 アーデルハイトとギルベルトは呆然と二人を見つめていた。



「…あ、あの……二人ともそれは何なのかしら?」


「これはの、レグルスから貰った魔力回復薬じゃ! これを飲めば一気に魔力が回復すると言うておったが……本当に一瞬で回復するとはの!」


「…それとこれは、レグルスから教えてもらったポーズと掛け声なのですが……理由は分かりませんが、回復薬を飲んだ後これをするのが何やらなそうです……」



 またもやレグルス絡みのデタラメな展開に、アーデルハイトは思わずため息を吐いていた。



「よし! ではヘンリエッタよ、早速残りの魔軍を片付けるとするかの!」


「…はい。魔力も回復出来ましたし、今のあたし達は元気100倍です」



 二人はカドゥケウスの杖とテュルソスの杖を取り出すと早速魔軍への攻撃準備に入った。



 ―魔力上昇



 リアのバフがヘンリエッタへと掛けられる。


 そして、ヘンリエッタも黒魔法と白魔法を同時展開し、再び二つの黒と白の球体を出現させた。



「…では、魔軍殲滅を再開します……」


「ま、待ってちょうだいヘンリエッタ!」



 すると突然、アーデルハイトがヘンリエッタの攻撃を止めに入った。



「おい! 何故ヘンリエッタの邪魔をするのだアーデルハイト!」


「アーデルハイト様、どうかされましたか?」


「…そうです……何故あたしの攻撃を止めに入るのですか?」



 アーデルハイトは皆の問い掛けに少し口を閉じていた。

 だが、アーデルハイトの胸の前には強く握られた拳が震えていた。



「ヘンリエッタ……申し訳ないけど、魔軍は全て消滅させないでちょうだい。残りの魔軍は私達帝国の手で倒したいのよ!」



 アーデルハイトの突然の要望に皆が静まり返った。



「…変な事言ってるように聞こえるわよね? そう、これは私個人のワガママよ。確かにこのままあなた達二人に任せれば私達帝国の人間は誰一人戦う事なく事なきを得るわ……でも、それは私のプライド……が許さないのよ!」



 アーデルハイト様……。



 ギルベルトはそっとアーデルハイトを見つめた。



「私はいずれ次期帝国の女帝になる……そんな私が、帝国の危機をリアとヘンリエッタ……それに今たった一人で強敵に挑んでいるレグルスに任せっぱなしなんて、将来女帝となる資格なんて今の私には無いわ! 自分の手で帝国を守れないに弱い人間なんかに私はなりたくないのよ!」



 アーデルハイトは珍しく激しい口調で叫んだ。

 だが、その場にいる全員がアーデルハイトの気持ちを理解していた。



「よくぞ言ってくれましたアーデルハイト様! それでこそ俺が憧れる未来の女帝のお姿です!」


「まぁ、確かに余達ばかり目立ってもアーデルハイト達には少々つまらんじゃろうしな!」


「…わかりましたアーデルハイト……ですが、やはりまだ数が多すぎるので、せめて残りの半分はあたしに殺らせてください……それでどうでしょうか?」


「皆……えぇ、わかったわ! 後は私達に任せてちょうだい! 帝国の力をあなた達とレグルスにも見せつけてあげるわ!」



 四人は中央へと円になって集まり、それぞれ片手を前に出した。



「…じゃあ、皆行くわよ。私達で魔軍を倒しましょう!」



 おう!!!




 —————————

 あとがき。

 最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!


【次回】アーデルハイト達の開戦!!!


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