栄冠の節「魔軍の進軍」



 ―翌朝。



 エリスリーゼ帝国に一頭の馬を走らせながら偵察へ向かっていた兵士が帰還した。



 御報告致します! ゴブリンとオークの五万の軍勢、現在東より帝国へ進軍中……正午には帝国へ到達する勢いです!



 兵士からの報告を受け、アーデルハイトとギルベルトは互いに顔を合わせた。



「…思ってたよりも速いわね。ゴブリンとオークの足ならもっと時間がかかると思っていたのだけど……」


「やはり、ただの魔物の寄せ集めの軍では無さそうですね。しかし、何故帝国へ進軍して来るのかその目的がまるで分からない」


「そういえば、闇の竜騎士とやらの姿は目撃出来たの?」



 アーデルハイトは偵察に向かっていた兵士に問いかける。



「い、いえ。私が見たのは武器を持ったゴブリンとオークの大群だけでしたので……闇の竜騎士の姿は目撃してはおりません」


「……そう」


「アーデルハイト様、何か気になる事でも?」


「いえ、レグルスがやたらと闇の竜騎士について言って来るのよ。何か情報が入ったら直ぐに知らせろ! ってね」


「レグルスの奴め……いや、だが今回の件に関しては奴に一理あるな。この長い歴史でも、闇の竜騎士などと言う存在は今回が初めてですから」


「そうなのよねぇ……分かったわ。引き続き魔軍の進軍に備えつつ、闇の竜騎士についても常に警戒しておく様に全ての兵士達に伝えておきなさい!」


「はっ、承知致しましたアーデルハイト様!」



 そう言って兵士はその場から立ち去って行った。



「はぁ……こう言う時に限ってが遠征中でいないなんて……不運だと思わない?」


「確かに、軍団長とアイツらの不在は本来なら痛手ですが……その代わり、今回はの三人が居ますからね」


「あら? ギルベルト、もしかしてその発言はレグルス達をって捉えてもいいのかしら?」


「……」



 ギルベルトは無言のまま目を閉じ、少し微笑んでいた。



「…そうよね。今の私達にはほんと、とんでもなく非常識で頼りにできる仲間が居るんですもの―」




 ★☆★




 陽は昇り、時刻は正午―。



「伝令! 東の方角より、魔軍の進軍を確認致しました!!!」



「…ついに来たわね」



 アーデルハイト達が視線を向ける東側。

 まだ帝国とは随分距離があるものの、そのおぞましい魔軍の軍勢の姿に思わず兵士達は息を飲んでいた。


 前代未聞の魔軍の進軍。


 実際その現実を目の当たりした帝国の兵士達の顔には思わず緊張と恐怖が表れていた。


 アーデルハイトとギルベルトもまた、額から汗を流し着実にこちらへ進軍して来る魔軍から目を離さずにいた。



「…信じられんな。こうして実際に目の当たりにすると、まるで悪夢のような光景だ」


「そうね……これ程まで自分の目を疑いたくなったのはあのレグルスのの時以来だわ」



 アーデルハイトは思わず手にしているグングニルに力が入った。



「闘神オーディンですか……確かに、に比べればまだ目の前の魔軍は可愛いものかもしれませんね」


「あら? けっこう言う様になったじゃない、ギルベルト!」


「フッ、そう言うアーデルハイト様も以前よりもかなり余裕の表情をされておられますよ?」



 二人は思わず笑いが出てしまっていた。



「そういえば、レグルス達はこんな時に何をしているのかしら?」


「いや〜お待たせお待たせ! 戦いの前のトイレに行っててな……でも今日は快便絶好調だったぜ!!!」


「レグルス、余も絶好調であったぞ! 昨晩飲んだキノコのスープのお陰かもしれんな!」


「…二人共、下品です……」



 快調な表情で笑いながらレグルスとリアが現れた。

 ヘンリエッタは二人の後ろをモジモジしながら後からついて来ていた。



 はぁ……。



 アーデルハイトとギルベルトは同時にため息が出た。



「…まったく、お前達には緊張感と言うものがないのか! 目の前に魔軍が迫って来ているというのに」


「お、アレが例の魔軍かぁ……でもまだ十分遠いな。まだまだ全然余裕じゃねーか!」


「ほー、思ったりも大した事なさそうじゃな。レグルス、今回は余が攻撃しても良いのではないか?」


「はぁ……あなた達を見ると、何故かこっちも緊張感が抜けてしまうわね……」



 ギュッ



「あら?」



 ヘンリエッタがアーデルハイトの服を掴みながら、その背後へと隠れた。



「ヘンリエッタ! 部屋から出て来てくれたの?」


「褒めてやれよアーデルハイト! 実はこう見えてヘンリエッタはやる気満々なんだぜ? 自分の大切な仲間のアーデルハイトとこの帝国を魔軍から守るんだってな!」


「…れ、レグルス! そ、それは内緒の約束ですよ……」



 すると、アーデルハイトはヘンリエッタの頭を優しく撫でた。



「ありがとうヘンリエッタ……頼りにしているわね!」



 ヘンリエッタは頬を赤くしながらも、とても嬉しそうな表情だった。



「さーて、じゃあ早速魔軍のをしますか! リア、ヘンリエッタ、手筈通りに行くぞ!」



 するとヘンリエッタはアーデルハイトから離れると、杖を取り出しゆっくりと深呼吸をした。



「では行くぞヘンリエッタ!」



 ―魔力上昇



 リアのバフがヘンリエッタへと掛けられた。



「ちょっと、一体何をするつもりなのレグルス?」


「いいから黙って見てな……ヘンリエッタの力の初披露だぜ? 見逃さねー様にしっかり見てろよ」



 ヘンリエッタが杖を構えると、左右に黒魔法と白魔法のが現れた。


 二つの魔法の同時展開をはじめて目にするギルベルトとリア、そして帝国中の兵士達は驚きの表情でヘンリエッタへと注目した。



「…レグルス、あなたの言う通りこの杖は非常にあたしに様です……これなら、あたしも遠慮なく魔力を撃てそうです」


「よし! じゃあ思う存分ヘンリエッタの実力を皆に見せてやれ! なんならお前だけで魔軍をさせても構わねーからよっ!」




 —————————

 あとがき。

 最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!


【次回】ヘンリエッタの圧倒的な力が炸裂!?


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