蒼月の節「過去の傷跡」
グングニルを手にしたアーデルハイトは、今にも魔力暴走を引き起こしそうなヘンリエッタを見つめた。
―黒魔法に白魔法……。
実際に目の前で見るとよく分かる……この子は本当に天才だわ。
今、私が目の当たりにしてるのは
長い魔法の歴史でも、誰一人として成し得る事が出来なかった二つの属性魔法の同時展開……でも、その常識破りの力にヘンリエッタの
だから、ヘンリエッタにはこの力を制御させなければ……その為に私がするべき事は―。
「ヘンリエッタ、何も怖がらなくていいわよ。あなたの
「…む、無理ですよ……あたしのこの力は、あなたが思っている以上に強いのに……」
アーデルハイトは一歩ヘンリエッタへと近づいた。
「―っ、こ、来ないで……!」
―ゴオォォォォ
ヘンリエッタの黒魔法がアーデルハイトを襲った。
「―うっ、このっ……!」
グングニルで黒魔法を防いだアーデルハイトは、そのまま黒魔法を突き消した。
「落ち着いてヘンリエッタ! あなたが心を落ち着かせて自分の力を信じれば、必ずあなたはその力を制御出来るわ!」
「…だから無理ですよ……あたしの力は人を傷つける事しか出来ない……あなたはこのままだと必ず後悔する……」
アーデルハイトは再び一歩ヘンリエッタへと近づいた。
「…だ、だから……来ないでって言ってるでしょ!?」
今度は白魔法がアーデルハイトへ襲いかかった。
―まるで、ヘンリエッタの魔法が生きてる様……ヘンリエッタの意志とは関係なく、ヘンリエッタの
「でも、こんな魔法なんかで私を傷つける事なんて出来ないのよ!」
―ギィーン
槍を振り払い、アーデルハイトは白魔法を
「……へっ?」
跳ね返された白魔法は、部屋の壁に寄りかかっていたレグルス目掛けて飛んで来た。
「おいおいおいおいおい!?」
―ズドン!
白魔法はそのままレグルスへと直撃した。
しかし、レグルスは間一髪の所で片手で白魔法を受け止めており、そのまま白魔法を消滅させた。
「おい、アーデルハイト! お前
「そ、そんな訳ないでしょ!? そんな事より、ヘンリエッタの魔法でこの部屋が吹き飛ばされない様に、ちゃんと対処してちょうだいよね!」
なんつー勝手なヤツだ! 人の気も知らないで、勝手にヘンリエッタに強引な事をはじめたのはアーデルハイトの方だろ!?
アーデルハイトの態度にプンプンと怒っていたレグルスだが、ヘンリエッタをずっと見つめるアーデルハイトの眼差しが目に映っていた。
…アーデルハイトは本気でヘンリエッタを救おうとしている……俺みたいにただご機嫌伺いするんじゃなくて、心の底からヘンリエッタの事を
今も尚、過去の
そしてアーデルハイトはついにグングニルを手放し、無防備のまま黒と白が渦巻く魔法の中で蹲るヘンリエッタの元へと歩み寄った。
―バチバチバチ
魔法の渦がアーデルハイトの体を襲う。
しかし、アーデルハイトは眉ひとつ動かす事なくヘンリエッタの元へと進み、そして手を差し伸べた。
「…ヘンリエッタ、もう大丈夫よ。私がついてるから」
「……」
ヘンリエッタは黙り込んでいた。
アーデルハイトが手を差し伸べても、魔法の渦は止まる事無く更に勢いを増していった……。
「ヘンリエッタ…ヘンリエッタ……ヘンリエッタ! 私の顔を見なさい!!!」
「―えっ」
両手で肩を掴み、アーデルハイトはヘンリエッタの顔に自分の顔を近づけた。
「見なさい! 私はあなたの魔法なんかじゃ傷つかない。例え傷つけられたとしても、私はあなたの傍にずっと居るから! だから、あなたも自分の力を受け止めて自分自身と向き合いなさい! ずっと自分を否定し続けて篭もり続けるなんて間違っているわ!」
「…で、でも……あたし……自分の力を制御するなんて出来ない! 今もこの魔法を止める事が出来ないんだよ……」
―ガバッ
アーデルハイトはヘンリエッタを
「大丈夫……あなたなら絶対出来る! 私は信じてる」
アーデルハイトのその言葉に、ヘンリエッタは幼い頃に亡くした母の顔を思い出していた―。
「……お母さん……?」
―フッ
ヘンリエッタの周りを渦巻いていた、魔法の渦は一瞬で消え去ってしまった。
部屋中は散らかり壁や家具が破壊された中、アーデルハイトの腕の中でヘンリエッタは涙を浮かべながら気を失っていた……。
「い、一体これは……な、何事ですかあぁぁぁぁ!?」
下から上がって来た家政婦が、物凄い形相でレグルスに問い詰めて来た。
「…おい、アーデルハイト。まさか最初に言ってた、
冷や汗をかきながらこちらに視線を向けるレグルスに対し、アーデルハイトは無言で微笑み返した―。
—————————
あとがき。
最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!
【次回】帝国へ戻ったレグルスとアーデルハイトだったのだが……
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