蒼月の節「強引の脳筋」



 扉を破壊し強引に部屋の中へと突破したアーデルハイト。


 そのあまり大体過ぎる姿に、レグルスは唖然とし、ヘンリエッタは部屋の片隅で怯えていた……。



「―さぁ、穴熊さん。私とお話しましょうか」


「…な、なななな何を考えているんですかあなたは!? あ、あたしの部屋のと、扉を破壊するなんて!!!」


「仕方ないでしょ? あなたがいつまで経っても部屋に籠りっきりなんだから」


「…だ、だとしても、あまりにも非常識過ぎです!」



 ヘンリエッタは赤紫色の髪色に、左右非対称のオッドアイの瞳をした美少女だった。

 しかし、ずっと引き篭っているせいで、髪はボサボサで雰囲気を醸し出していた……。



「あ、あのう……アーデルハイト? 頼むからどうか穏便に話をしてくれませんかね……?」



 レグルスの言葉にアーデルハイトは鋭い眼差しで返した。



「な、なんでもないでーす……」



 アーデルハイトはため息を吐くと、ゆっくりとヘンリエッタへと近づいた。



「…こ、来ないでください! あ、あたしに近づかないで!!!」



 ヘンリエッタの言葉にアーデルハイトは少し手前の所で立ち止まった。



 ―この子、何でこんなにいるのかしら……?



「ねぇ、ヘンリエッタって言ったわよね? あなたは何故ずっと部屋に引き篭っているの?」


「…そ、それは……あたしは引き篭るのが好きで―」


「いいえ、ただ引き篭るのが好きだとしても、あなたのは異常よ? 良かったら私に話してくれないかしら?」


「…………」



 ヘンリエッタはそのまま黙り込み俯いてしまった。

 それでも、アーデルハイトの問いかけは続いた。



「私ね、レグルスにあなたはとても凄い天才だって聞いてここへやって来たのよ。正直、レグルスの話だけだととても信じられない内容だったわ……だから、あなたの口から直接聞きたいのよ」


「……あ、あたしは……そんな凄い人間じゃないですよ……買いかぶりです」


「でもあなたは、二つの違う属性魔法を同時に出せるんでしょ? それが事実なら、とても素晴らしい―いえ、と言っても過言ではないわ!」


「……じゃない」


「え?」


「…あたしの才能は、そんな良いものなんかじゃない!!!」



 ヘンリエッタが突然感情を顕に大声を上げた。



 ―あぁ、この子……に怯えているのね……。



 するとアーデルハイトはヘンリエッタの前にしゃがみこみ、今までとは違う優しげな表情へと変わった。



「…じゃあヘンリエッタ、こうしない? あなたが私に話をしてくれて、もし私が少しでももう二度とあなたに会わないって約束するわ」


「……え?」



 ヘンリエッタはゆっくりとアーデルハイトの方へと視線を向けた。



「だからお願い。私にあなたの話を聞かせて?」



 自分を見つめるアーデルハイトのその透き通った瞳を見て、ヘンリエッタはゆっくりと口を開いた―。




 ★☆★




 ―ヘンリエッタ十二歳。



 当時のヘンリエッタは今とは正反対で、明るく毎日外で友達と遊ぶ様な子であった。


 ヘンリエッタの才能は幼い頃から既に頭角を現しており、父親は娘の才能を自慢に思いつつも、ヘンリエッタには屋敷の者以外には決して力を見せてはならないと言い聞かせていた。


 しかし、ヘンリエッタは父親の言いつけを破り、ある日屋敷の庭で友達を招いた際に、こっそりと二つの属性魔法を同時に出して見せた。


 だが、この時のヘンリエッタはまだ魔力の制御が未熟だった為、二つの属性魔法はを引き起こしてしまった……。



 ―その結果、ヘンリエッタの友達は幸い命に別状は無かったものの大きなか怪我を負ってしまい、それ以降ヘンリエッタの屋敷には二度と友達が訪れる事は無くなってしまった。


 その日を境にヘンリエッタは自室に籠る様になり、次第に人との交流も避け、部屋で毎日趣味の絵画を描いたり、本を読んだりする日々を送る事になる。



「…あたしの才能は、大切な人を傷つけ不幸にする……だからあたしは、誰にも会わないし誰とも関わりたくない……」



 これがヘンリエッタの引き籠もりの理由であり、自身の天才の才能を嫌う理由。


 ヘンリエッタから話を聞いたアーデルハイトは、そっと立ち上がりヘンリエッタへと手を差し出した。



「ヘンリエッタ……私からのお願いよ。あなたのその天才たる才能をこの私……いえ、未来の帝国の為にその力を貸してくれないかしら?」


「……それは一体どういう意味ですか……?」


「もちろん、って意味よ!」



 そう言って、アーデルハイトはウインクをした―。




 ★☆★




「……あ、あたしが帝国の……あなたの仲間に?」


「えぇ、そうよ! あなたは私の仲間になるの」


「……あなた、さっきのあたしの話を聞いて無かったのですか? あ、あたしのこの力はとても危険なのですよ?」


。心配しなくても大丈夫よ? あなたの力で傷つく程帝国の人間はヤワじゃないから」



 するとアーデルハイトはヘンリエッタの手を掴んだ。



「……や、やめて!!!」



 ―ゴオォォォ



 ヘンリエッタの両手から、白魔法と黒魔法が同時に出現した。



「…やっぱり、レグルスの言ってた事は本当だったのね……」


「……い、言ったでしょ? こ、これ以上あたしに近づかないで……もう放っておいてよ!」



 ―はぁ。



 アーデルハイトはため息を吐くと、なんとを出し手に持った。



「本当はこんな事したくはないのだけど……仕方ないから強引に行かせてもらうわ! レグルス、は任せたわよ……」



 え? アーデルハイトのやつ、今俺に何か言わなかったか―?




 —————————

 あとがき。

 最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!


【次回】武器を取り出したアーデルハイトは一体どうするつもりなのか!?


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