蒼月の節「穴熊のお嬢様」



 レグルスとアーデルハイトは、二人目の仲間をスカウトとする為、とある屋敷の前に居た。



「さてと、問題はどうやって屋敷の中へ入れてもらうかだが……」


「そんなの、普通に入れてもらえばいいじゃない」


「いや〜それがよ、普通に入ろうとしたらが拒否するんだよ。だからゲームでは強引に誘拐したんだが―」


「え、誘拐ですって!?」


「あー何でもねーよ! 忘れてくれ……」


「あのう……この御屋敷に何か御用でしょうか?」



 声の方へ振り向くと、そこには一人のおばさんが立っていた。

 格好からしておそらく、この屋敷の家政婦だろう─。



「すみません、この家のお嬢さん……の古い友人なのですが、たまたま近くを通りかかったので少しご挨拶しようと思って立ち寄ったんですよ!」


「あら、ヘンリエッタお嬢様の? それはそれは、わざわざご丁寧に……でも、あなた達の様なご友人が居るなんて全然知らなかったわ?」


「そりゃあそうですよ! だって、ヘンリエッタはとてもさんでしょ? だがら、僕達の事は家族にも内緒にしていたんだと思いますよ!」


「確かにそうね……お嬢様なら十分有り得ることだわ。あ、ここで立ち話でも何ですしどうぞ御屋敷の中へお入り下さいな」



 そう言って家政婦は門を開け、レグルス達を屋敷の中へと通してくれた。



「…ちょっと、何なのよ今の態度は? それに私は初対面のはずでしょ?」


「いいだったろ? こういう技も時には必要なんだぜアーデルハイト!」




 ★☆★




 ―二人は屋敷の中へと入った。



 豪華な内装に、壁一面に連なる絵画の数々。

 まさに豪邸と呼ぶに相応しい室内だった。


 二人は家政婦に連れられ、三階へと登った。


 三階には大きな扉がひとつだけあり、二人は扉の前へと案内された。



「ここが、お嬢様のお部屋です。三階のフロアは全てお嬢様の私室となっておりますの」


「ありがとうございます。後は僕達の方で何とかしますので、どうぞお構いなく」


「そうですか? では、私は一階に居りますので何か御用があればお声がけ下さい」



 家政婦はそう言って下へと降りて行った。



「こんな広い御屋敷なのに、さっきの家政婦さんとそのヘンリエッタ? って言う子しか住んでいないのかしら」


「いや、確か親父さんは実業家で世界中を飛び回ってて、母親は幼い時に死去。前に入った時はメイドも何人か居たし、今は買い出しかどっかにでも出掛けてるんだろ」


「…何であなたはいつも妙に詳しいのよ。それに前に入ったっていつの話よ?」


「まぁ細かい事は気にすんなって! さて、こっからが本番だぞアーデルハイト……」



 するとレグルスは、空間から何やら大量の荷物を出現させた。



「…何なのよこの沢山の荷物は?」


「ん、これか? 気になるなら開けてみな」



 アーデルハイトは荷物の箱を開けてみた。

 するとその中にはいろんな物が入っていた。



「本、絵画、お菓子の詰め合わせ、ぬいぐるみ、魔導書まで……ちょっと、一体何なのよこれ?」


「これはな、全部ヘンリエッタへのさ!」



 アーデルハイトが呆れた顔をする中、レグルスは部屋のドアをノックした。



「ヘンリエッタ? ヘンリエッタ=フォン=ヴェルグで合ってるよな? 俺はレグルスって言うんだ。今日はヘンリエッタに会いに来たんだ!」


「……」



 部屋からは返事がなかった。



「ちょっと、何の返事もないわよ?」


「やっぱりか……まぁ、予想はしてたけどな。じゃあ、じっくりと攻略して行きますかね〜」



 レグルスは荷物を部屋の前に並べると、またドアをノックした。



「ヘンリエッタ? 実は今日お近づきの印に、いろいろお土産を持って来たんだよ! ヘンリエッタの好きな本、絵画、お菓子の詰め合わせ、ぬいぐるみ、魔導書とかいっぱい持って来たんだぜ! 」



「……」



 すると、ドアの前に並べてあった大量の荷物が一瞬にして消えて無くなった。



「え、何今の!? 全部消えちゃったわよ?」


だな……ヘンリエッタが今全部自分の部屋に荷物を転移させたんだ」


「で、でも何で自分で直接受け取りに出て来ないのよ?」


「そりゃあ出て来る訳ねーよ! だってヘンリエッタは……」



「……黒ずきん」



 ―!?



 突然部屋から少女の声が聞こえた。



「お、気に入ってくれたか? 黒ずきんの童話好きだろ?」



「……ヨハンの絵画」

「……チョコレートの詰め合わせ」

「……グリフォンのぬいぐるみ」

「……最新の魔導書」



「あぁそうだ! 全部ヘンリエッタが欲しかった物ばかりだろ? 気に入ってくれたか!?」


「…レグルスと言いましたね? ここまであたしの好みを知り尽くすとは……一体何者ですか?」


「じゃあ一緒に外で話さないか? いろんな事話してやるよ!」


「……それは出来ません。あたしはこの部屋からは一歩も出ません」



 はぁ……これでもまだダメか……。



「ねぇ、レグルス。一体どういう事なの? 何でヘンリエッタは部屋から出て来ないのよ?」


「あぁ、言い忘れたな……ヘンリエッタは極度のなんだよ」


「ひ、引き籠もりですって!?」



 通称『穴熊』



 あまりの引き籠もりっぷりに、ゲームファンの間でヘンリエッタはそう呼ばれていたのだ。



「さーて、こっからが本番だぞアーデルハイト。何せ。穴熊を穴から引きずり出さないといけねーんだからな……」




 —————————

 あとがき。

 最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!


【次回】引き籠もりのヘンリエッタをレグルス達はどう対処するのか!?


 少しでも「面白い!」「応援したい!」「続きが気になる!」と思った方は、フォロー、★評価、レビューをして頂けますと作者の励みになりますので何卒。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る