蒼月の節「戦血の女帝」



 リアの圧倒的有利な戦況の中、アーデルハイトは考えていた。



 このまま闇雲に攻撃しても、あのとんでも聖女は強化した防御魔法で私の攻撃は防がれるし、仮に攻撃が通ったとしても自動回復で直ぐに体力を元通りにして来る……。


 特に私の雷だと、全くダメージにもならない。

 ここはやはり、素の攻撃で一気に決める以外私の勝ち筋は―無い!


 アーデルハイトは槍を振り回し、遠心力の勢いでリア目掛けて槍を振り払った。



 ―薙ぎ払い!



「……無駄だ」



 ―ガキィン



 リアの防御魔法の壁が、アーデルハイトの槍を防いだ。



「クッ……はあぁぁぁぁぁ!!!」



 アーデルハイトは槍を握る力を緩める事なく、自身の体ごと突っ込み防御魔法を押し壊した。



 ―よし、防御魔法を破壊した!



「だから、無駄だと言っておるだろ……」



 リアはアーデルハイトに向かって、を放った。



「―うっ!」



 魔法をモロに受けたアーデルハイトは、そのまま床に倒れ込んでしまった。



「はぁ……はぁ……うっ!」



 アーデルハイトは何やら苦しそうだった。

 息をする度に、どんどん体力が低下していった……。



 マジでエグい事するなぁリアのやつ。

 あの魔法はじゃねーか……。


 リアの放った魔法は、毒の効果を持つ魔法だった。

 毒を受けたアーデルハイトの体力は、毎分毎に体力が削られていく。


 既にリアの吸収を受けたアーデルハイトの体力は、毒の効果を合わせると半分にまで減っていた……。



「休んでる暇など無いぞムチムチ? さぁ、早く起き上がれ!」



 リアは毒を受けて苦しんでいるアーデルハイトに、更に追い討ちをかける様に吸収の魔法を使った。


 アーデルハイトの体力はリアの吸収によって体力を奪われ、更に毒の追加ダメージを負った。



「はぁはぁ、うっ……うあぁぁぁぁ!!!」



 アーデルハイトはついに槍を手から落とし、完全に倒れ込んでしまった。



 ―HP三分の一、既にだ。これはもう決まったな……。


 レグルスはアーデルハイトの負けを確信していた。

 リアもまた、余裕の笑みで勝ち誇っていた。



 だが、この時二人は気づいていなかった。


 アーデルハイトのスキルが、今この瞬間している事に―。




 ★☆★




 ―戦血。



 ラスボスであるアーデルハイトの持つスキル。

 その効果は、自身のHPが三分の一以下まで減少すると、を大幅に上げるというものだった。


 必殺とは急所、クリティカルと言った、相手の防御を無視して相手に致命傷を一気に負わせる効果だ。


 ラスボスであるアーデルハイトの物理攻撃力は、実はこのゲームのキャラクターの中でだった。


 脳筋ゴリラまたは脳筋女帝とファンの間では慣れ親しまれていたが、スキルを発動したアーデルハイトはまさに最強のラスボスだった。


 せっかくアーデルハイトを後もう少しの所まで追い込んだとしても、戦血の効果により必殺の確率が大幅に上がってしまう。


 ただでさえ、攻撃力の高いアーデルハイトに必殺が加われば、例えこちらが満タンのHPだとしても一瞬で消し飛ばされてしまうだろう。


 それ故に、アーデルハイトは鬼畜難易度と呼ばれる最強のラスボスであったのだ―。



 アーデルハイトが立ち上がった。

 しかし、何やら様子がおかしい。


 先程まであれほど苦しんでいたのに、今はその痛みすら感じていない様子だった。



「……あ、あぁぁぁぁぁ!!!」



 アーデルハイトの雄叫びが響き渡る。


 アーデルハイトの眼は赤く染まり、今までのアーデルハイトと呼べる面影は無くなっていた。



「な、なんだ? 一体何が起きたというのだ?」



 圧倒的有利でありながらも困惑するリア。

 同時に、レグルスまでもが驚いていた。



「マジかよアーデルハイト……いや、あれが本来のラスボスである姿か!」



 アーデルハイトは槍を手に握ると、凄まじい勢いでリアへと突進した。



「バカめ! 何度来ようと、さっきと同じ事の繰り返しだぞ!」



 リアは防御魔法の壁を展開したのだが……。



 ―バリィン



「―なっ!?」



 なんとあれ程頑丈だった防御魔法の壁は、アーデルハイトので全て破壊されてしまった。



「あぁぁぁぁぁ!!!」



 アーデルハイトは叫びと共に、リアへ槍を薙ぎ払った。



「ふっ、たかが防御魔法を破壊したくらいでいい気になるなよムチムチ!? 貴様の攻撃如き、防御魔法など無くとも簡単に―」



 ―ドゴォン!



 リアは壁へと吹き飛ばされてしまった。



「ガハッ!」



 激しく体を壁に打ち付けられたリアは吐血した。

 防御力上昇のバフを付与しているにも関わらず、この威力とダメージ。


 レグルスの眼は、リアのHPが一気に1になる瞬間を捉えていた。



「……アーデルハイトの必殺が出たな。リアのやつ、最初に念の為にを付与して正解だったな……じゃねーと、今の一撃で死んでたぞ?」



 あれ程までに有利だったリアとアーデルハイトの形勢はあっという間に逆転した。


 リアは既にボロボロの状態で、床に手を着いていた。



「はぁ……はぁ……よ、余の体力がもう僅かしか残っていない……自動回復も間に合わない―」



 すると、戦血により我を忘れたアーデルハイトがリアの前に立ち、とどめを刺そうとしていた。



 おいおいおい、アーデルハイトの奴まさか本気でリアの事をつもりなのか―!?




 —————————

 あとがき。

 最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!


【次回】暴走したアーデルハイトの前にリアの運命は!?


 少しでも「面白い!」「応援したい!」「続きが気になる!」と思った方は、フォロー、★評価、レビューをして頂けますと作者の励みになりますので何卒。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る