蒼月の節「疑惑の聖女」
アーデルハイトは一人先に、レグルスの瞬間移動で帝国へと戻っていた。
しばらく経つと、レグルスがリアと
「ちょ、ちょっと! 何なのよこの荷物の量は!?」
「知らねーよ! このとんでも聖女が、全部持って行くって聞かねーんだよ!」
「当たり前だ! 全て余の大切なコレクションなのだぞ!?」
レグルスは腹が立ったのか、荷物の箱を蹴り倒した。
すると倒れた箱の中からは、大量のぬいぐるみが溢れ出して来た。
「な、何をする!? 余の貴重なコレクション達だぞ!!!」
「うるせぇ! アホみたいにぬいぐるみばっか詰め込みやがって! 俺のあげた最古のクマちゃんだけ持ってろ!!!」
互いに睨み合う二人。
そんな中、アーデルハイトがレグルスへと近づいた。
「ねぇ、そう言えば修道院の人達はどうだったの?
「あぁ、全然全く何の問題も無かったぜ! むしろ
―少し前の修道院。
「本当に、本当にありがとうございます! どうか、聖女様をどうぞよろしくお願い致します!」
レグルスは神父から手を強く握られた。
周りでは多くの修道女達が
「…よっぽどみたいね。全く、とんでもない子を引き受けちゃったわ」
「おい、そこの
「む、ムチムチですって!?」
「うむ。お前は非常にだらしない体だ。
「だ、誰が牛よっ!? こ、このまな板!!!」
「―なっ!?」
リアの胸は、豊満なアーデルハイトの胸とは反対に
「う、うるさい! 余はこれからが成長期なのだ! それに余はスマートなのだ。
「誰がデブですって!? 私はね、
アーデルハイトとリアの間で火花が散る。
二人を余所目に、レグルスは一人ため息を吐いていた―。
★☆★
―リアの荷物は、帝国の兵士達によって全て運ばれていた。
だが、未だにアーデルハイトとリアの険悪モードは続いていた……。
「ちょっとレグルス、この子本当にあなたがそこまでして推薦したかった仲間なの? 何処が凄いのよこんな子」
「アーデルハイト、人は
「うむ。レグルスはよく余の事を分かっておる様だな! やはり、ムチムチの頭では余の凄さは理解出来ない様だの」
「何ですって!?」
またも睨み合う二人。
―しかし、アーデルハイトがここまでムキになる所は初めて見たな……まぁ、帝国の皇女だし今までこんなズガズガ言ってくる女の子は周りに居なかったんだろうなぁ……。
アーデルハイトの意外な一面に、レグルスは何やら満足気な表情だった。
「レグルス! あなたには申し訳ないけど、私はこんな子に推薦状なんて書けないわ。どこが凄いのよまったく……」
「フン! 余の方こそお断りだね。余の凄さが分からぬ愚か者など余の方から願い下げだわ」
「んー、じゃあそうだな。ここはひとつ二人で
腕試し?
アーデルハイトとリアは同時に答えた。
「あぁそうだ。仮に俺がリアの強さを全て語ったとしても、アーデルハイトは絶対信じないし納得しないだろ? だったら、直接戦って自分の身で体感する方が確実だと思うんだけど?」
レグルスの提案に少し考え込むアーデルハイト。
「…いいわ。あなたの言う通り、私自身の手でこの子の強さを確かめてあげる」
「良いのかレグルス? このムチムチが余に挑むなど、十年は早いぞ!」
「問題ねーよ。ってか、油断してると痛い目にあうのはリアの方かもしれないぜ?」
ほーん。
リアはそんな事信じられないと言わんばかりの顔で、アーデルハイトを睨んだ。
「まぁ、とりあえず戦ってみればお互い分かる事さ。じゃあ、とっとと始めようぜ!」
★☆★
―三人は訓練場へ移動した。
アーデルハイトは手に
リアも修道院から持って来た杖を手にしていたが、明らかにレアリティの低い杖だった。
「おい、リア。ちょっとその杖見せてみろ」
「ん、この杖か? ほれ」
―バキッ!
なんとレグルスはリアの杖を折ってしまった。
「何してくれとんじゃお前ぇぇぇぇぇ!?」
「まぁまぁ、落ち着けって。代わりに
そう言ってレグルスはリアに杖を渡した。
「―この杖は?」
「こいつは
「カドゥケウスの杖……」
杖を握るリアの表情は、明らかに何かの手応えを感じ取っている雰囲気だった。
これで
グングニルを構えるアーデルハイト。
カドゥケウスの杖を構えるリア。
二人の戦いのゴングが鳴った―。
—————————
あとがき。
最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!
【次回】皇女 VS とんでも聖女
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