蒼月の節「神とのレベル差」



 ―あれが、闘神オーディン……。



 その姿を見た瞬間、ギルベルトは思わずチビりそうになっていた。


 まだ、自分との距離が十分あるにも関わらず、既に首元に刃物を突きつけられている様な感覚。



 ―逃げろ、今すぐ



 体中がまるで警告音を出すかの如く、全身から汗と震えが止まらない。



「…無理だ。あんな化け物と戦うなど、出来るはずがない……」


「おい、ギルベルト。漏らすんじゃねーぞ? いや、もう既にか?」


「―ッ、だ、誰がチビるか!!!」



 クソッ! レグルスの奴め……何故あいつは、こんな状況でも平然としていられる!?



「おい、ギルベルト。アーデルハイトを見習えよ。お前、男として恥ずかしくねーのか?」



 レグルスの言葉に、ギルベルトはアーデルハイトの方へと視線を向ける。



 すると、そこには闘神オーディンを真っ直ぐと見つめ、槍を構えるアーデルハイトの姿があった。


 槍を持つ手は震えている。

 脚元も少し蹴れば、直ぐにでも崩れ落ちそうだ。


 だが、アーデルハイト瞳は、本気で闘神オーディンに勝たんとする闘志を秘めた眼差しだった。



 アーデルハイト様……。



 ―バチン!



 ギルベルトは自分の頬に気合いを入れた。


 しっかりしろギルベルト! お前は生涯、皇女であるアーデルハイト様に仕えると誓ったのだろ!

 そして、アーデルハイト様はいずれ帝国の女帝となられるお方だ。

 女帝の右腕となるこの俺が、こんな所で……に怖気付いてどうする!?



「えぇい! レグルス、帝国へ帰ったら覚えておけよ!?」



 ギルベルトも覚悟を決め、大剣を構えた。


 いいね〜この弱者が強者に挑む瞬間ってのは。


 ゲームでも、はじめて目の前にする強敵にはいつも心踊らされていたからなぁ―。



「あ、ひとつ言い忘れてたが、俺は戦いには参戦しないからな? 闘神オーディンはだけで倒してくれよな!」



 アーデルハイトとギルベルトの額から汗が流れる。武器を握る手の力もより一層強くなる。


 そして、オーディンは武器を構える二人へとゆっくり視線を向けた。



 ―ガキーン



「……なっ」



 オーディンは一瞬でギルベルトの元へと移動した。

 オーディンの槍の突きを辛うじて防いだギルベルトだったのだが―。



 ズズズズ―ドンッ!



 オーディンの力強い突きに耐えられなかったギルベルトは、そのまま突き飛ばされてしまい、森の大木へと体を打ち付けられた。



「ギルベルト!?」



 するとオーディンは、またも一瞬でアーデルハイトの元へと移動した。



「―クッ、この……」



 反射的に槍をオーディンへと振ろうとしたアーデルハイトだったが、オーディンの手から放たれた衝撃波によっていとも簡単に吹き飛ばされてしまった。



「うぅ―ッ!」



 光るキノコの上で、何食わぬ顔で座っているレグルスの目の前までアーデルハイトは飛ばされた。



「……んー流石のレベル差だなこりゃ」




 ★☆★




 ギルベルトとアーデルハイトは、オーディンによってあっという間に瀕死状態まで追い込まれてしまった。



「―まぁ、このレベル差じゃあ始めから分かりきってた事だけどな……」



 ―上回復。



 レグルスは大木に打ち付けられたギルベルトと、目の前で倒れ込んでいるアーデルハイトを回復させた。



「はいはいはいはい! 二人共、さっさと起きなさい! 戦いはまだ始まったばかりですよ〜」



 レグルスの言葉に二人は武器を手に持ち、ゆっくりと立ち上がった。


 すると、オーディンがレグルスの方へと視線を向けた。



「―あぁん? なんだ、俺と闘いヤリてーのか?」



 レグルスが不気味な笑みを浮かべると、なんとオーディンは一歩下がってしまった。



 ……やっぱりな、こいつもゲームと同じ敵キャラの行動心理か。



 レグルスの瞳は、オーディンのレベルを映し出していた。



 闘神オーディンLv50。


 アーデルハイトとギルベルトLv20。



 通常の敵のNPCは、基本自分よりもレベルの低いキャラクターから倒そうとする。


 逆に、レベルの高いキャラクターに対しては、そのレベル差があり過ぎると攻撃しない又は逃げる行動をとる。


 今オーディンは、Lv100のレグルスとの圧倒的な差を感じ取って後ろに下がった。

 例えレグルスがこの場で眠り込んだとしても、オーディンがレグルスに攻撃をすることは一生無いだろう。


 だからこそ、今回の修行は


 オーディンがアーデルハイトとギルベルトに攻撃を集中して、二人とだけ戦う状況さえ作れればそれでいい―。



「おい、ぼさっとしてる暇はねーぞ?」



 するとオーディンは、まだ武器を構えていないアーデルハイトへと突っ込んだ。



 ―ガキィン!



「…アーデルハイト様には、これ以上触れさせんぞ……っ!」


「ギルベルト……」



 オーディンの攻撃をギルベルトは必死に防いだ。


 その姿を見たアーデルハイトにはよりいっそう眼に力が入った。



 ―雷!



 アーデルハイトから放たれた稲妻がオーディンへと直撃した。

 だが、オーディンは直ぐに体制を整える。



「アーデルハイト様、こうなったら二人で上手く共闘して闘神を倒しましょう」


「…えぇ。オーディンを絶対倒すわよ!」



 そうだ、それでいいんだ。



「もし、お前達がオーディンを倒した時には、今の倍は強くなるんだからよ……」




 —————————

 あとがき。

 最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!


【次回】レグルスの常識外の内容が明らかに!?


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