蒼月の節「禁断の森」



 ―翌夜。



 レグルスとアーデルハイト、そしてギルベルトの三人は城門の前へと集合していた。



「なんだ? ギルベルトも一緒に来るのか?」


「当然だろ。アーデルハイト様が命懸けとあらば、この俺が同行しない理由などない」


「ふーん、まぁいいけど死んでも知らないぜ?」


「安心しろ。俺は死なん」


「はいはい、二人共その辺にしといてちょうだい。それでレグルス、あなた修行って言ってたけど……一体私達を何処へ連れて行くつもりなの?」


「ふふふ、まぁそれはって事で! じゃあお前ら、俺の肩に手を置きな」



 アーデルハイトとギルベルトは、不思議そうな表情をしながらレグルスの肩へと手を置いた。



「じゃあ行くぜ……命懸けの修行にな!」



 ―瞬間移動。



 レグルスの声と共に、三人の姿は消えた―。




 ★☆★




 三人は、何処かの森の中へと転移していた。


 夜の森は真っ暗だが、森に生えるキノコ達が発光しており、なんとも幻想的な雰囲気だった。



「…あなた、瞬間移動も出来るのね」


「まぁな。一瞬だったろ?」


「…ここは、森の中か? おい、レグルス。ここは一体何処の森なんだ?」


「あーそうだったな……ここはだ」



 ―なっ!?



 禁断の森と言う言葉に、アーデルハイトとギルベルトの表情が一変した。



「おいっ! レグルス、お前正気なのか!?」



 ギルベルトはレグルスの胸ぐらを掴んで、何やら血相を変えた様子だ。



「…だから言ったろ? だって」


「―くっ! だが、しかし……」


「…ねぇ、レグルス。まさかとは思うけど、あなたの言っていた修行って―」


「あぁ、そのだぜアーデルハイト。お前達にはここでと戦ってもらう」



 ―闘神オーディン



 この世界に存在する、七体の闘神達。


 そのうちの一体が、この禁断の森に住むオーディンだった。


 闘神とは、この世界の聖典に記されている蛮神と呼ばれた神達の亡霊の事だ。


 かつて、この世界を破滅へと追い込んだ蛮神達を、後の聖典で英雄とされる戦士達が討伐。


 しかし、蛮神達の邪悪なる魂は肉体を失ってもなお亡霊としてさ迷い続けた。


 そんな亡霊達を、英雄達は世界各地へと封印していたのだ。


 その封印場所のひとつこそ、この禁断の森。


 聖典の物語は、この世界の人々は子供の頃から読み聞かされており、当然アーデルハイトもギルベルトも闘神達の事はよく知っている。



 ―亡霊の住む場所には決して近づくな。その先には死しか待っていない。



 そんな、決して踏み入れてはならない場所へ転移したレグルスに対しての、ギルベルトの対応は至極当然なものであった―。



「……はぁ。あなた本当にやってくれたわね」



 アーデルハイトは地面へと腰を落とした。



「アーデルハイト様、今すぐこの場所から離れましょう! こんなの正気の沙汰ではない!」


「あれぇ? 何、もう帰りたいの? ってか、そんなに闘神にプルっちゃってるのかよ」


「黙れ! レグルス、お前は何も分かっていない。闘神へ挑むなど、ただのだ」


「…おい、アーデルハイト。ギルベルトの言う通り、諦めて帰るか?」


「私は……」


「アーデルハイト様! レグルスの言う事など無視して下さい! 一刻も早くこの場所から離れるべきです!」


「どうするアーデルハイト。ここでか?」



 アーデルハイトは少し黙り込んだ後、ゆっくりと立ち上がり槍を構えた。



「…上等よ。レグルス、あなたの言う通り私は逃げたりしない。闘神オーディンと戦って勝ってみせるわ!」



 アーデルハイトの言葉に、レグルスはニヤリと歯を見せた。



「あ、アーデルハイト様!? どうかお考え直しを! 闘神オーディンと戦って勝つなど、不可能です!」


「あー悪いけどギルベルト。みたいだわ」


「―なっ!?」



 ギルベルトはゆっくりと背後に顔を向けた。


 視線の先には、暗闇の森の中からゆっくりと、こちらに歩いてくるおぞましい漆黒の鎧の戦士の姿があった。



 出て来たな闘神オーディン。

 さて、早速命懸けの修行を始めるとしますか!




 —————————

 あとがき。

 最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!


【次回】闘神オーディンとバトル開始!


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