桜花の節「男の決闘」
レグルスとギルベルトは、訓練場で決闘の準備を行っていた。
あぁ……なんでこんな事になったんだ? 面倒くさ。
「ちょ、ちょっと、ギルベルト! あなた本気なの?」
「…すみませんアーデルハイト様。しかし、俺はこの目で確かめなければならないのです……」
あのよそ者が、アーデルハイト様の指導者に相応しい本当の強さの持ち主なのかを……。
「おい、よそ者……」
ギルベルトは、レグルスに木刀を投げ渡した。
「フッ、決闘って言うからてっきり
「本来ならば俺もそうしたい所だが……アーデルハイト様のご意向だ。命拾いしたなよそ者」
「へっ、なんならお前だけ真剣でもいいんだぜ? ハンデをくれてやるよ」
「ぬかせ。お前なんぞこの木刀で十分だ……」
両者が中央で向かい合う。
立ち合いにはアーデルハイトが二人の間に立っていた。
「いい? どちらかが負けを認めるか、戦闘不能になったらその時点で終わりよ? もし、私が途中で危険だと判断したら止めるからね」
「俺が勝ったら、よそ者のお前にはアーデルハイト様の指導者から降りてもらい……そしてこの国からも即刻出て行ってもらうぞ」
「ふーん別にいいけど、じゃあ俺が勝った時はお前はどうしてくれんだよ?」
「……お前の望みを
「オッケー。決まりだな……」
レグルスは爽やかな笑みを浮かべた。
対象にギルベルトは自信満々たる堂々とした表情だった。
ギルベルトが決闘を行うと聞きつけて、城中の兵士達が続々と集まっていた。
訓練場はあっという間に多くのギャラリーで埋め尽くされていた。
「おい、ギルベルト様とあの男。どっちが勝つと思う?」
「そりゃあお前、ギルベルト様に決まってるだろ? 帝国一の兵士と言われているお方だぞ?」
「だよなぁ……じゃあこの勝負は見えたな」
「なら賭けるか?」
「馬鹿言え! こんな出来レースに賭けてどうすんだよ?」
「いや、でもあの男……どうやらアーデルハイト様が直々に指導者に任命されたらしいぞ?」
「それは本当か!? まさか、そんなに強いやつなのか?」
「さぁな。だが、どっちにしろギルベルト様には敵わんだろう……」
訓練場がざわつく中、アーデルハイトが手を上げた。
一瞬で場内が静まりかえる。
ギルベルトは木刀を構えた。
反対にレグルスは、木刀をクルクルと回しながら余裕の笑みを見せていた。
「それでは……はじめっ!」
アーデルハイトの声が上がる。
ギルベルトは隙のない構えでレグルスの様子を伺っていた。
「おい、デカい口聞いてた割には随分と慎重じゃねぇか?」
「お前こそ、そんな隙だらけの構えで平気なのか?」
「ん? あぁ、俺はこれで十分よ。それより早くかかって来いよ、ギルベルト
後悔するなよ―。
ギルベルトは、もの凄い勢いでレグルスに突っ込み木刀を振るった。
─ヒュッ
すると、レグルスの姿は一瞬で消えギルベルトの背後へといつの間にか立っていた。
「はい、一本」
─バシッ!
レグルスの振り下ろした木刀は、ギルベルトの背中を叩くとそのままギルベルトは床に倒れてしまった……。
★☆★
訓練場がざわついた。
痙攣しながらゆっくりと起き上がったギルベルトも、何が起こったのか分からない様子みたいだ。
アーデルハイトも思わず息を飲み込んだ。
「…おい、もう終わりなのかよ?」
「——ッ! このよそ者があ!!!」
ギルベルトの激しい猛攻がレグルスを襲う。
しかしレグルスは、欠伸をしながら片手でギルベルトの攻撃を余裕で防いでいた。
その光景に周りの兵士達は皆唖然としていた。
―クソっ! 何故だ……何故俺の攻撃が全く当たらないのだ!?
開始直後までは自信満々だったギルベルトの表情も、今ではすっかり冷静さを失っていた。
認めん、認めんぞ!? この俺が、こんなよそ者より遥かに劣るなど―。
「なあ……そろそろ終わってもいいか?」
「―なっ」
ギルベルトはレグルスのその眼に一瞬凍りついた。
まるで
圧倒強者の前で、為す術なく震えて立ち止まるしかない弱者。
そしてこの時、ギルベルトがレグルスに恐怖を抱いた時点で勝敗は既に決まってしまった─。
「喰らえ! 必殺・・・
木刀を捨てた、レグルスの鋭い指先がギルベルトのおしりの穴へと直撃した。
―グハァん!!!
ギルベルトは完全に気を失いその場に倒れ込んでしまった……。
「しょ、勝負あり!!!」
この決闘はレグルスの勝ちとなった─。
★☆★
―ギルベルトは少しして目を覚ました。
「…ギルベルト?」
目の前にはアーデルハイトの顔があった。
「…アーデルハイト様……申し訳ございませんでした……」
「お、気がついたか? 早速で悪いが、俺の言う事何でも聞いてくれるって約束だったよな?」
「ま、待ってレグルス! お願い、ギルベルトを許してあげて! 彼に悪気はないのよ……」
「アーデルハイト様……お、おやめ下さい。俺から申し出た事です……約束は必ず守ります」
「流石ギルベルトちゃん! そういう所は嫌いじゃないぜ?」
「…さぁ、早く言え。俺を煮るなり焼くなり好きにしろ……」
―じゃあ、遠慮なく。
「俺を
レグルスの欲求に、アーデルハイトとギルベルトは呆然とした。
「―そんな事でいいのか? お前は俺の事が憎いのでは無かったのか……?」
「あ? 別に憎くはねーよ。ただ、よそ者って言い方が気に入らなかっただけだし」
アーデルハイトは思わず、ぷッと笑った。
ギルベルトも何故か口元が少し緩んでいた。
「…分かった。今までの無礼を詫びよう……すまなかったな、レグルス殿」
「水くせーな〜レグルスでいいよ! それになかなか良い攻撃だったぜ? ギルベルト!」
レグルスとギルベルトは互いに握手を交わした─。
「まったく……世話のやける男達ね……」
—————————
あとがき。
最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!
【次回】命懸けの修行がはじまる!?
少しでも「面白い!」「応援したい!」「続きが気になる!」と思った方は、フォロー、★評価、レビューをして頂けますと作者の励みになりますので何卒。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます