桜花の節「甘い香りの帝国」



 レグルスはアーデルハイトと共に帝国へと入国した。

 巨大な正門は、圧巻の造りであった。



「へぇ〜直接見るとやっぱりすげーな! ゲームでは、この正門から突破したんだよなあ……」



 帝国は多くの人々で賑わっていた。やはり大陸一の巨大国家なだけはある。



「…どう? はじめて見る帝国のご感想は」


「んーまぁ、思ってた以上かな? でも、やっぱり生はすげぇよ!」


「…よく分からないけど、気に入ってもらえたなら良かったわ」



 不思議そうな顔をするアーデルハイト。

 そんな中、俺はある物に目が止まった。



「おい、これって……もしかして帝国名物のマフィンじゃねーか!?」



 店の前に陳列された、マフィンの前でレグルスは立ち止まった。

 マフィンの甘い香りがレグルスの食欲を刺激していた。



「あら、よく知ってるわね。これは帝国マフィンよ……私も小さい頃からよく食べていたわ」


「あぁ、これみんな好きだよな。俺も一度でいいから食べてみたいと思ってたんだよなぁ……」



 美味しそうな顔でマフィンを眺めていると、アーデルハイトが仕方ないわねと、お金を取り出した。



「あれ? お金なんて持ってたのか?」


「マフィンを買うくらいの手持ちはあるわよ……」


「え、もしかして奢ってくれんの?」


「そうね……じゃあ、これで助けてもらったでどうかしら?」



 なんつー安い借りだよそりゃ!

 ニヤニヤしながら見てくるアーデルハイト。

 けど、手持ちが無い俺にはマフィンを買う機会は今しかない―。



「しゃーねぇな。じゃあ、それでチャラにしてやるよ!」


「フフフ、なら好きなマフィンを選びなさい。でも二個だけよ?」



 ―ったく。



「いらっしゃいませ! どのマフィンになされますか?」


「そうだなぁ……じゃあイチゴのチョコチップのやつを二個で!」


「はーい! 毎度、ありがとうございました!」



 二人はそのまま近くのベンチへと座った。



「…他にもたくさん種類はあったのに、二個とも同じ味で良かったの?」


「ん? あぁ、構わねーよ。それにアーデルハイトも好きだろ? イチゴのチョコチップ味のマフィン」


「……え?」



 レグルスは両手に持っていた片方のマフィンをアーデルハイトへと差し出した。



 「あ、ありがとう……」



 アーデルハイトは何やら恥ずかしげにマフィンを受け取った。

 レグルスは早速マフィンへとかぶりついた。



「うんめェな! このマフィン! 最高だぜこりゃ!!!」


「そ、そうね……」



 アーデルハイトも一口マフィンをかじった。



「…ねぇ、レグルス。どうして私が、この味のマフィンが好きって分かったの……?」


「ん? あぁ、それは攻略サイトで―」


「え?」


「あぁ、違う違う! 何となくだよ! 何となく」


「何となくねぇ……」



 ふーっ……危ないところだった。

 ついうっかり、生前のゲーム攻略サイトの事を話す所だったぜ……。



 二人はマフィンを食べ終わると、いよいよ帝国の王城へと辿り着いた─。



「おぉ! これが赤城と呼ばれる有名な赤レンガの城か!」


「えぇそうよ。帝国の紋章でもある、双頭の赤鷲から影響を受けて建てられたとされているわ」



 城門へと近づくと、門番がアーデルハイトを見るなり敬礼をした。



「アーデルハイト様、おかえりなさいませ!」


「えぇ、ただいま」


「失礼ですが、そちらのお連れの方は?」


「あぁ……私の友人よ。今日帝国へ着いたばかりなのよ」



 どうやらアーデルハイトは俺を友人として城へ迎えるつもりらしい。



「そうでありましたか……ですが、一応お手待ちの検査を。それに陛下のお耳にもご報告致しませんと……」


「平気よ。全て私が責任を取ります。彼をこのまま通しなさい」


「は、はい! 承知致しました」



 流石アーデルハイト。

 皇女たる気迫で、門番を押し通すとはな……。


 俺はアーデルハイトと共に門を通り抜けたが、門番は不審な目で俺をずっと見ていた。



「…大丈夫なのか? 俺みたいながいきなり城へ入り込んで」


「問題ないわ。それにレグルスは私の指導者になる約束でしょ? こんな所でいちいち足止めなんてされたくないのよ」


「まぁ、アーデルハイトがいいなら俺は何も気にしねぇけどさ……」



 アーデルハイトはレグルスを客間にへと案内した。


 さすが帝国、客間もご立派な内装だこと。



「…少しここで待っていてちょうだい。お父様……陛下に一応報告と許可を得た後に、何かお茶でも持ってくるわね」


「あぁ、わかったよ。じゃ、のんびりと寛がせてもらうとするわ!」


「フフフ、ちゃんといい子にして待ってるのよ?」


「おい、俺はガキじゃねーぞ」



 アーデルハイトは微笑みながら客間を後にした。



「ふーっ……なんとか上手くここまで来れたぜ」



 正直こんなにも上手くことが進むとは思ていなかった。

 帝国軍へ入ると言っても、そんな容易な事じゃねぇからな。

 最悪、少々強引な手でも使おうかと思ってたくらいだ。

 それが、予想以上に早くアーデルハイトと出会えたのがデカい。

 普通、ラスボスとあんな所で遭遇するなんて思いもしなかったもんな……。



「これで俺も本格的に帝国側の人間だな……」



 もうゲームの通常のシナリオの様に、俺が王国の英雄となる事は無くなった。


 そして、この先アーデルハイトと戦う事も多分無いのだろう―。


 この時、レグルスの頭では何故か脳内でアーデルハイトの笑顔が浮かんでいた─。



「…おい、そこのお前。そんな所で何をしている?」


「……ん?」



 突然背の高い男が客間に入って来た。

 しかし、レグルスにはその男に見覚えがあった。



 あれ、こいつどっかで見た事があるぞ……誰だっけな?




 —————————

 あとがき。

 最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!


【次回】謎の男の正体とは!?


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