桜花の節「皇女との出会い」



「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」



 盗賊達が悲鳴を上げる中、レグルスの炎によってその姿はあっという間に燃やされ灰となってしまっていた……。



「後はお前だけだ」


「…な、何なんだよてめぇは……い、一体何者なんだよぉ!?」



 するとレグルスは不気味な笑みを浮かべなが顔を手で覆い隠し、指の隙間から眼を光らせながら答えた。



「我が名はレグルス。この世界に降臨せし新たなる星の輝き。今日俺に出会ったのがお前の運の尽き……獅子の前に震えて眠れ」



 レグルスはゆっくりと盗賊頭の元へと歩を進める。


 顔を真っ青にして後ずさりする盗賊頭に、もはや為す術は何もなかった。



「——チッ、畜生がっ!!!」


「……あん?」



 盗賊頭は、弱りきったアーデルハイトの首元に刃物を押し付け人質にした。



「そ、それ以上近づくんじゃねえ! さもねぇと、この女をぶっ殺すぞ!?」



 ―はぁ。


 レグルスは深いため息を吐いた。



「あのなぁ。漫画みてーな間抜けな悪役の真似するんじゃねぇよ。そんな事して何になるってんだ?」


「う、うるせえ! てめえもこの女が目当てだろ!? 殺されたくなけりゃあ、黙って俺様の言う事を聞きやがれ!!!」



 はぁ……マジで盗賊のNPCって、現実でも頭悪いんだな―。



 レグルスは一瞬で盗賊の背後へと移動した。



 ―は?



「お前は



 盗賊頭の視界がぐるりと180度回転した。

 何が起きたかまるで分からない表情のまま、盗賊頭の首は地面へと落ちた……。



「ふー。ほんと、つまらねぇもん斬っちまったぜ……」


「…あ、あなたは一体……?」


「おっ、大丈夫か? 盗賊達にけっこうやられてたみたいだが……」


「へ、平気よ。こ、このくらい……ッ!」


「おいおい、無理すんなよ。骨にヒビでも入ってんだろ? ほら、じっとしてろ……」



 ―回復。



「……ウソ、怪我が完全に治ってる!?」


「これでもう大丈夫だな……立てるか?」



 レグルスはアーデルハイトに手を差し伸べた。

 アーデルハイトはレグルスの手を取ると、ゆっくりと立ち上がった。


 こんな光景、ゲームのシナリオだと絶対に拝めない瞬間だ。

 本来敵同士である二人が、花畑の中で手を取り合っているのだから─。



「…助けてくれてありがとう。改めて、心より御礼申し上げるわ」


「気にすんな。実はアンタに用があってこの帝国に来たんだ……」


「私に……?」



 さーて、ここからが本番だぞ。


 ここは俺の今後を左右する重要な分岐点だから慎重に言葉を選ばねぇとな……。



「実は俺、帝国軍に入りたいんだ」


「帝国軍に? あなた、傭兵か兵士なの?」


「いや、傭兵でも兵士でもない。実はよぉ……王国から追放されたんだわ俺」


「つ、追放ですって!?」



 アーデルハイトは思わず声を上げ驚いた。



「でも追放って……あなた、一体何をしたのよ?」


「べ、別に何もしてねーよ? ただ、つい王様にタメ口きいたら追放されたんだよ!」



 タメ口をきいて追放……。



「プッ…フフフフフフッ」


「おい、笑うなんて失礼だろ?」


「ご、ごめんなさい……でも、タメ口をきいて追放された人なんて今まで聞いた事ないわよ……フフフ」


「し、知らねーよ! あのハゲ王の頭の沸点が低すぎんだよ!!! お陰でこっちはこんなあり様だぜ!?」


「フフフ……面白いのねあなた……でも、あなたのその強さには正直興味があるわ」


「ほ、ほんとか? なら、俺を帝国軍へ入れてくれるか!?」


「そうねえ……私を助けてくれた借りもあるけど、その代わりがあるわ」


「…条件?」



 するとアーデルハイトは俺の目を間近で見つめて言った。



「あなたが私の専属の指導者になるの!」


「お、俺が指導者だって!?」


「そうよ。あなたはとても強い。だから私の事も鍛えて欲しいの!」



 思いもよらない提案だった。

 まさかアーデルハイトの指導者とは―。


 それは俺の手でって事だよな?

 でも、ここで断ればアーデルハイトの性格だ、絶対に帝国軍へは入団させてくれないだろう……えぇい! ここは仕方ねぇか。



「しょうがねーな……いいぜ? その提案引き受けてやるよ!」


「ほ、本当に!? よかった……」


「ただし、ちゃんと指導料と俺の住む部屋は用意してもらうからな?」


「えぇ、もちろんよ。約束するわ」



 アーデルハイトは手を差し出した。

 そしてレグルスもその手を握り、二人は正式に契約を結んだ。



「改めてよろしくね……えっと―」


「レグルスだ。レグルス=レオンハート」


「レグルスね。私は……」


「アーデルハイトだろ? アーデルハイト=フォン=シュパーニエン」


「えぇ。まあ、みんな知ってるわよね」


「まぁ、次期帝国の皇帝だもんな!」



 アーデルハイトはその言葉に、一瞬だけ表情を曇らせた。



「…どうかしたのか?」


「い、いえ、何でもないわ……それより、帝国へ戻りましょうか。色々報告もあるしね」


「そうだな……じゃあ改めてよろしくな、アーデルハイト!」


「えぇ、こちらこそよろしく。レグルス!」



 さて、いよいよ敵国へ入国か……これは気合い入れねーとな!



 そして、二人は帝国へと向かって行った─。







 —————————

 あとがき。

 最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!


【次回】ついにレグルスが帝国へ入国!


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