桜花の節「不穏の影」



 帝国直前で、俺は原作のラスボスであるアーデルハイトと遭遇してしまった。


 やっぱり何度見ても、あの金髪にデカいおっぱいはアーデルハイトで間違いないよな……?



 エリスリーゼ帝国皇女、アーデルハイト=フォン=シュパーニエン。


 五年後に女帝となり、主人公のレグルスと最終戦争で戦う原作最強のラスボス。



「…確か今は、俺と同じ十七歳か? ラスボス戦で見た時よりも、普通に可愛い女の子なんだなぁ……」



 俺は木の陰からしばらくアーデルハイトを眺めていた。


 まさかこんな可憐な少女が、将来世界を破滅へと導くラスボスになるなんて、誰も思いもしないだろうな。


 その美しい容姿は、ラスボスでなければ十分ヒロイン候補のレベルだ。

 もし、ゲームのラスボスでなければ結婚イベントで婚約を申し込んでいたに違いない。



「しかし、どうすっかな……。帝国軍へ入るなら、今アーデルハイトと遭遇したのは絶好のチャンスだが……問題はどうやって頼むかだよなぁ……いきなり土下座でもして頼み込むか?」



 ……ダメだ、いい案が思いつかねぇ。



 すると、アーデルハイトが何かに気づいた様に立ち上がった。

 しかも彼女は、片手に愛用の槍を持っている。



「……そこに居るのは誰? 私に何か用かしら」



 ─え、もしかしてバレた? 嘘だろおい。

 しかもアーデルハイトのやつ、槍を握ってやがる。

 いきなり警戒モードとか最悪じゃねぇか! どうすんだよ俺……。




「…へへへ、さすがは皇女様。いい感度してるねぇ」



 何やら物騒な輩達が、別の木の陰から続々と出て来た。



 …ん? 気づかれたのは俺じゃなかったのか? ってか、何だよアイツらは? 格好からして……もしかして盗賊か?



 アーデルハイトはあっという間に、五人の盗賊達に囲まれてしまった。



「…あなた達盗賊ね? 残念だけど、私はお金なんか持ってないわよ?」


「へへへ、生憎俺達が欲しいのは金じゃねぇ……アンタだよ皇女様!」


「私? 私を捕らえて何になるのよ」


「そりゃあちょいと秘密で言えねぇな。まぁ、あんたは大人しく俺達に捕まってくれればいいんだよ……」



 盗賊達は武器を取り出した。

 舌を舐めながら、不気味な笑顔で徐々にアーデルハイトとの距離が縮まっていく。



 あーあ、馬鹿なヤツらだ。アーデルハイトの強さなら、あんな盗賊達なんぞ瞬殺されるぞ? ここは大人しく様子でも見てるか……。



「それ以上私に近づいたら、容赦しないわよ!?」



 アーデルハイトは槍を構えた。



「おー怖い怖い。仕方ねぇ、少しだけ痛い目にあってもらおうか?」



 盗賊達がアーデルハイトへと襲いかかる。

 一人の盗賊の刃物が振り下ろされた。


 アーデルハイトはすかさず槍で防御する。


 しかし、間髪入れずに別の盗賊が斧で襲いかかる。

 紙一重で攻撃をかわすが、また別の盗賊が襲いかかった。

 そして盗賊の蹴りが、アーデルハイトの脇腹へと入った。



「くっ……!」



 攻撃を喰らったアーデルハイトの体勢が崩れる。

 その間盗賊達は、一斉にアーデルハイトに殴打を繰り出した。


 アーデルハイトは必死に槍でガードするが、防戦一方だった……。



 …おいおい、どうしたんだアーデルハイト!?

 お前の強さなら、こんな盗賊達なんて瞬殺のはずだろ?

 それに、なんでさっきから得意技の『雷』を使わねーんだ?


 

 アーデルハイトには通称『稲妻の女帝』と呼ばれる二つ名があった。


 それは彼女が得意とする魔法で、無数の強力な雷を繰り出し、敵を圧倒する姿からそう呼ばれていた。


 しかし、アーデルハイトはこんな不利な状況にも関わらず、まだ一度も魔法を使用していない。

 それどころか、全体的に動きが鈍い。

 最強のラスボスである、アーデルハイトとは見る影もなかったのだ。



「…もしかして、まだレベルが低いのか?」



 俺はすぐに、相手のレベルを見れるかどうか目をよく凝らして試してみた。



 アーデルハイトLv5。


 盗賊Lv7。


 盗賊頭Lv9。




 ——なんてこった。


 アーデルハイトのやつ、まだ初期レベルのままじゃねーか!


 それなら動きが鈍いのも、魔法を使わないのも無理はない。


 まだ得意の雷をんだ。


 訳も分からずこの世界に転生したが、もしかしてこの世界では俺だけがLv100のままなのか? だとしたら、アーデルハイトのやつこのままだとヤバいぞ!?



「うっ……」



 ついにアーデルハイトが倒れてしまった。

 だいぶダメージを負っており、槍を手にする力さえも残されていなかった。



「ヒヒヒ……なぁお頭、少しだけ楽しんでもいいっすかね? こんな上玉な女なかなか味わえないですぜ?」


「確かにそうだなぁ……よし、まずは俺様が楽しんでからだ! お前らはその後だ……一応大事な商品だから、程々にな?」



 ―ゲス野郎共が。


 アーデルハイトはラスボス……この世界では最悪の悪役だ。本来なら助ける道理なんて俺にはねぇさ。


 でもよぉ……可愛い女の子が目の前でこんな目に合ってるのに、見過ごす様な男を俺はもっと許せねぇよな!?



「おい、このゲス野郎共っ!!!」



 レグルスは木の陰から飛び出した。

 盗賊達とアーデルハイトの視線が一気にレグルスへと向けられる。



「…なんだてめぇは?」


「その子から離れな腐れゲス野郎共。さもねぇと……殺すぞ?」



 レグルスの言葉に盗賊達は、大笑いした。

 そして一人の盗賊がレグルスに刃物を突きつけた。



「おいおい、兄ちゃんよぉ〜あんま調子こいてると、その綺麗な顔に傷がつくぜぇ?」



 するとレグルスはゆっくりと盗賊の肩に手を置いた。



 …あん?


 ―ボッ



 次の瞬間盗賊は一瞬に燃え上がり灰と化した。

 その光景に、一気に盗賊達は動揺する。

 アーデルハイトも目を見開いて驚いた表情だった……。



「たかが初期魔法の炎でのこのザマかよ……」


「―な、何なんだてめぇ!? 一体、何者だ!」



 …ん、俺か? そうだなぁ……んーなんて答えよう? そうだ! どうせならもっとかっこ良く行くか!? アーデルハイトも見てるし、ここはめちゃくちゃかっこいい英雄の演出といこうじゃねーか!!!




 —————————

 あとがき。

 最後までご高覧頂きまして、ありがとうございます!


【次回】レグルスの厨二病炸裂!? そしていよいよアーデルハイトとご対面!


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