カレ・ルコウソウ
「いいですか!ちょっとでも変な動きをしたら、即刻首を刎ねますからね!」
俺の左後ろを歩くカレさんは、語気を強めてそう言うが、おおよそこんな街の往来で聞くセリフではないだろう。いくら監獄の近くだからといっても、店もあれば人も歩いている。
しかし、彼女の手は事実、常に太刀の柄を握っており、臨戦態勢といった様子だ。
「あの……周りの人が怖がってます」
「いざという時に彼らを守るためです。それより、はやく魔族を殺したという場所まで行きなさい」
「……もうすぐです」
なんで、こんなことになってしまったのか。
本来ならば俺は今日、城の地下にあるというダンジョンに行っていたはずなのに。
カレさんからの殺気をヒシヒシと感じながら、俺は朝のことを思い出す。
「……昨日は申し訳ありませんでした。とても失礼な発言だったと反省してます」
「そんな!頭を上げてください、カレさん。私たちもお城に招待されて舞い上がってましたし……お互い様ということで」
「まあ、初対面のダンジョン配信者がいきなり王様とお風呂に入るなんて、警戒しない方がおかしいわよ」
「そうだね。僕もカレさんの気持ちは理解できるよ」
「皆さん……ありがとうございます」
最高の食事に最高の風呂、そして最高のベッドを体験した翌日の朝。朝食の用意があるということで食堂へと赴くと、入り口の前でなにやらカレさんとフゥ達が話をしていた。
「……なんかあったの?」
「あ、ミユウさん。昨日、お風呂で少し……でも、もう解決しました」
俺にいち早く気付いたフゥが手早く説明してくれるが、既に問題は事なきを得たらしく中身についての情報は特になかった。が、それにしてはカレさんが妙に俺のことを睨んでいる気がするのだが、文字通り気のせいだろうか。
「ま、解決したならいいけど……」
「なんだァ?朝からドアの前で皆んなして集まって。なんかあったのか?」
遅れてやってきたのは、昨晩遅くまで仕事をしていたためか随分と眠そうな顔をしているハバネルだ。後ろにはスティもいる。おそらくどこかで鉢合わせてから一緒に来たのだろう。
「俺もよくわからないけど、もう解決したらしいよ」
「でも……カレさんがすごい剣幕でミユウさんのこと見てるけど。ほんとに大丈夫なの?」
やっぱりそうだったか。スティの目からもそう見えているということは、俺の気のせいではないということだ。
心当たりは当然ある。
スパイダーが王を襲った件だ。あの件について、彼女はきっとまだ俺のことを疑っているのだろう。
当然と言えば当然である。
むしろ、王がなぜ俺やハバネルを無罪だと言い切っているのかが分からない。いや、実際無罪なので王は間違っていないなのだが、それほど自分の見る目に自信があるのだろうか。
「……これに関しては、疑われてるくらいが逆に精神衛生上いいかもね」
「どういうこと?」
王とカレさんについて考えながら、俺は朝食の席に付く。昨日と違い隣の席はスティとポップだ。
「ただの独り言さ。ほら、早く食べないと冷めちゃうよ」
「……相変わらずの食欲だな」
ポップが俺の皿を見て、やや引いている。たしかに一般的な量と比べるとかなり多いだろう。しかし、朝食は一日を過ごす上で最も大切なものだ。
今日はダンジョンに行く予定だし、しっかりとエネルギーを蓄えておかなければいけない。
俺は意気揚々と最初の一口を食べようとするが、その手は大慌てで食堂へ入ってきた一人の王国兵によって止められる。
「──ミユウ様!大至急、謁見の間へ来てください!ワイズ様からお話があります!」
「えェとォ……食べてからじゃだめ?」
「……はい」
どうしたものか。王の呼び出しと朝食。頭の中で天秤が揺れている。
しかし、俺は王に大きな借りがあるということを忘れてはいけない。ともすれば、天秤は自然と王の方へ傾くだろう。
「……ちょっと行ってくるね」
「ったく。今度は何やらかしたんだ?」
「それは、俺もまだ分からないかな」
ポップが茶化しながら聞いてくるが、今回の呼び出しについては一切の心当たりがない。強いて言うならば、スパイダーの件について俺の有罪が復活した、とかであろうか。しかし、あの王に限ってそんなことはなさそうである。
とにかく、実際に王の話を聞いてみなければなにもわからないだろう。
「……ご案内します。こちらへ」
立ち上がると、王国兵が丁寧にドアを開けて先導してくれる。城の中でこんな扱いを受けるとなんだか偉くなった気分だ。
改めて考えても、自分が城へ招待されているなど信じられない状況である。スティには「国を救っている」なんて言われてしまったが、俺からすればいつも通り自身の欲のために戦ったに過ぎない。
「──こちらです」
そういえば、昨日はスパイダーと一緒に檻に入った状態でここに来たんだったな。それで、彼女の暴走によってそのまま捕まって監獄に行ったんだ。
「失礼します!ミユウ様をお連れしました!」
王は前回同様、部屋の奥にある大きな椅子に腰を下ろしている。変化したところと言えば、護衛の数だろうか。昨日は数人がかりでの護衛だったが、本日は兵士長と俺を連れてきた彼の二人だけらしい。
「ミユウ・ダンズ。単刀直入に聞くが……お主が殺した魔族というのは本当に三人で正しいか?」
謁見の間のドアが閉まってすぐ、王は俺の目を真っ直ぐと見ながらそう聞いてきた。意図がよくわからないが、記憶ではたしかに三人である。
「そうですね。三人だったはずですけど……なにかありましたか?」
「いや……魔族の死体がのう……二人分しか見つかっておらんのじゃ。住宅街と城に現れた二人の魔族。そやつらの死体は既に回収できたんじゃが……。監獄に現れたという女の魔族の死体がどこにも見当たらんのでのう……」
「スパイダーの死体が見つかってない?」
しかし、俺は彼女の心臓を直接握りつぶし、息が止まっているのを確認してからポップを助けに行ったはず。その死体がないということは、王国兵が見つける前に他の誰かが回収したということになる。
考えられるとしたら、檻からスパイダーを消したであろう人物だ。これについては、未だに一切のことが解っていない。
「そこでなんじゃが……お主がその魔族を殺したという場所に正確に案内してほしい。それで見つかればこの話は終わり……じゃが、もし見つからないとなると……」
「……俺の無罪も取り消される可能性がある、ってわけですか」
王国側からすれば、彼女が死んでいるという確固たる証拠がなければ、俺がスパイダーの共謀者であるという可能性を捨てきれない。そうすると、俺を野放しにするのはあまりにも危険だ、ということだろう。
場合によってはハバネルやフゥも再び指名手配されるということもある。
「わかりました。なんだか見つからない気もしますが……念の為、俺が彼女を殺した場所まで案内します。二人を連れて行けばいいですかね?」
俺は兵士長と食堂まで呼びに来た兵士の二人を見ながら聞く。この場に二人しかいないということは、もしかしたらまだ内密にされている情報なのかもしれない。
「そうじゃな、あまり騒ぎにはしとうない。魔族がまだ生きている可能性があるなど、混乱を招きかねんし、二人だけで──」
「待ってください!」
王の話を遮ったのは、いつの間にか部屋の中に入っていたカレさんである。
「今のが話が本当ならば、今すぐにでもこの男を捕まえて監獄にもう一度送るべきです!なんなら私が即刻その首を──」
太刀を腰に携えた彼女は、今にも斬りかかって来そうな剣幕でこちらへ歩いてくる。
「カレ!ええ加減にせんか!昨日の今日じゃぞ!」
「いえ、陛下の御身になにかあってからでは遅いのです。それを私は思い知りました」
王の制止も無視してこちらへ向かってくる彼女は、どうやら本気で俺の命を狙っているらしい。
「……これ、どうしたらいいの?」
「分かった!ならばカレも付いて行くというのでどうじゃ?それでもし、魔族の死体が本当に見つからなかったら……そのときにもう一度、考えたとしても遅くはないじゃろ」
俺の予想では十中八九スパイダーの死体は見つからないので、その案ではどの道俺の有罪で幕を閉じることになるだろう。とはいえ、今の俺にできる弁明などない。
「……いいでしょう。ただし!少しでも妙な真似をすれば、その時点で私が刑を執行します」
「……分かった」
王は已む無くといった具合で頷いている。これは今度こそ、この国を出ることになるかもしれないな。
「──ここです。この裏路地で、俺は確かに彼女の心臓を握り潰しました……。見てください。微かに魔力を持った血痕が残っています」
「……そうですね」
「それじゃあ──」
「しかし!条件は死体を見つけることです。その条件が満たされなければ、あなたは有罪なのです」
血痕の前で座り込む俺を横から見下ろすカレさんの目は本気だ。本気で王のことを案じ、危険因子である俺を消そうと考えている。
「カレさん……ワイズ様のことが大切なのは分かりますが、なぜそこまで彼を目の敵にするんですか?正直、私も彼が危険だとは思えない……」
城からここに至るまで、無言を貫いていた兵士長がようやく口を開く。
「……甘いですね。そんなことだから、檻の中にいる魔族に陛下の命を狙われるんです。それに、これについては陛下も納得していました。死体が見つからなければもう一度、考える。その結果、私は今ここで彼を仕留めるという判断を下します」
「そんな勝手が許されるとでも──」
「ならば!もしもの際に責任を取れますか?彼が魔族の仲間で、これまでの全てが嘘と演技だった時。お嬢様は簡単に彼に殺されてしまうんです!そんなことには絶対にさせません……。もう二度と、同じ過ちは繰り返しては駄目なんです。例え陛下が悲しむとしても……」
恐らく彼女は、このまま城に戻ればまた王によって俺の事を先延ばしにされると考えているのだろう。それについては、俺も同意見だ。
あの王は自身の審美眼を疑わない。しかし、それでは本人以外は納得できないのは当然だろう。あとは、俺が魔族とは無関係であるという確固たる証拠さえあれば、全て収まるというのに……もどかしいな。
「ここなら人目もありませんし、丁度いいですね。安心してください。刀の腕には自信があります。痛くはしません」
彼女はゆっくりと腰に携えた刀のその長い刀身を顕にする。刀から伝わってくる気品のある殺気は下手をすればスパイダーを上回っているのではないだろうか。
「……カレさん、貴方何者ですか」
まさか俺がこのセリフを吐く側になるとは。
「……冥土の土産に教えましょう。カレ・ルコウソウ。この国が出来た時から、王のために刀を振るう使命を授かった一族の現当主。そして、今からあなたを殺す者です」
ああ。彼女と戦いたい。
昨夜、スティに強さについて聞かれた際、俺は人と戦いたいなどとは思っていないと考えていたが、あれは間違いだったことに今気づく。
俺の本当の気持ちはこうだ。
戦いたいと思うような強い人に出遭ったことはないが、もしもいるならば是非戦いたい。
口角が勝手に上がっていくの感じる。
昨日はゆっくり休めて本当に良かった。
感覚が研ぎ澄まされていく。カレさんの呼吸から、いつ刀を振り下ろすかが解る。
「──ハッ!」
彼女は短い吸い込みの後、声と共に息を吐き出し刀を振るう。音を置き去りにしている、横から俺の首を狙ったその一撃は、ギリギリで回避した俺の前髪をもっていく。
「──いくよッ!」
後ろへ倒れるように避けた俺は、そのままの流れで左手を地面に付き、右脚で回し蹴りを放つ。が、彼女は太刀を器用に手首で捻り、俺の蹴りを柄頭で受け止める。
「──そうこなくちゃねッ!」
「二人とも!落ち着きたまえ!こんな争いになんの意味がある!不毛だ!」
「……いえ。よく見てください……彼の楽しそうな顔を。例え彼が魔族の仲間ではなかったとしても、私は陛下に彼を近づけたくありません。今、はっきりと心に決めました。必ずここで仕留めます!」
カレさんの言う通りかもしれない。きっと俺は、あの監獄長と同じタイプの人間だ。良心と罪悪感を超える欲望を前に、我慢など出来ない。
「──ごめんね、スティ」
今の俺にはもう、目の前に立つカレさんという強い人との戦闘しか考えられない。
「──おいおい。まったく人間ってのはどこまで愚かなんだァ?」
路地裏の入り口。
兵士長と兵士の後ろに立っているのは、この最悪な現状を変えられる唯一の存在である魔族。
スパイダーであった。
彼女の登場は、俺の沸騰した頭を一気に冷やす。
「……おかしいな。確かに心臓を潰したはずなんだけど。もしかして双子?」
「ハッ!残念ながら正真正銘ピンク・スパイダー様だよ!」
「彼女が、監獄を襲った魔族……やはり生きていましたか。さあ、どう言い訳をするつもりですか?」
カレさんが目を細めて聞いてくるが、この場で最も混乱しており、説明がほしいのはこの俺だ。
「……もしかして、魔族は心臓が二つあるとか?」
「さァな!気になるなら、今度は体引き裂いてから確認してみたらどうだ?もしかしたら答えが見つかるかもしれねぇぞ」
これまでに比べて随分と煽り口調だな。これまで、いったい何回俺に負けたと思っているんだ。
きっとダンジョンの外にいる彼女はカレさんにも勝てないだろう。
「……それじゃあ、そうするよッ!」
ここでスパイダーを殺せば、全て解決だ。なぜ彼女が生きているのか、そしてわざわざ自ら姿を現したかは知らないが、願ってもないチャンスである。
そう思い、いつものようにスパイダーとの距離を一気に詰めたのだが、彼女へ拳が届く前に白い壁が目の前に突然そびえ立つ。
「これはッ……ダンジョンで見た壁?」
両隣の家とピッタリ繋がっているその壁はあっという間に伸びていき、俺達のいる路地裏の内部を完全に取り囲んでしまった。
「閉じ込められた?」
「……見捨てられたのですか?」
カレさんが聞いてくるが、そもそも見捨てられるような関係性ではない。ここまで魔族との関与を疑われてしまうと、仮にスパイダーを殺したとしても俺の潔癖を認めてくれないのではないだろうか。
「……いや、これは多分時間稼ぎだと思います。──ッラァッ!」
試しに壁を殴ってみるが、ダンジョンで見たものよりも頑丈のようだ。若干の跡は残っているが、壊れそうには見えない。
「退いてください。私が斬ります」
カレさんは上段の構えで壁に近づき、一息でその刀を振るう。がしかし、壁は甲高い音を響かせるのみで切れることはなかった。
「……なるほど。これが魔族の力ですか」
「救援を呼びましょう。外からならば、この壁も壊せるかもしれません」
兵士長は手早く携帯端末を取り出して操作しているが、俺はそれを急いで止める。
「待ってください。今、外にいる魔族は城に現れた奴とは強さが違います。少なくとも、兵の統率を取るあなたが居ないと戦いすらならないでしょう」
「しかし、それでは住民たちに被害が──」
「それは大丈夫でしょう。どういうつもりかは知りませんが、あの魔族……壁の向こうでジッと立っているだけのようです。救援を呼ぶとしても、今は包囲と監視だけにとどめておくのが正解かと思われます。当然、いざという時にはすぐに攻撃を仕掛けてもらいますけど……」
俺がするよりも早く、カレさんが冷静に兵士長を説得する。
「解った……。そのように手配しておこう」
「さて、この状況。あなたには説明ができるんでしょうか?」
「俺にはできないかな……。けど、ちょっと宛があるんでね。失礼するよ──」
俺は携帯端末の連絡先一覧からとある名前を選択する。まあ、一覧といっても連絡先など片手の指で数えられるほどしか持っていないが。
『──もしもし!アンスです!』
早いな。ワンコールもかからずに出たぞ。
「……ミユウだけど。今、大丈夫?」
『勿論です!ミユウからの連絡はどんなときども歓迎ですから!さ、要件をどうぞ!』
「うん。アンスの知識を借りたくてね。──魔族について、聞きたいんだ」
『はい!魔族ですね!概要でも詳細でも、私が知っていることならなんでも!』
彼女は一切の疑問を持たずに話を聞いてくれる。こんな状況なのでその対応はとてもありがたいのだが、少し申し訳ない気もしてくる。この件についてお礼を考えておかないとな。
「……聞きたいことは二つあってね。魔族の心臓についてと、魔族にとってのダンジョンがどういうものなのか……知っている範囲で教えてもらっていいかな」
この場で早急に解決したいこと。それは、なぜスパイダーが生きているのか。そして、なぜ彼女がダンジョンにいる時と同じだけの魔力を外でも持っているのか。
この二つだ。
恐らくこれが解れば、彼女を本当の意味で殺すことができるだろう。
『魔族の心臓……。そうですね、一般的には魔族もその他の生物と同じように心臓を持っており、その働きによって生きています。つまり、私たちと同じく弱点であり重要な臓器ということになりますね。しかし、一部の強力な魔族に限って言えばそれが当てはまりません。その種族名の通り、魔力のみで生命活動を行うことができるからです。つまり、心臓だけでなく全ての臓器、筋肉、骨、血に至るまでの身体を構成する物質が魔力さえあれば最悪必要ないということになります。……魔族の心臓について私が説明できることはこれくらいでしょうか』
「……そういうことだったのか。ありがとう。アンスのお陰で謎が一つ解けた。このまま、ダンジョンについても聞いていいかな」
『はい!さっきの話とも繋がりますが、ダンジョンを持っている魔族というのは、心臓が必要ない者だけなんです。魔力のみで生きられる魔族は、それ故に自身の身体に全ての魔力を蓄えておくことを辞めました。リスクを分散させたんです』
「……その魔力を分散させた先っていうのがダンジョンってわけか」
つまり、スパイダーが「ダンジョンは自身の身体の一部も同然」と言っていたのは比喩でも何でもなく、そのままの意味だったということだ。
『そうです!』
「それじゃあ、そいつらを殺すにはダンジョンに流れている魔力を枯らす必要があるってわけだね?」
『もしくは、ダンジョン自体を魔力が流せないほどに壊し、全ての魔力を魔族本体に還してからその魔力が枯れるまで攻撃する……という手もあります』
「ダンジョンを壊す……」
スパイダーのダンジョンである洞窟が完全に崩壊したとき、崩れた岩壁からは魔力を感じなかった。ということは、あの時スパイダーの身体には彼女の全魔力が集まっていたということになる。
となれば、彼女が城やここでもダンジョンと同じように糸が使えているのも頷ける。今は彼女自身が動くダンジョンのようなものということだろう。昨日も、心臓を潰された後に魔力によってその肉体を再生したというわけだ。
しかしそうすれば、彼女はなぜ時間稼ぎなどしているのだろう。
『……ミユウさん?大丈夫ですか?』
「──あ、うん。ありがとう。とても助かったよ。今度、何かお礼をするね」
『い、いえ!これが私の仕事ですから!』
「それでも……ありがとう」
『……はい。それでは、また何かあったら何時でも連絡してください』
「うん。そうさせてもらうね。それじゃ──」
アンスとの通話を終え、俺はカレさんへと顔を向ける。
「何か分かりましたか?」
「うん。それはもう色々とね。優秀なサポーターが教えてくれたよ」
「そうですか。それでは早速──」
「残念ながら、その時間はなさそうです」
兵士長は冷や汗を垂らしながら、路地裏の入り口だった場所を見ている。どうやら、スパイダーの何かが終わったようだ。
白い壁が徐々に消えていく。
「……待たせたな、ミユウ・ダンズ。今度こそ、俺の全力を見せてやるよ。安心しろ……もう退屈はさせねえ」
白い壁の向こうに立つスパイダーのその姿は、恐らくダンジョンで見せた赤紅色の状態の更にその先。蜘蛛のような身体と八本の足に、その頭胸部から人型の上半身が伸びている。
まさにモンスターの親玉に相応しいと言えよう。
「これが……魔族!」
「至急!応援を頼む!大至急だ!」
体長二メートルは超えているであろうスパイダーを見上げながらカレさんは小さく呟き、その横では兵士長が端末に向かって叫んでいる。
「……本当の本当に最後の戦いになりそうだね、スパイダー」
「それは、てめぇの死期を悟ったってことでいいんだな?」
「──もちろん、アンタの死期さッ!」
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