ノーザン孤児院と貴族令嬢

人族同士の戦争が烈しくなってきた頃 俺の故郷ノーザン孤児院からの手紙が届かなくなった 商人からの情報によると戦火が近場まで広がってきているらしい

クロノス王にノーザン孤児院の移転をお願いした 名称も第何番とがでは無く「ノーザン孤児院」という名称にしたいと加えてお願いした

王は快く許してくれた

早速 旅に出ようとしたが ノエルさんが着いていく言って聞かない

しょうがないので一緒に行く事にした 道中久しぶりに俺と二人きりがうれしいのかいつもに増してベタベタしてくる

「ねえ シリウスの育った孤児院って どんな所なの?」ノエルさんに聞かれて

「そうだね 賑やかで楽しい孤児院だったよ 親がいないと寂しがる暇もなかったよ それから少しづつでも恩返ししようと 少ないけど送金もしてたけどここ最近院長から手紙が来なくなって心配でね」

「ふーん そうなんだ」

夏の終わりで中々に気持ちが良い 心配事も忘れそうだ

喋り続けているからか 今回はノエルさんも馬車酔いもしてなさそうだ

何度か敗残兵に襲われたが俺とノエルさんの敵では無い

半月程でノーザン孤児院のある街に着いた 街自体はそこまでの被害はなさそうだ

孤児院に着くと いつもなら聞こえるはずの子供達の声がない

何があった? 急ぎ馬車を飛び降り建物の中に入る 中では子供達がマリアート像に熱心に祈っていた

孤児院の手伝いをしているサラを見つけ 事情を尋ねる

「あら シリウスお帰りなさい ここ三か月程 神父様が体調を悪くして寝たきりなのよ 心配するから 貴方には報せるなって言われてて ごめんなさいね」

院長の部屋に行き 様子を観ると悪戯をするたびに殴られた太い腕が木の棒のように細くなっていた それを見て知らずに涙が流れた 少し話が出来そうだったのでノーザン院長にどうしたのか聞いてみる

「戦争が酷くなってきて 後援者からの寄付金も減り 国からの支援もなくなった おまけに質の悪い兵士が孤児院に襲撃して その時にちょっと怪我をしてな」

乾いた唇を触りながら話す

「じゃあ ちょうどいいから 聖王国に皆で移住しないか?」俺が言うと

「聖王国に?」怪訝な顔で返してくる

「ああ ノーザン孤児院の移転をクロノス王も許可して下さった」

「うーん それはありがたい話ではあるが 教会に集う人達の事もあるからな」

難しい顔をして考え込む

俺は部屋を出て 馬車に積んでいた食料で炊き出しの準備を始める

野菜を切り乾燥肉を入れて煮込んでいる間 子供達に頼んでパンを買ってくるよう言い 治安が悪くなってるらしいのでノエルさんに護衛を頼む


準備が終わる頃に 荷車を引いた貴族のお嬢様みたいな恰好をした子が孤児院に入ってきた

「あら 今日は他の方が炊き出しをしてるの?」 俺を見ながらサラに聞いている

「この孤児院出身のシリウスよ シリウスこちらは月に二回程ここで炊き出しをして下さっているソフィア・アーノルドさんよ」サラに紹介され

「シリウスです よろしくお願いします」右手を出すと

「ソフィア・アーノルドよ ソフィって呼んでちょうだい」お嬢様らしくない力で右手を握ってきた


「ただいまー」ノエルさんと子供達が帰ってきた 後ろに沢山の人々を連れて

「どうせだから 炊き出しをするって宣伝してきちゃった」パンを買いに行った子がバツの悪そうな顔で教えてくれた 自分達以外の人の事も考えられるなんて優しい子だと思い「たくさんあるからいいよ」頭を撫でながら言うと ホッとした顔をする


「足りなくなったら困るから 私の準備も急ぐわ」ソフィは言って腕まくりをして準備を始めた 手際よく準備をすると配給を始めた

瘦せこけた人々が列に並び それぞれ器を受け取り食べ始めた


ソフィの手伝いをしていると ノーザン院長が重い足取りで近づいてきて

「いつも ありがとう ソフィアさん」丁寧に礼を言った

「いいのよ 私いつかここのシスターになるのが夢だから」

スープの入った椀をノーザン院長に渡しながら ちょっと照れくさそうに答える

「ソフィアさんは何でシスターになりたいんですか? 見た所 貴族のお嬢様みたいですが?」俺が不思議に思って聞くと

「この戦争でお父様とお兄様が亡くなって それを聞いたお母様まで倒れてそのまま…… だから 御婆様にお知らせに行ったら「お前が取り替え子だから皆死んだんだって」言われて それで 取り替え子の私なんか誰も婚姻してくれそうに無いから シスターになってお父様 お兄様 お母様の為に祈り続けようと思って」目に涙を溜めながら話してくれた

「そうだったんだですね それじゃあマリアート様の元でお祈りをしますか?」

俺が言うと ソフィアさんは目をパチパチさせ

「どういう事?」と聞いてきた

「ああ 自己紹介がまだでしたね 私は聖王国の冒険者シリウスと言います この孤児院出身で 孤児院の移転を院長に打診していたところです」そう言うと

「もしかして シリウス旅団の方ですか?」ハッとした顔で聞いてくる

「私達をご存じでしたか」

「はい 御婆様の所からの帰りに魔物に襲われた時に助けて頂いたのがシリウス旅団の皆様でした その節はありがとうございました」ペコリと頭を下げる

多分 チェンズの皆が言ってた貴族のお嬢さんを助けた話の事かな?

「いえいえ 大した事ではありませんので 頭を上げて下さい」そう言って 話題を変えようと院長を見る

「ソフィアさんのお父様はこの孤児院を気に掛けて大分助けて頂いてな大変お優しい方だった だからこそここを離れるのは心苦しいんだよ」

「そうなのか?じゃあ 俺がいつでも来れるように転移の陣を孤児院のどこかに描いてもいいかな それを使えば危ない時に避難も出来るし」

「ああ それは構わんよ」院長に許可を取りマリアート像の後ろに転移陣を描く

まあ 教会が無くなればこの辺の人達も困るかな?危ない時は必ず転移陣を使うように強く言う まあ三日に一回は俺が様子を見に来るけど

「ソフィさんはどうします? 聖王国に行くなら一緒に行きますか?」

「そうね マリアート様の元で修行して ここに帰ってくるのが良いかもしれないかも」

翌日 俺 ノエルさんとソフィの三人で転移陣を使って聖王国に帰った















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