巨大イカと慰労会

朝目覚めると海風で部屋のカーテンが膨らんでいた

皆が寝ている間に市場へ朝飯を買い出しに行く ついでに情報収集をして 今は使われてない番小屋の契約をして 転移用の印をつけておく

適当に朝飯を買って宿に戻るとノエルさん意外は起きて身支度も済んでいた

ノエルさんを起こし朝飯を食って 港に向かう


まだ陽が昇ったばかりなのに 既にうだるような暑さだ

汗をかきながら 港に着くと まとめ役に会いに行き 船を貸してくれるように交渉する


まとめ役の日焼けしたゴツイおっさんに肩を揺すられながら

「良く来てくれた!! ありがとう ありがとう」と感謝されて イカ退治の打合せを行う

「じゃあ そういう段取りでやりますので よろしくお願いします」


俺達は港に行き まとめ役のおっさんに聞いた船に乗り込み 俺が操舵して 沖に出る

海服に帯をして 剣を差し込んでいるノエルさん 海服にガントレットを装着しているハイジ 海服に杖を持つクラリス 船の真ん中で丸まっている母ちゃん 船を操舵しながら後ろから改めて見ると 怪しい集団である


 大事な事を聞いてなかったと気付き 皆に声を掛ける

「ところで 皆さん泳げるのかな?」俺が聞くと

「「「泳げない!!」」」何故か自慢げに声を揃えて返事をする三人

「じゃあ 海に落ちないように戦ってね」

作戦を失敗したかと考えていると 急に船が揺れ 船体の右側の真ん中ぐらいに白い半透明の触手が現れた 船をひっくり返そうと蠢く触手をノエルさんが剣で切り飛ばす

反対側から出てきた触手を母ちゃんが風魔法で切り刻む

切り離した触手が船の中央でウネウネと動くのを見て クラリスが「ひっ!!」と小さく叫ぶ

少し間があって いきなり船体の左右から三本づつ触手が出てきた

ノエルさんが右側の触手を三本切り飛ばし 母ちゃんが左側の触手を風魔法で切り刻むと 業を煮やしたのか本体が船の前に出てきた


「ノエルさん イカの心臓は体の真中にあるそうだ!! まとめ役のおっさんが言ってた!!」俺が叫ぶと

「分かった!!」

答えたノエルさんは飛び上がり イカの頭の上から 剣を振り下ろし胴体を真っ二つにした 上手く心臓も切り裂いたみたいで イカはユラユラを海面に浮かんでいる 

海に飛び込み イカの胴体にロープを巻き付けて もう一方を船に括り付けて

港に戻ると 沢山の人たちが出迎えてくれた

「流石は 勇者様 ここから皆で見ておりました おい!! 領主様にイカ退治の早馬を出せ」 日焼けした少年が走り出す

ノエルさんにハグしようとする おっさんの前に割り込み

「それで このイカはどうしましょう?」俺が聞くと

「周辺の者達で分けます 意外とイカは美味いんですよ」

船に括り付けられたイカを引き上げ 住民が切り分けて 持ち帰っていくのを見ながら

「結局 今回は役に立たなかったわ」ハイジとクラリスがションボリとしていた

「でも いつも頑張ってくれてるから 気にする事は無いよ」

ノエルさんが二人の手を取って笑顔で励ます

「そうだよ 気にするな」俺もフォローする


宿に戻って 寛いでいると まとめ役のおっさんが来て 明日の夜に領主邸でイカ退治の慰労会があるから 出席して欲しいと伝えてきた

平服でも良いとの事で 母ちゃんの空間収納から 三人は服を取り出し 服に合うアクセサリーを買いに通りに出かけて ついでに夕飯も買ってきたので それを食いながら

「明日の昼間は何したい?」三人に聞くと

「「「泳ぎを教えて欲しい」」」 ハイジとクラリスは 泳げない事で海に落ちる恐怖から 竦んでしまったのが悔しいらしい ノエルさんは単に泳いでみたいだけだろう

「分かった 昼頃まで泳いで 休憩した後 領主邸に行こうか」


翌日 朝も早くから浜辺で泳ぎ方を教える

浜辺の店に魚の胃袋から作った海で浮かんで遊べる浮き輪という物があったので三人分買って 渡す 使い方を店の従業員に聞いて 浮き輪を付けて海に入る

バシャバシャと足を動かして前に進むのが面白いのか ハイジとクラリスは夢中になっている ノエルさんは目を閉じて ただプカプカと海に身を任せている

ハイジとっクラリスに平泳ぎを教えて 一旦宿に戻り海水を洗い流して休憩する


夕刻になって港のまとめ役のおっさんが馬車で迎えに来てくれた

慰労会が行われる領主邸には 見た目没落貴族 漁師 商人 町民と雑多な人たちで溢れかえっていた

「バドス 勇者様御一行をお連れしたのか?」陽に焼けて浅黒い顔に髭を生やした男が話しかけてきた  今更ながら まとめ役のおっさんの名前はバドスと知った

「はい 領主様 こちらの方々が勇者様御一行です」

領主は俺達を見て

「今回は お世話になりました イカを退治して頂き ありがとうございます」

そう言って 頭を下げる

「大した事ではありませんので 頭を上げて下さい」

ノエルさんが言うと

「これはこれは あのイカを退治する力を持ちながら 謙虚でもいらっしゃるとは!! 踏み込んだ話ですが 婚約とかされているのですか?」

いきなり領主がぶっこんできた

「いいえ 婚約者はおりません」

ノエルさんの返答を聞くと 領主は破顔して「それでしたら 私の不肖の息子とか いかがでしょう?」さらにぶっこんでくる領主

「いえ 婚約者はいませんが 想い人がおりますので 光栄なお話ですが 申し訳ありません」

「それは 残念です」

未練たらたらで引き下がると 今度は母ちゃんに視線を移し

「美しいマダム 今度夜景の綺麗な宿で食事でも いかがですか?」

母ちゃんを口説く領主 母ちゃんはいつもの様に 胸元が開いて 腰の辺りまでスリットの入ったピッチリした紫の服を着ている

「あら 嬉しいお誘いだけど 私には旦那も子供もいるから 無理よ」

すげなく断られ 領主は顔見知りを見つけた体で人混みにきえていった


俺達が大人な会話をしている間 ハイジとクラリスは他の子供達に囲まれ

質問責めにあっていた

「僕達と変わらない年なのに なんで 勇者パーティーに入れたの?」

「そのアクセサリー可愛いですね」

「お付き合いしてる人はいるの?」

煩わしくなったのか ハイジが大声で

「うるさいわね!! 私とクラリスは取り替え子だから パーティーに入れたの!!」

爆弾発言をすると 潮が引くように二人の周りから子供達が消えて行った

ハイジはプンスカしてるが クラリスは寂しそうに笑っていた


いろいろと濃い時間は過ぎて行き 俺らは宿に戻り早々に寝る事にした

今夜はクラリスがベッドに入って来て 俺の尻尾をギュウっと抱きしめて声を殺して泣いている 辛い事を思い出したんだろう クラリスの寝息が聞こえてから俺も眠りに就いた

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