[Divine World]ネプトゥ大公夫妻の語らい
拙作「緋き牙と碧き路」の後日談です。
あえてボカして書いてますので是非本編の読了をお勧め致します。
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「そうか、彼女は・・・逝ったのか」
「はい、先輩は・・・教官はアースドラゴンや他のモンスター達を道連れにした・・・見事な最期でした」
「分かった、ここは俺の領地ではなく王国直轄領だが葬儀を執り行わせてもらおう・・・このネプトゥ領を守り抜いた英雄としてな、それはそうと彼女の事はギルドには通達済みなのか?」
「それはもう、しかし先輩は天涯孤独と言っていたので・・・その上自分の貯金を今回のネプトゥ領防衛の報酬として全額冒険者達に渡す事が決定していて・・・ギルドの墓場で埋葬しても共同墓地に入れる事になります」
「ギルドの教官には相応しくない処置だな、だがそれが彼女の意志だから何ともし難い・・・葬儀が終わり次第ギルド・グラーナへ遺体の搬送を」
「話の途中で申し訳ありません殿下・・・発言を宜しいですか?」
「君は・・・確かデルトのメイドだったか、その姿は・・・いやいい、ここは正式な場所ではないから自由にしてくれ」
「有難うございます、アミュスさん・・・でしたかしら?宜しければ教官殿のお墓をこちらで用意させてもらえないでしょうか?私どもの預かる領地を救って頂いた英雄に粗末な扱いは致しません、ご遺体は我々ネプトゥ領警備隊が責任をもって埋葬致しますので」
「!そ、そうしてもらえるなら願っても無いです!」
「な、そんな事は!彼女のせいでデルトは・・・」
「事情は知りませんが前代官様があの方を気に掛けられていた事は知っています、墓の費用や手入れについては私が自身で致しますので・・・」
「・・・俺は葬儀はするが墓には一切関知しないし、彼のとなりに埋葬するのも許可しない・・・だが少し離れた所なら好きにしてくれ」
「殿下、ご厚情に感謝致します!」
「王太子様、アタシからもお礼を!」
◇◇◇
「・・・よし、屋敷から上手く抜け出せたわね・・・あら?ラヒルさんではないですか!」
「これは奥様、おはようございます・・・またメイド達の目を盗んで来られましたな?屋敷の者達を困らせるのもほどほどになさいませ」
「そうは言ってもお墓のお掃除ぐらいは好きにさせてもらわないと・・・もう私がやる処がないじゃないですか!」
「いつまでも奥様お一人に任せていると旦那様に私めが叱られます故に・・・奥様には領地のお仕事も手伝って頂かないと」
「はぁ、せっかく抜け出してきたのに全部先を越されるなんて・・・これじゃマイサさんと同じじゃない」
「そういえば『あの方』の分はこれから取り掛かる所でした、喋っていないで取りかかるべきでしたな・・・それでは」
「それは私がやります!ラヒルさんはお年なんだし働きづめですから少し休んでいて下さいな!」
「はは、それは失敬ですぞ?不肖このラヒル、まだまだ若い方々には甘える訳には」
「・・・それならもぅ終わったぞ?」
「あ、これは殿下・・・どうしてこんなに朝早くから?」
「殿下じゃない、『クライツ』だハンナ、いい加減に慣れて欲しいな?」
「も、申し訳ありません・・・く、クライツ様」
「旦那様・・・終わったというのはもしや『あの方』の」
「ああ、もうガキ染みた振る舞いは卒業だ・・・それより久しぶりに早朝に働いて喉が渇いた、今屋敷に帰ると他の者達が大わらわになる・・・ラヒル、あの家に行くから茶を持ってきてくれ、ハインツは休暇で実家に帰っているハズだ」
「は、かしこまりました」
「ラヒルさん、私も手伝います」
「何を仰いますやら!ご身分を弁えて下さい、奥様は旦那様と先に向かって下さいませ」
「父さまと同じ事を言われますね、行きましょう殿・・・クライツ様」
「ああ」
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「失礼します、新しく来られましたご領主様にご挨拶を・・・あ!あなたは王太子殿下??」
「その顔は・・・そうか、『彼女の墓』を建てたいと俺に願ってきたあの時の警備兵か・・・この度王太子から降爵をしてこの領地を下賜されたクライツ・グランデューク=ネプトゥだ・・・この領地は初めての事が多いので宜しく頼む」
「ど、どうしてこの領地へ?それに王太子を降爵とは・・・」
「いち警備兵の知るところではない、と言うところだが君にだけは特別に話そう・・・デルトの遺したネプトゥを守りたくなった、これが理由だ」
「そんな、私達警備隊がこの領地を死守して参ります!」
「君達の実力を疑う訳ではないし日々の職務にケチをつけるつもりもないが・・・一年前のようなスタンピードに対しては少し心もとない、というところか」
「・・・それはっ」
「分かっている、王国直轄領とは言え代官の権限では制限があるし軍備を増強する予算も出にくい・・・だが俺が領主となれば権限が増えて問題は解決する」
「ご自分の高貴なご身分を犠牲にしてまで、ですか?」
「他の貴族からはバカ扱いされるだろうだがそれでも構わん、俺がただ一人友人と認めたデルト・ミナズの偉業をここで潰す訳にはいかんからな・・・それはそうと『彼女の墓』は本当に建てたのか?」
「ええ、私と父とで出し合って出来た簡素な墓ですが・・・」
「君はデルトと親しくしていたのだろう?恐らくは察していると思うが、彼女はマイサ・カデンではなく本名は」
「いいえ、あの方はマイサ・カデン様・・・それ以上でもそれ以下でもありません、初めてお会いした時のお姿-毅然とした本物の貴族たる姿勢-を見ていれば過去の事はさして問題ではありません」
「本物の貴族、か・・・どうも俺が知っている姿とは違うようだな?」
「殿下のお考えは私などには及びもつきませんが・・・ネプトゥの危機を救って頂いた英雄を丁重に扱っても大公殿下に損はないハズです」
「ははは、これはやられたな・・・警備兵に教えられるとは俺もまだまだ新参領主だな?」
「恐れ入ります、大公殿下」
◇◇◇
「ここもあの時と変わらない・・・ラヒルと
「ええ、ここは時が止まったかのようです・・・デルト様の最期を看取った時と同じ」
「・・・気分を暗くさせてしまったか、ラヒルが戻り次第場所を移すか?」
「いえ、お気遣いなく・・・あの時は私どもが至らなかったせいで」
「そう自分を責める事はない、俺も彼に頼り切りだったし何より彼はこのネプトゥ・・・いやウルカンを愛していたからな、自分の命を削る事も厭わなかったんだ」
「失礼致します、お茶をもって参りました・・・おこがましいですが私めも同席致しますぞ、デルト様の事ならば私めにも責任があります故に」
「それは・・・一体どういう事ですか?ラヒルさん」
「違うんだハンナ、あれはラヒルのせいではない・・・何度言ったら分かるんだ」
「いえ、私めが故郷に情熱を傾けるデルト様に面白がって領地経営学などお教えしなければ代官になられる事も命を懸ける事も無かった・・・と日々感じております」
「そこまでだラヒル、それを言われると弱いんだよ・・・彼を代官に任命したのは俺なんだ、彼の才覚と故郷への情熱に惚れこんでしまったからな」
「お二方とも、もうこの辺りにしておきましょう・・・デルト様は全てのお仕事をやり終えたのですから悔いはなかったハズ、私達が自分の行いを悔いたところであの方は喜ばれませんわ」
「そうだな、反省会は終りにして茶を貰う事にしよう・・・ラヒルも座れ」
「はっ、それではお言葉に甘えまして」
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「まぁ、先代様がそんな事を?道理で水路工事なんて出来た訳ですね?」
「ああ、彼は誰もやりたがらなかった農業復興に特に力を入れ込んでいたよ・・・ギルドの冒険者達は彼をバカにしていたようだが、彼には痛くもかゆくも無かったらしい・・・ギルドマスターのイレーヌから話を聞いた時は理解ができなかったが、このネプトゥの繁栄ぶりを見れば理解できる」
「あの方らしいですわね・・・初めてお会いした時にはお顔に陰がありましたけど、水路ができる度に楽しそうにされていましたので」
「まさかラヒルやコオゥ以外にもここまでデルトの話が出来る人間がいたとは考えもしなかったよ」
「恐れ入ります、私もお話出来るのは父さまと何人かの使用人ぐらいでしたので知らない話を聞けて楽しかったです・・・それでは大公殿下、そろそろ国境警備の時間ですので」
「君となら・・・一緒に歩いていけるかも知れない」
「え?」
「いや、今度にしよう・・・今度は非番の時にでも来てほしい、彼の話をしていると沈んでいる心が少しは救われるからな」
「はい、喜んで」
◇◇◇
「まさかクライツ様が私を選んでくださった理由が『デルト様との話が出来るから』だなんて・・・よくよく考えてみると女に対して無遠慮というか」
「すまない、正直ここネプトゥの領主になった時は大変だったんだよ・・・求婚者は引く手数多だが名門貴族達の令嬢ばかり・・・その親はどいつもこいつも家名を上げるのが目当てだったし本人の令嬢達も田舎暮らしは心底嫌がっていたからな、ああいうヤツラにデルトの遺した領地で好き勝手させたくはなかったんだ」
「はは、しかし正直過ぎるのも考えものですぞ旦那様・・・それに奥様は全てのマナーに堪能で、更に登城されている旦那様の代わりに領主代行として執務もして頂いております・・・さすがはハインツ卿のご令嬢で」
「騎士の生まれでしたのでマナーは小さい頃から仕込まれていましたし、ラヒルさんの教え方が良いのです・・・それに一度デルト様から本の読み方も教えて頂いた事がありましたので勉学には何とかついていけるのですわ」
「それは初耳だな、宰相職に就いた俺もハンナから教わらなければな?」
「ええ、一緒に学んで参りましょうクライツ様」
「それならば私めも参加致しますぞ?ここの領主となられた旦那様にはまだまだ覚えて頂かなければならぬ事が山ほどありますゆえ・・・」
「ほどほどに頼むぞ?ラヒル」
-終-
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