第1話.真紅の瞳

 とある小さな村、レアディス。

 そこは各地から捨て子や、数々の理由で親などを失った子供などが集う。


 辺境の地でありながらも孤児院が建っているこの村では、毎年のように親に捨てられたり、行き先を失った子供などが引き取られている。


 ――10年前。

 このレアディスの村に一人の少年が血だらけでやってきた。

 日は沈み、辺りは真っ暗になっていた。


 そんな夜道に、少年の真紅に輝く真っ赤な瞳はレアディスの村にある孤児院からもはっきりと見えていた。


「シスター、あれなんだろう?」


 孤児院にいる一人の子供が、外で赤く光る物に興味を示しシスターに伝える。


「なんでしょう? ゆっくりとこっちに近づいてきていますね」

「なんかふしぎー。ねえ見にいってもいい?」

「ダーメ。もう夜だから子供はお外に出てはいけません」

「ちぇ~」


(それにしてもアレは一体何なのかしら。気になるわ)


 孤児院のシスターは、夜道で真っ赤に輝く物が気になっていた。


 この世界にはマナと呼ばれる生命エネルギーが存在する。

 マナとは自然界に存在する、いわば超常的な自然エネルギーのような物だ。


 この世界の生物は、このマナを取り込むことにより体内でマナを作り出し、それを元に生命活動を行っている。


 人の命を預かるシスターは、このマナの感知に人一倍敏感だった。


(あれは人? だとしたら体内のマナの量がかなり微量だわ)


「ごめんねみんな。私すこしだけお外に出てくるからいい子にしててね。い~い? くれぐれも私の後は付いてきたら駄目よ」


 シスターは急ぎ足で赤い光の場所へと足を運んだ。


「ろす……おれがころす……!」


 真紅の瞳を輝かせながら、少年はがむしゃらに足を動かす。

 かなり衰弱しきっているが、それでも絶対に体を地面につけることはなく、ゆっくりと、ゆっくりと歩き続けている。


 どこにもいくあてはない。

 ただひたすら、悪魔への復讐を思い続けて。


「あなた、大丈夫!?」


 孤児院のシスターはそんな少年を見て、すぐに駆け付けた。

 弱り切った少年を見て、シスターはすぐに優しく抱きかかえた。


「こ……ろす……! おれ……が……ころ……す!」


(血の匂い……。この子、もしかして親を……)


 少年は抱きかかえられながらも、衰弱しきった体を目一杯動かし暴れた。


「大丈夫、大丈夫よ。もう大丈夫だから」


「ゆる……さない……。お……れが……ころす……」


「大丈夫。大丈夫だからね」


 シスターは少年の背中をゆっくりとさすりながら優しい声でなだめ続けた。


「おかあ……さん……。おとう……さん……」


(やっぱり……。この子、両親を……)


 シスターは少年が経験した悲劇を察し、自らの瞳にも涙を浮かべた。


「大丈夫。あなたはこれから私たちの家族よ。今は辛いかもしれないけれど、その辛さを忘れさせてあげられるように私も孤児院のみんなも、あなたを優しく迎え入れるわ。だから今はゆっくりお休み」


「うぅ……うぅ……」


 シスターはその後も、少年を優しく抱きかかえた。

 少年が落ち着くまで優しく言葉をかけ続ける。


 少年が疲れ切って眠ったあとは、孤児院へ戻りこれから新しい家族になると子供たちや村のみんなに伝えて回った。


 後日、まるまる三日間は眠り続けていた少年がようやく目を覚ました。

 シスターの介抱もあり、衰弱しきっていた体は見る影もなくなっていた。


「あ、やっと起きた! おはよう。体は大丈夫?」


(あら? この子の目の色、赤色じゃなくなっている……)


「……おねえさん、だれ」


「私? 私はあなたの新しいかぞ……」


「かぞ……?」


 シスターはそこまで言うと口を紡ぐ。


「あ、あのね!」


「かぞ……く。そうだ、おれのかぞくはあいつらに……!」


 人の感情の変化に敏感なシスターはその瞬間、少年から溢れ出る憎悪と怒りの感情を察知した。


「おれがあいつらをころ……!」


「ごめん、ごめんね。また辛い事を思い出させちゃったね……」


「おねえ……さん?」


 シスターは怒りで我を忘れそうになった少年に抱き着いた。


「あなたに何があったのかは詳しくはきかないわ。でもこれだけは言わせて。あなたがどう思ってても、私にとってあなたは新しい家族よ。ここにはあなたのように家族を亡くした子供たちがいっぱいいるの。あなたの寂しさや心に負った傷が癒えるかは分からないけど、今からここがあなたの新しいお家よ」


「でも……でも……。おれのおかあさんとおとうさんは……」


「相当つらい思いをしたのね……。でも大丈夫。その辛い思い出が忘れられるようにここでそれ以上の楽しい思い出を一緒に作っていきましょう。ね!」


 シスターはとびっきりの笑顔で少年に語り掛ける。


「……わかった」


 ホッと一息ついたシスター。


(こんな小さな子供に相当な復讐心が芽生えるなんて……。この子にとって両親はそれほど大切な存在で、そんな存在を殺めた人達が絶対に許せないのね)


 少年が相当な復讐心に囚われると気づいたシスターは、その復讐心をゆっくり時間をなくさせるために必死に努力した。


 それから数年後の時が経った。


 あの日以来、少年の瞳の色は赤色に染まらなかった。

 復讐心で支配されていたときのような赤色の瞳の輝きは一度も見せなかった。


 シスターはそんな少年を見て、自分の努力が実を結んだと安堵したが……。


 少年の心の奥底に眠る悪魔への憎悪と怒りは、目で見える形に出していないだけで、心の中で静かに。時が経つにつれて大きく膨れ上がっていっていた。


 少年はその悪魔への復讐心で、いつか悪魔を自分の手で見つけ出し殺す日を目標に鍛錬を積んで強くなっていった。

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おれのシショー うさぎ五夜 @usagigoya1203

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