第14話 決闘

「おい、話を聞いてなかったのか! 決闘は明日からだろ!」


 アルバレスが俺の代わりに身を乗り出して口を出す。


「そんなものは知ったことか。貴様のような雑魚に用はない、引っ込んでいろ!」


 しかしロッドは全く聞く耳を持たない感じだ。


「……んだと、こんにゃろう!」


 今にも掴みかかりそうなアルバレスを、俺はなんとか抑え込んで止める。


「まあ落ち着けって」


「そうだよ! そんな奴無視しなよレオナルド!」

「……無視一択」


 ララとリリも加勢してきた。

 俺たちの一連のやり取りに教室内の他の生徒たちも、ざわざわと騒ぎ始める。

 そこでロッドは、ボソリと口端から声をこぼす。


「俺はただ、納得したいだけだ。この俺が何故二位であるのかを……」


 常に一位として、人の上に立ち続けた男だ。

 それを維持するための努力だって人一倍してきたのだろう。

 だというのに己が二位である現実。

 それを受け入れられない故の行動であることは俺も十分理解している。

 

「いいよ、受けてやる」


 俺はスッと了承した。


「い、いいのか、レオ!? こんな奴わざわざ相手にしなくたって……!」


「いいんだ、アル。それにそうカリカリすんなって」


 俺よりも感情を露にしているアルバレスの肩をポンポンと叩く。


「フンッ」


 ロッドは生意気に一度鼻を鳴らした。


「今からだ。ついて来い」





 そうしてロッドに言われるがままに俺はその背に同行した。

 アランドール魔法騎士学園の莫大な敷地内には、決闘場がいくつも存在する。

 あらかじめ目星をつけていたのだろう、ロッドは数ある決闘場の中でもこじんまりとした地味な場所を選んできた。


 俺たちぐらいしか好んで寄り付かなさそうな所だった。

 これは正式な許諾を受けていない非公式の決闘である。

 ロッドにも校則違反をしている後ろめたさは多少あるようだ。


 そして背後の観覧席に座る者たちに対して一応『ついて来ないでいい』と少なからず凄味を効かせて言っておいたのだが、そんな事全くお構いなしに野次馬みたいなギャラリーも居た。


「レオ! こてんぱんにしてやれ! 一位の威厳を見せつけろ!」


「見つかったら絶対先生に怒られるよ~」

「……お手並み拝見といきますか」


 本来ならば正式な決闘には立合人が必要とするが、今回はこのギャラリーがその役割を担ってくれるだろう。

 まあ非公式だから、こういうのも別に適当でいいだろう。


「チッ、べらべらとうるさい奴らだ」


 ロッドは周りのギャラリーに分かりやすく苛立ちを見せる。


「すまん、ついて来るなとは言ったんだが……」


 そうして、無言の時間が流れる。

 お互い決闘用の木剣を握り、静かに向かい合った。


 非公式故、この試合に勝っても負けても順位の変動というものはない。

 サクッと負けてやるか、とも一瞬考えたが、それは火に油を注ぐだけの結果になるかもしれないと思い踏みとどまることにした。


 むしろより彼のプライドを今以上に踏みにじる事になるだろう。

 だったら、ちゃんと勝って完膚なきまでにプライドを粉々してやる。

 二度と俺に挑む気すら無くすように。


「準備はいいか」


 ロッドが俺に投げかける。


「いつでもどうぞ」


 ギリ、とロッドの靴が砂利を噛む音が聞こえた。

 瞬間、ロッドは猛烈な勢いで真っすぐに飛ぶ。

 わざわざ避けることもなく、俺はそれを悠然と待ち構える。

 そしてそのまま、乾いた音を立てて二本の木剣が交錯した。


 重く鋭い一撃。

 一度剣を交わしただけでも否応なく理解させられる、実力者の一太刀。


 更にロッドはそこから深く体重をかけたので、受け止めた木剣がミシリと軋み上がった。

 このまま押されるままでは後手に回ってしまうので、俺はそれを横薙ぎに振り払う。

 今度はこちらから仕掛ける。


 よろけて、まだしっかりとバランスを取れていない所に、俺は容赦なく剣を斬りこむ。

 しかし腰を捻転させて片手で弾かれ、ロッドに上手く対応される。


 そこからは、鋭い剣戟の応酬が始まった。

 カン、カン、カン!と小気味良い音が連続させながら、俺たちは目にもとまらぬ速度で幾度も斬り結ぶ。

 火花が出ているのではないかと錯覚するほどの激しい剣の嵐。


 ……戦闘センスに関しては十分だな。

 俺は内心ロッドの剣捌きに感嘆していた。


 実力を疑ってはいなかったが、流石の学年二位だ。

 俺がいなければ一位であったのも頷ける。

 剣術だけで言うならば、ほぼ互角と言っていいだろう。


 俺はというと魔法を極めてしまって以来、わざわざ剣を使う機会がほとほとに無くなってしまい、しばらく稽古をサボりがちだった。

 その弊害が今出ているかもしれない。

 このまま剣で斬り合い続けても埒が明かないだろう。


 だったら魔法で決着をつけるしかない。

 俺が魔法を使おうとしたとき、ロッドから先制の一撃が飛んできた。


「フレイムバースト!」


 炎の絨毯がこちらにまで燃え広がってくる。

 火属性魔法Lv5の技。

 まだ入学間もない新入生が気軽に使える魔法ではない。

 魔法に関しても剣術と同等に才覚があるのは容易に見て取れる。


「ウォーターウォール」


 俺はそれを、火と相性の良い水の壁で防ぐ。

 火の波は消火されて、瞬く間に霧散した。


「なっ!?」


 自身のある魔法だったのだろう。

 それが一瞬で無に帰せばそういう反応にもなる。

 俺はその動揺を、僅かに生まれた心の隙を見逃さない。


「スパーク・オートモーション」


 雷属性魔法Lv9『スパーク・オートモーション』

 微弱な電気信号を脳に送り、一時的に超人的な体術を会得する魔法。

 加減を間違えて送る電気が強すぎれば脳に障害が残る恐れがある危険な魔法でもある。


 俺クラスの熟練度が無いとまず使用は出来ない。

 これは自分の意識と反して、反射で体が勝手に動くようになるものだ。

 迫り来る敵への迎撃、もしくは定めたターゲットの撃破を自動で行ってくれる。

 俺は速度をMAX、威力は最小限に設定した。


「行くぞ」


 告げた後、バチッと、電撃の刺激音が鳴った。

 すると俺は音速の三倍の速度でロッドの目前に現れた。

 あまりの速度に驚愕で目を丸くするロッド。

 そのまま鳩尾に掌底をお見舞いする。

 分かっていた所で体の方は追い付けないので、防御不可の一撃である。


「ガッ!」


 息が詰まったような声を発して、ロッドはゆっくりとその場に崩れ落ちる。

 威力は最小なので、多分、死にはしないだろう。

 死んでないよな……?

 そこまで弱い相手ではないと俺は信じる。


 この魔法は、一時的に人体の限界を軽く超える。

 軟弱な体の者が使用すると、至る箇所の筋肉が断裂したり、皮膚が灼け焦げたりするのでオススメはしない。

 デメリットは多いが、しかしその分これを使って負けたことは一度もない。


「す、すげぇ!」


「速すぎ! あれが人間のする動き!?」

「……何も見えなかった」


 その神速の一撃にギャラリーも沸いた。


 こうして、決闘は終わった。

 




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