第7話 小さな孤独と挑戦

 転生してから、半年程の月日が経った。

 性欲を抑えるため、相も変わらず血反吐を吐くような努力を続けた俺は、メキメキと剣と魔法の実力を上げていった。

 魔力もここ半年で莫大に増え、出来ることも大幅に増えた。


 しかし。

 ただ愚直に、剣や魔法の修行に明け暮れる毎日。

 そんな日々を繰り返していると、時折、底なしの孤独を感じることがある。


 ところで人間関係の方なのだが、レオナルドには同年代の友達と呼べるものは一人もいない。

 この歳の子供なんて皆、遊び盛りだろう。

 もちろん前世の俺の精神年齢は大人であるはずだが、この体の実年齢に精神が引っ張られているのか、無性に寂しさを感じる日もある。


 努力ばかりの毎日。

 ふと、俺は一体何をしているだろうと考えむことがある。

 だがそんな不安も、自己催眠で掻き消して、すぐに元通りなのだが。



 やはり友達がいないのは、こんな傲岸不遜な性格をしているからだろう。

 そもそも誰も俺に寄り付くことすらなかった。

 話す相手と言えば、両親かルドルフ、メイドのサーシャくらいなものだ。


 サーシャと言えばだが、俺はこれでまでずっと彼女の存在を避けてきた。

 でも何故か、最近よく屋敷内で遭遇し、しかもあっちの方から話しかけてくることが増えた。


 これまで相当嫌がらせをしてきたので、普通ならば嫌われて当然だと思うのだが。

 ……なんとも不思議でならない。

 だがそれは孤独な俺にとっては有難かった。


 この体質上、不必要に女性と関わるのは困難かと思われたが、エロいハプニングさえ無ければ普通の状態でいられる。

 サーシャのおかげで、最近は女性とも他愛無い日常会話を楽しむ余裕ができた。 

 ただ何がきっかけで性欲が沸くか分からないので、会話にぎこちなさや緊張感が少し残るが。


「ご馳走になった。今日も美味かったぞ」


 夕食を済まし、俺は去り際シェフに声をかける。


「ありがとうございます坊ちゃま。私には勿体ないお言葉です」


 以前まで俺に対しビクビクしていたシェフとも関係は良好になった。

 屋敷に勤める者たちの俺へのイメージも随分柔らかくなったように感じる。

 

 自室へと戻り、今日も夜の特訓に向けての準備をする。

 準備の際、ちらと、俺は部屋の鏡を見た。

 そこに映るのは肥満とはかけ離れた、どこにでもいるような普通の少年。

 この半年で、俺は見違えるほどに痩せた。


 だいたい数字で言うと体重は20㎏落ちた。

 人間20㎏体重が落ちれば、別人のように生まれ変わる。

 フェイスラインもくっきりと浮き出て、全体的に丸かったフォルムがシュッとした。


 思わず、こいつ、こんな顔だっけと驚くほどに。

 痩せたら案外見れなくもない顔をしている。

 俺をイケメンと呼ぶかどうかは、人それぞれの価値観によるだろうが。


 そして日々のハードなトレーニングのおかげか、腹筋も微かに割れ始めている。

 ただ子供のうちから筋トレをすると、背が伸びないという迷信を思い出したので最近は控えつつあるが……。


 さて、準備も出来た所で今宵も森に向かおう。

 そして今日はやりたいことがある。

 俺の華々しいデビュー戦だ。


「今晩も出かけられるのですね」


 部屋を出た時、そこにはメイドのサーシャが居た。

 この時間に出くわすのは初めてで、俺は少々面食らった。


「あ、えっと……食後の散歩に」


「いってらっしゃいませ。お着替えは部屋に置いておきますね」


 手には、俺の寝間着が大事そうに抱えられていた。

 まるでサーシャは俺がいつも汗だくで帰ってくるの知っているかのような用意周到っぷり。

 多分、俺が何をやっているのかバレバレだ。

 もうわざわざ隠す必要なんてないのかもしれない。


「……サーシャは、止めないのか? 俺、門限ぶち破ってるけど」


「私が止めても、どうせ行ってしまわれるのでしょう?」


「……まあ、隠れてな」


「日々レオナルド様が頑張っているのは分かっています。なぜそこまで熱心に励んでいるのかまでは分かりませんが、私は密かに貴方様のことを応援しております。ですがどうか無理をなさらず。お気をつけて」


 サーシャの言葉には、切に思う気持ちが込められていた。

 不意打ちのその言葉で、少し気持ちが暖かくなった。

 俺は俺が思ってるほど、孤独な人間ではなかったらしい。

 

「ああ、ありがとう。行ってくる」


 俺が頑張る理由。

 それは数多ある死亡フラグを回避すること。

 一パーセントでも生存率を上げるためには、強くならねばならない。


 今日も頑張ろう。





 汗をかいた肌には、夜風が気持ちいい。

 俺は夜の森で、火照った体を涼ませながら今日やることを考えた。


「いつもの、アレやるかあ」


 開けた地に手をかざすと、けたましい音を立てながら、隕石が落下したみたいなクレーターが穿たれる。

 そして辺りに飛び散った土が、ヒト型の戦士を構築し始める。


 この半年で俺はかなり強くなった。

 そう断言できるほどに自信もついた。


 具体的に言うと、時間がかかると思われていた巨大な岩石を破壊した。

 今だと一度のファイヤーボールで粉々に破壊し、消し炭にすることが出来る。

 しかし、火力が上がると困ることがある。

 それは周りに与える被害が大きくなることだ。


 特に火の魔法と雷の魔法を使用すると山火事の恐れが出てくるため、今の俺だと迂闊に使えない。

 安全なのもので言えば、風魔法で滝をぶった斬ったり、氷魔法で川の水を全て凍らせて、火魔法で一瞬で蒸発させたりなどだ。

 まあ、川の魚が全滅したので、最後のは二度とやらなくなったが。


 むしろ最近は火力を上げることよりも、複雑に魔法を操作する事に重きを置いている。

 未だに揺れながら落ちる木の葉をすべて分断することは出来ないが、半年前よりはだいぶマシになった。

 精密性を上げるのは今後の課題だろう。


 そして最近俺は土魔法にハマっている

 土魔法で、100坪ほどの小さな土の城を作ったりしていた。

 精密な魔力操作が必要とされるため中々大変だが、やり甲斐があってお遊び感覚で楽しめる。

 最初は数時間かかったが、今では30分で完成させられるようになった。


 あとは、ゴーレムを二体生み出しそいつらを戦わせたりする。

 操作しているのは結局俺なので勝敗は分かりきっているが。

 決着がつかない時もあるし、相打ちの時で終わる時もある。


「よし、やれ! そこだ!」


 たった今、目の前で二体のゴーレムが激しいファイトを繰り広げている。

 それを俺はプロレス感覚で観戦する。

 全ては俺の匙加減だし、気分次第で決まる八百長。

 娯楽が無いと暇なのだ。


 ここで一応、魔法の属性の整理をしておくとしよう。


 基本的に、属性魔法は一人の人間なら一属性しか扱えないとされている。

 才能のあるものなら二属性、天才と呼ばれるものは三属性扱える。

 そんな中俺は、火、水、土、風、雷、氷、の六属性を扱える。

 要は超天才ということだ。


 如何にレオナルドが宝の持ち腐れであったかよく分かるだろう。

 まあ四六時中エロい事しか頭になく催眠魔法にしか、かまけていられなかった奴なら仕方ない部分もあるかもしれないが。


 そして属性魔法の他に、特殊属性と呼ばれるものも存在する。

 俺の催眠魔法がそれだ。

 他には、光、闇、音、重力、爆破……etc


 これは努力で習得できるものはなく、完全に運だ。

 

「さて、ウォーミングアップも終わったし、そろそろ挑みますか」


 目の前にはチョコレートみたいにドロドロに溶けたゴーレムの残骸があった。

 今日の結果は、途中で飽きて勝敗付かず。

 やがてクレーターのように穿たれ穴に、ドロドロの土が帰っていき、あっという間に元通りとなった。


 今日は危険とさている森の奥深くまで行ってみると決めていた。

 俺の半年分の努力の成果を確かめたい。

 今の俺はどこまで通用するのか。


 逸る気持ちを抑えながら、しばらく進んでいくと『ここから先危険』と看板が立てかけらていた。


「まあ、ヤバかったらすぐ帰りゃいいし」


 適度な緊張感とワクワク感が同時に胸を占める。


 そうして俺は、危険領域に足を踏み入れた。


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