第27話

わたしは緊張しながら屋敷の門に向かった。


「お、お嬢様!」

門兵がわたしを見て驚いていた。


「久しぶりね、通して貰えるかしら?」

わたしは緊張気味に言ったので少しキツイ言い方になっていたかもしれない。


門兵は、「すみません、どうぞお入りください」と、ビクビクしていた。


「お母様?お顔が怖いよ」


「あ!ごめんなさい、少し緊張していたみたい」

わたしは門兵になんとか笑顔を作って微笑んだ。




久しぶりの屋敷はわたしを温かく迎え入れてくれた。


「お母様、とても大きなお家ですね、お母様はここで育ったのですか?」


ウランは好奇心旺盛で屋敷の中に入るとキョロキョロとしていた。


沢山の使用人が玄関に入ると並んで出迎えてくれた。


「お嬢様、ウラン様、お帰りなさいませ」


ウランはみんなの出迎えに驚いていたけど、人懐っこい子なので笑顔で

「ただいま?え、えっと、お邪魔します?」

と、挨拶をしてみんなの空気を和ませていた。


「ミシェル、ウラン、お帰りなさい」

お母様が急いで出てきてわたしを抱きしめると


「ウラン、体調は?早くベッドに寝かせましょう、お医者様も呼んであるわ」


と、わたしから離れてウランの手を握り急かすように引っ張って行こうとした。


「お母様、ウランは確かに疲れていると思いますが、ご挨拶するくらいの体力はもう十分にあります」


「お祖母様、初めまして。ウランと言います。

しばらくお世話になります」


「ウラン……貴方が赤ちゃんの時に会っているのよ、こんなに大きくなって、会えて嬉しいわ」


「会ったことあるの?」

ウランはキョトンとしていた。


確かにウランにはわたしの過去の話は一切していなかった。


この前少しだけ父親のこととか話しただけだった。


挨拶が終わり、ウランはすぐにベッドに横になった。


やはり病み上がりで疲れているのだろう。


すぐに眠りについてしまった。


そしてお医者様もウランの病気の話を聞いて驚いていた。


この国では白血病はまず治ることはなく死を意味しているから。


ウランはただの疲れで少し顔色が悪かっただけだった。

アイリス様にウランのためにと数種類の薬を持たされていた。

だから何かあっても対処することはできた。


それでも横になって体を休めることの方がもちろんいいわけで、ウランの可愛い寝顔にわたしは少しホッとしながらわたしはお父様の執務室へと向かった。


「ミシェル、お父様がお帰りになったわ」


数年ぶりのお父様はわたしを受け入れてくれるだろうか。

「もうお前など娘でもない」と言われても仕方がない。

あんな形で家を出たのだから。

お父様の言いなりになって、お父様に振り回されるのが嫌だった。

ウランを犠牲にしたくなかった。



「失礼します」


執務室に入ったわたしの目の前にいる父は、少し老けていた。


「ミシェル、よく帰ってきたな」

これは帰ってくるなと言う意味なのか?

それとも迎え入れてくれたのか?


わたしが考え込んで黙って立っていると、

「そんなにわたしが嫌だったか?わたしは確かにお前に対して酷いことをしたのかもしれない。お前の気持ちも考えずに動いてお前を傷つけた」


お父様が反省している?

あんなに傲慢で自信に溢れている人なのに。


「ミシェル、お父様は貴女を探し続けていたのよ、もちろんわたしは教えてあげなかったから、必死で探して回っていたわ」


「ミシェルの居場所を知っていたなら教えてくれてもよかっただろう?」


「だってミシェルは貴方達を信用出来ないから出て行ったのよ?教えるわけがないじゃない」

お母様は何をこの人は言っているの?と溜息をついていた。


「ただね、後悔はしているわ。まさかウランが白血病になるなんて思わなかったから……モーリス国に行って治療してもらったと聞いたわ、とてもいい人達に巡り会えて良かったわ」


「はい、ロバート様とアイリス様に出会わなければウランの命はなかったと思います。

わたしはそれがあってここに戻ってきました。

お願いです、お金を貸してください。

ロバート様達はお金は要らないと言ってくれます。でも甘える訳にはいかない。きちんと支払いたいのです。わたしにはその力はありません、貸して欲しいのです、必ず働いて返します。

お父様お願いいたします」


「もしウランの病気のことがなければここに戻ってくることはなかったのだろうな」


「すみません、多分一生お会いすることはなかったと思います。ずるい娘です、それでもわたしはお父様に頭を下げるしかないのです」


「……貸すことはできない」








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