愛していました、でも愛されてはいませんでした。

第28話

「もしウランの病気のことがなければここに戻ってくることはなかったのだろうな」

「すみません、多分一生お会いすることはなかったと思います。ずるい娘です、それでもわたしはお父様に頭を下げるしかないのです」

「……貸すことはできない」

わたしは唇をグッと噛んだ。

仕方がない、わたしが逃げ回っていたのだから

「お父様、では仕方ありませんね……」

「待て！」

「何か他にご用がありますか？」

「話は最後まで聞け！貸すことはできないがわたしが全て払うことはできる。

もうお前達が苦労しなくていい。治療費は全てわたしが負担する、だから戻ってきてくれ」

「………お父様？……わたしを怒ってはいないのですか？」

「怒っていない、すまなかった。お前に良かれと思ってしたのにお前に辛い思いばかりさせていた。もうウランを連れて出て行かないでくれ」

「ミシェル、お父様を許してはくれないかしら？この不器用な愛情しか貴方に向けられない人だけど、ずっと後悔してきたの。

それに、わたし達もウランがもし死んでいたら後悔して生きていかなければならなかったわ。助けてあげられないなんて嫌なの、わたし達も一緒に苦しみも悲しみも背負わせてちょうだい」

「お父様、お母様……ありがとうございます。わたしは一人で頑張らないといけないと思い込んでいました」

意地っ張りのわたしは人に頭を下げるのが苦手。

お父様の不器用な優しさにだって気がついているし理解してはいるつもりだ。

でももう素直になりたい。

「お父様、ウランのこと助けてください、わたし一人の力ではロバート様達に恩をお返しすることができません。ウランの命を何の見返りもなく助けてくれたのです、わたしはきちんとお返ししたいのです」

わたしの目には熱いものが込み上げてきた。

「わかっている、ウランがもう駄目かもしれないという時に手を差し伸べてくれた人だ。もちろんお礼をさせてもらうよ」

「ありがとうございます」

「……ところでライアンのことなんだが……」

「はい、わたしもライアンとあんな別れ方で終わりきちんとウランと会わせてあげなかったことを後悔しております。今回はウランとライアンを会わせてあげたいと思っています。もちろんライアンが望んでくだされば……」

「いや、違うんだ……ライアンはミシェルとまだ離縁していないんだ。お前が屋敷を出て行ってから、ライアンは手続きをせずにお前を探し続けていたんだ。まさか国外にいるとは思わずに、国中を探し回っていたんだ。アンナが王都に帰ってきたと聞き、アンナに何度も話を聞きに行ったんだが話すら出来なかった」

「当たり前でしょう？ミシェルは貴方達を捨てたのよ、アンナが一切情報を与えるわけないでしょう？」

「ライアンとわたしはまだ離縁していないのですか？」

もう彼とは無関係だと思っていた。

ウランのことも彼に頼るつもりはなかった。

それなのにまだ彼はわたしの夫……でも…

「ルシア様は？」

わたしが呟いたのを聞いてお父様が溜息をついた。

「いい加減にライアンを信じてやれ。ルシアとは何にもない、お前だけをずっと愛しているんだ彼は。わたしが邪魔をしなければもっと上手くいったはずなのに、すまなかった」

「お父様、もういいのです。わたしとライアンはたとえ離縁していなくても、もう終わった関係です。意地とかではないのです、もう愛がないのです」

そう、わたしの中でもう終わってしまった。

「わかった……だったら最後にライアンに会ってきちんと別れてやってくれ」

「そうですね、ウランにとって彼は父親です。きちんと会わせて、そしてお別れしてきます」