第26話

「ウラン、かくれんぼってね、時間が経って見つけてもらえなかったら自分から鬼さんに会いに行くこともあるのよ」


「え?そんなルールがあるの?知らなかったよ」


(うん、わたしも知らないわ。今初めて作ったから)




◇ ◇ ◇


そしてわたしはウランの体調が安定してから、ロバート様に相談した。


「ウランを一度故郷に連れて帰ろうと思います。こちらで命を救っていただいてお世話になっておきながらまだ何のお返しも出来ておりません。

また日をあらためてお礼に伺います、どうかわたしの無礼をお許しください」


「俺は何にもしていない。あー、だが、セルマとリリーが寂しがるな。また顔を出してくれたらそれが恩返しだ。

いいな、今度は元気な姿で遊びに来い」


「ロバート様、それはお願いしていると言うより脅しているみたいですよ」

アイリス様が横で苦笑いをしていた。


「ミシェル様、ウラン君はやっと体が元気になってきましたが、まだ無理は禁物です。

故郷に帰ったらゆっくり向こうで過ごしてくださいね。そして元気になったらこちらに遊びに来てください、お待ちしています」





わたしは、それからウランと二人で故郷へ帰ることにした。


故郷に帰るには汽車に乗り故郷近くまで行き、そこから馬車を乗り継ぐことになる。


わたしの故郷の国は、まだ汽車が中央まで走っていない。


だからモーリス国からペルサイト国の王都の我が家まで四日かけて移動しなければいけない。


馬車だけなら十日はかかるので汽車の速さはとても素晴らしいし、まだ完全ではないウランには助かる乗り物だった。



どうしてウランが完全でないのにロバート様の家を出たかと言うと、全くお金も払っていない(お金がないので)のに、ずっと居続けるのが申し訳なさすぎたからだ。


最初の頃、ウランの治療費は高額で貯金は使い果たしていた。援助してもらったお金もほぼ使い果たしていた。


働いていないわたしにはお金がなかった。

いくら親切でお金はいらないと言ってくれても流石に元気になってきた息子とわたしが居候するには居た堪れなかった。


お父様に頭を下げてお金を貸してもらうつもりだ。


一生掛けて働いて返すので貸して欲しいとお願いしてみようと思っている。


結局人に甘えてばかりで自分では何もできない。


それでもウランを守るため、何を言われてもわたしはウランのためならプライドも捨てられるし恥ずかしいなんて思わない。


「お母様、汽車って速いね」

窓の外を眺めながらどんどん変わりゆく景色にウランは目が離せないでいた。


モーリス国に来る時はぐったりしていて外の景色に興味すら湧かなかったウランが、帰りはとてもはしゃいでいた。


こうやって元気な姿を見れるだけでわたしは十分幸せだった。


ライアンにも会いに行くつもりだ。


彼はわたしを探しているとジョージ様が言っていた。


ウランを引き取りたいのだろう。


ウランが父親と暮らしたいと言えばわたしはウランを手放す覚悟をしている。


お金さえあればウランの治療をもっと安心してすることができた。

わたしは女一人で育てることの大変さを身をもって知った。

わたしの力ではウランを立派な大人にはできない。


わたしは頭の中で色々と考え込んでいたのだろう。


「お母様、とっても怖い顔をしているよ?ほら、笑って!」


「ごめんなさい、少し緊張しているの、久しぶりに貴方のお祖父様にお会いするから」


「あ、そうか、お祖父様にも隠れていたんだね、大丈夫だよ、お母様のこと大好きだと思うよ!だって僕お母様が大好きだもの」


「ありがとう、わたしもウランが大好きよ、そして……貴方のお祖父様もウランのことが大好きだと思うわ」


「よかったぁ!お祖母様にも会えるんだよね?」


「ええ、そして、アンナにも会えると思うわ」


「アンナに?わぁ!嬉しいな、ずっと会いたかったんだ」


アンナはウランが生まれた時からずっと世話をしてくれていたので、とても懐いていた。


アンナがお嫁に行く時は大泣きして大変だった。


後を追いかけて、姿が見えなくなるまで泣き続けた。


ウランの元気な姿をアンナに見せたい。


もう病気も治って元気になったことを手紙ではなくウランを見せて安心させたい。



ペルサイト国についてから三日かけて馬車を乗り継ぎ、王都にある屋敷になんとか辿り着いた。


お母様にはサラ伯母様を通して帰ることを伝えてある。

お父様は多分ご存知ないはず……


わたしは緊張しながら屋敷の門に向かった。



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