捨てられた末っ子能無し令嬢は魔物を操り人々を救う

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 その世界には、神のような強大な力をもった者達がいた。


 彼らは五大貴族としてその世界に君臨し、様々な面で人々のトップにたっていた。


 炎を操るハートフレア家もその中の一つだ。


 しかしハートフレア家には、炎を使えない末っ子がいた。


 ハートフレア家の者達はその末っ子を、出来損ないだと判断し、魔物が多く住む森へ捨てることにしたのだった。







 捨てられた末っ子は、ケイトという名前の少女だ。


 ケイトは自分の状況がわからないくらい、幼かった。


 そのため、家族に捨てられたことを理解せずに森をさまようことになった。


 普通なら、魔物に食べられて殺されてしまうところだが、ケイトは生き残ることになる。


 なぜなら、ケイトはできそこないなどではなかったからだ。


 五大貴族の中でもたまに生まれる、特殊能力者だった。


 普通は炎を操ったり、水を操ったり、雷を放ったりするものだが、その枠にとらわれない力を持ったものが出てくる。


 それが特殊能力者。


 魔物を操ることができたケイトは襲ってこようとしたものに「さみしいから友達になってほしい」と命令した。


 そのため、魔物に襲われることなく生き延びることになった。


 ケイトには魔物を操る力が備わっていた。









 ケイト友達になった魔物は、ケイトの求めにはなんでも応じ、幼い少女が生きぬけるようにサポートした。


 食べ物を与え、危険な場所を教え、生き抜く知恵を様々に授けた。


 そうして一年、二年、三年と成長していくケイトはやがて自分の力と境遇に気付くようになり、友達である魔物とひと悶着を起こす。


ーー無理やり従わされている魔物は、対等な友達などではなかった。


ーー自分は家族に捨てられた人間だから、能力がなければ誰かといられるわけがない。


 幼い頃の記憶を思い出したケイトはショックを受ける。


 それゆえケイトは森から出ていこうとするが、それを魔物たちがひきとめた。


 その頃になると魔物たちは、ケイトのことを襲うべき対象とは見ていなくなった。


 理不尽な命令を下さなかったケイトを、子供の頃から見守ってきたケイトを、魔物たちは家族のように思っていたからだ。


 仲直りした両者は、友達ではなく家族としてやり直すことになった。








 そんな中、ケイト達が住む森の近くに、小さな村ができた。


 それはよそから追い出された者達の集まりだった。


 彼らは、とある国でとある国政に反対した変わり者として、国を追い出されたようだった。


 牢屋に入れられず遠くへ追いやられたのは、国王が知恵を働かせたためだ。


 姿を見せないことによって、変わり者たちの悲惨な末路を想像させるため。反抗を計画している者達へあることないこと、言いふらして好きにイメージ操作できるからだった。


 だからその国では、追放された彼らの末路を、生きたまま魔物に食べられたとか、未踏の地で蛮族になぶり殺されたとか考えられていた。







 そんなことを知らないケイトは彼らに興味を持った。


 それは、家族になった魔物たちが、友達ではなくなってしまったためだった。


 保護者としてそばにいるものとは別として、対等につきあえる存在が必要だった。


 友達がほしい、そう思ったケイトは彼らと仲良くするために近寄った。


 追放された彼らが住んでいるのは、ミスタル村という小さな村。


 一週間ほどで全員の顔を覚えられるようなそんな村民の数しかいなかった。







 はじめ、村の者達はケイトを警戒していた。


 魔物と仲良くする人間など見たことがなかったからだ。


 しかし、魔物は大人しくしていたし、村人に危害を加えることは一切なかった。


 それどころか、村の発展のために力を貸してくれる魔物すら存在した。


 ケイトのために行動しているという理由はあるものの、村人は徐々に魔物を受け入れはじめていた。







 ミスタル村になじんだケイトは子供たちと遊ぶことが多くなった。


 魔物を従えるおかしな少女として最初は警戒していたものの、子供の順応性は高かった。


 子供たちは、次第にケイトと打ち解けるようになっていった。


 遠くからそんな子供たちを見つめる魔物たちにも、母性や保護者としての意識が芽生え、彼らを導くように生き抜く知恵を教えたりもした。


 全てが順調にいっているかのように思えた。








 しかし、追放された者がまた新たに村へとやってきた。


 新たにやってきた者達は、自分たちの故郷がおかしくなってしまったと嘆いていた。


 彼らの故郷は、卑怯をするものたちによって牛耳られ、批判の声も言い出せないほど汚れていってしまったらしい。


 ミスタル村にいたものたちは、新たにやってきた者達をみながら悲しんだ。


 自分たちが愛していた故郷が変わっていくのを、ただ遠くから眺めていなければならないことに。


 その声をきいたケイトは決心した。


 空を飛べる魔物たちの力を借りで、彼らが言う国バーストアルケイア王国へと向かった。


 飛べない魔物とともに、空飛ぶ魔物の上で三日三晩すごしたケイトはやがてたどり着く。


 檻のように巨大な鉄格子で四方を囲まれた、巨大な国を。








 バーストアルケイア王国へたどりついたケイト。


 彼女を見つけた国の者たちは多く、騒ぎになった。だが、出迎えた者達の中にはなぜか、別の国にいるはずのハートフレア家の者達がいた。


 彼らはケイトが生きていたことに驚いたのち、歓迎するパーティーをひらくといった。


 ケイトは、今までの待遇からは考えられないキラキラした建物に連れていかれ、豪華なドレスを着せられ、きらびやかなパーティー会場へと案内された。


 その間、魔物たちは、国の外で待機することになった。


 一方会場にいる者達はみな、華やかな装いに身を包んでいたが、どこか嫌な雰囲気をまとっていた。


 笑っているものが多いが、その笑みはなんとなく美しくないもののように見えた。


 その理由を、ケイトはしばらくして知った。


 そのパーティー会場にいる者達はみな、自分の欲を満たすためだけに人を虐げてきた者達だった。


 国の中を見てきてほしいと、ケイトは事前にとある小さな魔物たちに頼んでいたから、分かったことだ。


 人の目につかないような小さな魔物たちは、国の中の様子をケイトに報告する。


 一般市民たちはみな、飢えに苦しみ、病気に苦しみ、監視される中で不満も言えないでいた。







 ミスタル村の故郷の者達が苦しんでいる。


 それを知ったケイトはその国の者達を解放したいと考えていた。


 決意を固めるケイトに、ハートフレア家の者達が語り掛ける。


 彼らは優しい表情でケイトに告げた。


 今まで無能だと思っていたけど、それは間違いだった。


 ケイトがいれば、自分たちはさらに人の上に立てるだろうと。


 そのためにケイトに親孝行をしてほしいと。


 彼らは魔物の力を利用しようとしていた。


 ケイトは首を振った。


 ケイトが親だと思うのは、魔物たちだけ。


 その魔物たちに親孝行するなら、自分のしたいように、自分の心に恥じないように生きるべきだと思ったのだ。


 ケイトは魔物たちの助けを受けながら隙を見て、その国から逃亡。


 バーストアルケイア王国にすくう悪を倒すことを決意した。








 そんな中、ミスタル村にアクアフリード帝国の者がやってきた。


 彼らは、バーストアルケイア王国の非道を許せないと述べる者達だった。


 そのために、追放された者達に悪事の証言をしてほしいといった。


 アクアフリード帝国は、バーストアルケイア王国を倒すため、戦力を集めている最中だった。


 しかし、戦いには正義がなければならない。


 そう考えていたアクアフリード帝国は、バーストアルケイア王国から追放された者達に証言を頼むことにしたのだ。


 ミスタル村の者達は、他国の力を借りる事を最初は渋っていたが、アクアフリードから寄せられた使者の丁寧な態度をみて、次第に考えを変えていった。


 故郷を正しい姿に戻す。


 そのために、彼らは協力することを決めたのだった。







 ミスタル村に戻ってきたケイトはその話に協力すると申し出た。


 自分もバーストアルケイア王国の現状は間違っていると思っていたし、ミスタル村の者達を助けたいと考えていたからだ。


 そのため、ケイト達はアクアフリード帝国に招かれることになった。







 様々な人々が、身分関係なく生活するアクアフリード帝国は、穏やかで理想の国のようだった。


 その国の姿を見たミスタル村の者達と、ケイトは自分たちの決断に自信を持った。


 彼らはさっそくバーストアルケイア王国を倒すための、策を練っていく。








 やがてそれから数か月が経過した。


 バーストアルケイア王国では、冬の到来を前にして死者が増加し、一般市民たちがさらに苦しい生活を強いられていた。


 監視の目もきつくなり、互いの怪しい行動を密告するのが推奨されてからは、人々は疑心暗鬼に陥っていた。


 そんな中アクアフリード帝国の者達が、バーストアルケイアへ向かう。


 賄賂などをもらって腐りきっていた者達は、同じく賄賂を用意したアクアフリードの者達が、国の内部へ侵入していくのを見逃してしまった。


 そうして、少数精鋭で乗り込んだアクアフリード帝国の軍人たちは、国の中央を掌握。


 バーストアルケイア王国を、正しい者達の手へ取り戻すことを成功したのだった。








 そんな中、異変を察知して秘密裏に国を脱出しようとする貴族たちがいた。


 ケイト達は魔物を使って、それらを察知。


 ミスタル村の者達と協力して国外へ出られないように対処していった。


 最後に秘密の地下通路から脱出しようとしたのは、ハートフレア家のものだった。


 彼らはケイトに「助けてくれ」と命乞いをして、「見逃してくれたら財産を分けてやる」と取引をもちかえてきた。


 しかしケイトはこれに応じず、彼らを捕まえようとした。


 それを見たハートフレア家の者達は、捕まるまいと逃げ出すのだが、待機していた魔物に脅されて気を失ってしまったのだった。








 騒動が収まった後。


 バーストアルケイア王国をめちゃくちゃにした者達はすべて処刑された。


 処罰したという証拠を示すため、それらはすべて国の広場で行われていった。


 ハートフレア家の者達も同じだった。


 彼らは「うまい話があるからと、こんな国に来なければ」と嘆いていた。


 そして、広場に集った者達の中にケイトの姿を見つけて、罵声をあびせた。


「能無しなんてそもそも生かさなければよかった」


「追放なんて甘いことをせずに、息の根を止めてしまえば良かった」と述べる。


 聞くに堪えない。


 そう思ったケイトの魔物たちが、ハートフレア家の者達へと集まる。


 彼らは親として、ケイトに対する罵声を許すことはできなかった。


 その様子を見た執行人は、ハートフレア家の者達を解放したが、それが罪を許した証ではなかった。


 逃げようとするハートフレア家を、魔物が切り裂き、かみ砕いていった。


 彼らは他の罪人達よりもはるかに強い苦しみと絶望を味わいながら、この世を去ったのだった。








 そのあと、バーストアルケイア王国はたてなおされ、民を大切にする良い国へ変化していった。


 アクアフリード帝国とも、長く国交を結ぶことになる。


 ケイトや追放されたミスタル村の者達は英雄としてあがめられ、国の守り神として多くの者達から称えられることになった。 


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