第六章 男子会の後(のち)、女子会へ、

 赤枝(あかし) 静(せい)――――。


 104号室、高木明人の部屋。

 只今女子に聞かれないようにBGMとして流れている音楽は、UNISON SQUARE GARDENの色んな曲詰め合わせ。

「それで議長、本日のお題は?」

「まさか……、また入学式同様なにかでかいことの企(たくら)みを!?」

 蓮君とアッキーが俺に期待の目を向けてくる。

 入学式にクラス全員でサボる。というのは相当でかいことだったらしい。

「いや、要点は二つだ。俺達四人は女子の内誰が好きなのか、をハッキリさせておくことと、アイシャさんと漫研部員の岸谷先輩のために、正式な文化系部室の集まる部室棟の内一室をプレゼントしようと思う」

 俺以外の三人が固まった。

 好きな人、と言っても、始めから男子も男子同士でどの女子が好きなどとは決まっていないのだ、三人はう~んと考えこみ、

「確かに好きな人が被らないのは理想だけど、既に好きな人が決まっているのはおかしいと思う、まだ出会って数日だぞ?」

 蓮君の意見に公明君は「そうだそうだ」と便乗する。

「でもまぁ気になってる人はいるだろ、実際一目ぼれの方が長く続くっていうらしいし、それぐらいは報告しとこうぜ」

 俺の意見に公明君は「それもそうだ」と便乗する。

「ってなわけで、トランプでもやりながら気軽に暴露してこうぜ、俺は仁科 桃と九条 アリサとルルシー・ヴァイオレット」

 俺の言葉と共に大富豪は始まった。

「アイシャ・グローリー。と、ルルシー・ヴァイオレット」

 蓮君がトランプに集中してるのか、手札を見ながらカードを場に出す。

「アイシャ・グローリーと、ルルシー・ヴァイオレットと、瀬田 夕子」

 ルルシーさんモテモテだな。

公明君が2を出して場を流しつつ三人の名前を出した。

 三人もの名を挙げる優柔不断行為。俺も人の事は言えないのだが。

こういう奴がモテてる現状を見てるとイラっとくるのは俺だけだろうか? さっき焼肉で、アイシャさんとルルシーさんにやたらと肉もらってたし。

 でも優しい所もあるんだよなぁ~。

 食ってた部位は殆ど肉厚な部位で腹に溜まるもので、薄い肉とか腹に溜まらないものは焼き肉大好きっていう瀬田に上げてたしな。モテるのも納得だ。

そもそもこいつが恥を忍んで、オナニー大好き! とか暴露することでアイシャさん戻ってきたわけだしな……。皆こいつにもっと感謝しないと、あ、でもこいつのせいで恥ずかしい思いしたからプラマイゼロだ。

 残るはアッキーだ。

「ボクは 瀬田 夕子」

8流しで場を流し再びカードを場に出す。

 そんな感じで男子皆の気になる人は全員暴露しあった。

「なんていうか皆ルルシーさん好きなんだな」俺は率直な感想を述べた。

「そりゃあ…………エロ過ぎるのが悪い」童貞の蓮君には刺激が強すぎるのだろう。

「みんなルルシーさんには優しくしよう」公明、もうお前は一生オナってろ。

「さて、お次はどうやって部室棟の一室をプレゼントするかだ。どうすればいいと思う?」

 そこでBGMを停めトランプも止めた。

 もう恥ずかしいことは無いので、皆頭を使って考える。

「いや、普通に申請すれば通るんじゃね? 社会科教室はアイシャさんが気持ち悪くなっちゃうから部室棟くれって言えば、学校側も問題あったわけだから……そう思わん?」

 蓮君が皆に同意を求めるように提案した。

「まぁそれもそうか」

 俺は普通に蓮君の案に納得した。

「そういえば俺も先輩に聞いた話なんだけど……」

 と言い虚空を見つめ先輩が言っていたことを思いだす。

「え? ちょっと待って赤枝君、先輩と交流あるの? ってああそっか、先輩の漫研部員の岸谷先輩か……忘れてた」

「そうだったそうだった、土曜日に話し合ったんだっけ? 流石覇王」

「先輩の漫研部員の存在な、忘れてたわ?」

 アッキーと蓮君と公明君が納得した。

 しかし皆のその予想を俺は裏切ることになる。

「いや、その先輩漫研部員の岸谷先輩じゃなくて、オフ会で知り合った先輩。活動実績があればいいんだよ、確か……、こういうこともあろうかと思って聞いといた」

「お、オフ会?」

「これが現代の高校生事情なのか、信じられん……」

「凄いなぁ赤枝君は……」

 別にそこまで凄いことはしてないんだけどな、オフ会で先輩いたから話聞いただけだし。

「なんか皆俺の事もち上げるけど、俺声かけする位しかしてないよ? 入学式の時も『皆の事深く知りたいから一緒に式サボって遊びにいかん? 金俺出すし! 真面目君は式出ればいいけど』、って言ったら皆ついて来ちゃっただけだし……」

「いやそれ真面目に式出たらマジメ君になっちゃうし、金出すって普通言わんでしょ覇王様……」

「そうだよ、金はどうしたって言うのさ? 魔王じゃないと払えないでしょ?」

蓮君とアッキーが尋ねてくるが、

「いや、それもオフ会で知り合ったオッサンが入学式に遊びに行ったアミューズメント施設のオーナーだったんだよ。皆で来たら一回は無料で遊ばせてあげるっていうから行っただけ、皆ポイントカード作らされただろ?」

「マジかよ、オフ会すげえな」

 蓮君がスマホを見つめる。まさかスマホでオフ会を探そうと? 

「ボクもオフ会行けばモテるかな?」

「アッキーそんなにモテたいなら、美容師のお兄さん紹介しようか?」

「いや、俺はあえてちんこヘアーメガネで女子に罵られるよ。それが好きだからな。モテるための活動は音楽活動で何とかする。あと部活中は先輩からちんこヘアーメガネ禁止令がでた」

「そ、そうか、頑張れ」

 それにしても思い出した。活動実績だ。

「で、でもさ、そもそもな大事なことなんだけど……」

「なんだい公明君?」

「アイシャさんが別に部室棟いるって言ってないなら無理に活動実績作らなくても教室とかでいいんじゃないかな? アイシャさんの気持ちは?」

「それは俺も考えた。だから土曜日の日に先輩の漫研部員に聞いといたんだ。そしたら部室棟の昨年度の漫研の部室が片付けられずに残ってるからそこ使いたいってさ!」

「そうなんだ……、じゃあ先輩の漫研部員さんの岸谷先輩喜ばす為に俺は明日部長のアイシャさんの許可とったら、掃除でもするよ」

「大がそうするんなら俺も手伝うよ」

「ボクは軽音楽部の活動があるから……でも文化部部室棟だったら軽音楽部も入ってるから様子見て掃除手伝うよ」

「ちんこヘアーメガネはもうちんこヘアーメガネ辞めて普通にモテて童貞卒業しろよ! なんだよ、女子に罵られたいって!?」

 公明君の言う通りだった。

「ホントだよ。なんだよ女子に罵られたいって!?」蓮君もこれには同意。

「う、うるさいな、いいだろ性癖なんだから! 小学校の時好きな女子に色々言われてちんこヘアーメガネって言われるのちょっと快感になってんだよ、大ちゃんだってオナニー野郎じゃないか!」

「オナニーは、みんなするだろ!?」

 二人の間で軽い言葉のジャブの応酬が繰り広げられる。

「どっちも変態ってことで、じゃあ解散!」醜い争いになりそうだったので俺は適当に終わらせた。

こうして第一回男子会は終了した。



 瀬田 夕子――――。

「みんなちょっといい!?」

私は女子を集める事にした。

「どうしたんすか?」

「なにー?」

 ルルシーと九条が反応する。

「…………」

 桃は無反応。

「私達は女子会を開くことにしました」

 勝手な私の宣言に、意外と皆食いついた。

「へぇー、何処でっすか?」

「私か九条の部屋で……、男子について語ります」

「いいわね、具体的には?」

「桃は今忙しい、明後日以降なら話せる」

「じゃあ桃は抜きで、好きな男子について語りましょう」

「じゃあ夕子さんの部屋で語るっすー」

「じゃあお茶入れてくるから待ってて」

九条はお茶を入れていた。日本茶を急須に入れてくるようだ。

もちろんアイシャも除け者にはしない。

スマホでビデオ通話で連絡をとり、参加させる。

「あ、アイシャ? 今から女子会開くから参加して!」

「は、はぁ……」

 一応私の部屋に集まるが、この場に居ないアイシャを考慮して複数人ビデオ通話を利用する。


202号室、瀬田 夕子の部屋に集まったひまわり荘の住人プラスアイシャは、女子会を開いていた。

「それで、話は?」

 九条さんが全員分のお茶を入れ、湯呑(ゆのみ)に口をつけ一息ついた所で聞いてきた。

「あ、うん、今の時点で気になってる男子について確認しとこうって話なんだけど」

「ああ、それなら私は公明 正大君」

 九条さんが大ちゃんの事を何も知らないのに堂々と言って来やがった。

「いいの? 大ちゃんオナニー大好きだよ?」

「…………はぁ?」

 まぁ初めて聞く奴は皆こういう態度取るんだよな。

「じゃあ瀬田さんは?」

「大ちゃん」

「オナニー大好きなのに?」

「昔お互いをオカズにお互いオナニーしてるし……」

「頭おかしいよ瀬田」

 九条さんは引いている。

「ルルシーは?」

 話を振ってみる。

「公明君と蓮君ですかね?」

「神宮司君は名前呼びなんだ」

 一々九条さんは突っかかってくる。

「九条さん、大ちゃん好きだからって悪態つくのやめなよ」

 私の忠告も聞かない。

「だってどう考えても四人の内公明君の方が良いでしょ、前髪鬼太郎の私にあんな優しくしてくれた人見たこと無いよ」

「あぁ~」

 私はそこら辺の事を詳しく説明してあげる。

「九条さん、ハンドクリームとか塗ってるし匂いにもかなり気を付けてるでしょ?」

「それだけで前髪鬼太郎の私にあんなに優しくしてくれるの?」

 う~ん、一体どう説明したものか……説明に困るな。

「大ちゃんがカワイイ女の子や魅力を感じた女子に優しくしてあげるのはね、オナニーのためなんだよ」

 九条さんは(コイツバカじゃねーの)

 という空気感を出しながら、髪に隠れつつもうっすらと見える、バカを見るような表情をして、私を見てくる。なんて失礼な女だ。

 しょうがない、もう少し解説してやるか。

「ええっと、オナニーでオカズにした子を汚すのは失礼な行為でしょ? だからその罪悪感を払拭するため大ちゃんは女の子に優しいの」

九条さんは頭では理解しているが心が納得していないのか、

「ええ、そんな……、ウソでしょ……?」

 とフリーズしている。

「じゃあ最後、アイシャさんは?」

「私も公明君ですかね?」

「マジかよ大ちゃんモテモテだな、何でまた」

「まぁ出会いが偶然であれ助けてもらいましたし、色んな事で救われてますしね。オナニーのオカズにされただけで嫌いになりません」

「そっかぁー」

 私は納得してしまう。

「じゃあ私の話はこれで終わりなんだけど、他に話しとく人いる?」

「あ、自分いいすか?」

「どうぞルルシーさん」

「そういえば冷蔵庫のカロリーメイトとゼリー飲料って、桃さんのなんすよね? お礼言いたいんすけど、桃さんがお風呂に入る時間とか瀬田さん知りませんか?」

「いや、桃は自由人だから、風呂も基本入りたくなったら入るような、寮の規則ガン無視の自由人なんだけど、皆、冷蔵庫のカロリーメイトとゼリー飲料食べたでしょ? だから誰も逆らえない。管理人の先生も食べてたから何も言えてない状況」

「自由人かっけえっす、せめてお背中流すくらいはしたいんすけど」

「う~ん、あ! ならゲームの訓練に付き合うって言えば喜ぶと思うよ?」

「な、なるほど! ありがとうございますっす」

「それじゃあ解散しましょうか」

こうして、第一回女子会は解散した。

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