第五章 恥のひとつは誰にでもある

公明 正大――――。


 変態性食者の安中と高野は逮捕され、他の生徒にもセクハラの度を越えた強制性交罪という犯罪を行っていた証言が出たので懲戒免職、被害者からの裁判というダブルパンチで学園からゴミは消えた。

 アイシャさんが襲われた日の火曜日、アイシャさんの荷物を持って、アイシャさんの家の高級マンションに行った。

 ルルシーちゃんにも一緒に行ってもらった。こういう時男子一人だと、どういう態度で何を話せばいいのか分からない。

 しかし結果はインターホンを慣らしても無視。

学校からは青海先生が保護者に事情を説明したようだ。すぐに保護者がやって来た。

管理人も部屋の鍵を開け、警察もやって来て自殺などしていたら大変だということで、チェーンを強制的に外す裏ワザを見せてもらい、突入すると、玄関すぐの廊下でうつ伏せに近い、回復体位と呼ばれる姿勢でキレイに気を失って倒れていた。

今思えば、顧問は誰か、絶対に聞いておくべきだった。

高野と安中という二大キモキモワードは、俺がアイシャさんのチラシ配布を手伝った時に、鎌田先生に報告して帰宅する際、用心していた変態教師二人の名だ。俺は失敗した。


    ◇


金曜日の夜。


変態が逮捕され、学校でも騒ぎが大きくなり始めていた、そんな金曜日の夜。

ひまわり荘の住人達は、ダイニングに全員が集まった。

「先生、アイシャさんどうなるんですか?」

「しばらく実家で休むみたい。ご両親の話だと通信制高校も考えてるとか……」

円卓に座る管理人含め、九人のひまわり荘の住人。

「私アイシャとか言う人知らないんで、部屋で勉強しますね」

 冷たいような態度の顔面髪の毛で隠れた九条 アリサさんは言った。

 まぁ会ったことのない他人にどうにかしろってのも無理な話か……。

「俺は話は聞くぞ! 昔誰も理解してくれない辛いことを経験してるしな、相手がどんなブスでも相談には乗るつもりだ」

 イケメンかよ赤枝君……。

「他の奴はまぁ漫研の部員だし、なぁ!」

 神宮司君が皆に同意を求めるも、

「桃は桃で……何でもない、プロゲーマーの朝は早い、ということで桃はこの話から離脱する」

 桃はどこまでも自分を貫いた。

「じゃあ他の奴等は週末にアイシャさんの実家に押しかけようってことで、先生アイシャさんの住所教えてください!」

 青海先生は改めて皆を見回す。俺もつられて皆の顔を見る。が、どうも皆積極的といった印象ではない。

「大ちゃんはアイシャさんが好きなの?」

「違う!」

 学年主席の夕子の問いに俺は脊髄反射的に反応した。

「俺はアイシャさんに一言言っておきたい事があるだけだ」

 そう、俺はまだ夕子と決めたルールを果たしていない。

「ふぅん、それは私も気になるな。じゃあ私も行く」

「俺ももちろん行くよ! 一緒に鍋食った仲だしな、あと放課後に居場所ほしいし」

 夕子と神宮司くんが仲間に加わった。

「私も行くっすよ、同じ外人、の血が混ざってますからね」

 ルルシーちゃんは乗り気、あとは高木 明人だったが、

「俺も行くよ! なんか知らない土地に行くのは音楽にとってプラスになりそうだしな!」

「いや、高木、そんな浮ついた気持ちなら来るな! ハッキリ言って足手まといだ」

 青海先生、辛辣なお言葉。そしてその剣幕は高木をも黙らせた。

「照れ隠しですよ、正直にアイシャさんが心配……何て言える訳ないでしょ高校一年生の思春期坊主が……」

「そういうことならついてきていい」

「良し、では日曜日にアイシャの実家に押しかけよう! みんなで!」

 こうしてひまわり荘会議は終わった。


 土曜日、俺はふと学校へ寄っていた。

 変態二人という犯罪者が消えたことで、学校には、マスコミが集まっていた。

 どうやら一週間はこんな調子らしい。

 ニュースで話題になっていた。

 総理が演説中に襲われるといった大きなニュースや、白昼堂々と強盗をする闇バイトの事件が無ければ、アイシャさんのニュースが一週間以上、間違いなく報道されていたことだろう……。それを考えれば恐ろしい。

 全てが、白日の下にさらされてしまう。

 アイシャさんがプロ漫画家の育み 愛だったことも、

 電車で、、二年に渡り痴漢され続けていたことも、

 学校の先輩が、その痴漢で荒稼ぎしていたことも……。

 そんな羞恥の状況の中で、アイシャさんやその他の交友関係まであること無いこと好き放題言われるのだ。

 事実、警察はアイシャさんの為を思ってか未成年が被害者の事件であり、また他にも被害者が多く居たことが分かり、アイシャさんはその被害者の一人、という立ち位置で深堀させる事無く、モザイクがかけられ、他の被害者もモザイクがかけられたのだが、なかにはAV撮影のような動画を安中と高野は録画しており、その動画がネットで話題になったことで、アイシャさんまで飛び火しなかったと言える。

 学校中は騒然だった。

 一人の被害者女子生徒がネットで晒される度に、退学していく生徒達。

 中には推薦受験を控えてる生徒もいたが、全てが台無しになった。

 学校は深刻な被害を受けていた。

 裁判で、多額の負債を負う事になった学校。

 近所でも、神宮司坂高校の評判はすこぶる悪い。

 小学生と思われる子供が、学校を指さして、

「あ! へんたい高校!」

 とか叫んじゃう有り様だ。

 学校に通う生徒達は憐憫の情を持って接せられるが、

 そこで働く大人達はゴミのように見られる。

 実際、

 学校の外や校舎にスプレーで散々『変態教師』や、

 『保健体育の偏差値・全国一』といったことまで落書きされており、

 生徒達は、新興宗教法人にでもハマっている大人達から、

「大丈夫? 辛くなったら話聞くからおいで」

 といった、優しさをちらつかせて食い物にする大人達、から狙われていた。

 結果、昼の情報番組のニュースで、

「入学希望者、激減が予想されるそうですよ……」

 と言った司会者から、コメンテーターが、

「まぁ当たり前に、こんな学校行きたいと思う女子生徒いないでしょ」

 と、その通りな意見、が番組内で飛び交う。

 生徒達は生徒達で、

「女子バスケ部のキャプテン、エロいことされてたらしいよ」

「あ~顔良かったもんね」

 と、由々しき事態になっていたが、学校説明会では満足のいく説明のできないといった、テレビでよく見る、ステレオタイプな光景、が繰り広げられる。

 それが火曜日から金曜日までの出来事。

 そして俺は土曜日の今、文化部部室棟に来ていた。

 蓮君はルルシーちゃんと一緒に、文芸部の部室で本を読んでいた。

 アッキーは軽音楽部で、ひたすらなんかパソコンとキーボードで作曲? していて、たまにギターを演奏していた。

 赤枝君と夕子と九条さんは、漫画研究部に入部した二年生の先輩と一緒に、空き教室で話をしていた。

 そして俺は現在、文化部部室棟の一室、

『eスポーツ部』に来ていた。

 桃はオタサーの姫みたいになってるかと思いきや、全てのゲームで部内の上級生に圧倒的勝利を果たしていたことで、仁科(にしな)プロと部員たちから呼ばれていた。

「大(だい)? 何の用?」

 入り口から向かい合って正面、桃はパソコンのモニターの前に座っている。なんか耳に着けてマイクとイヤホンが一緒になった……、あれなんて言うんだろ、ヘッドセットだっけ? とよく分からないが、作業中の桃と話す。

「桃、明日やっぱりお前も一緒に……アイシャさんの家……」

「行かない、桃はやることがある」

「お前……」

 俺はそんなにゲームが大事かよ、と思い嘆息する。

たまに桃は英語で喋りながらゲームをやっている。

発音と喋る速度がネイティブ過ぎて、ちょっと何言ってっか分かんない。

 こういう英語の勉強法もあるのか……。と感心する。

「大、誤解しないでほしい、桃もアイシャの事は心配。一緒に鍋を食った仲」

「だったら一緒に!」

「桃は桃にしかできない方法で、アイシャの為に行動する」

 行動するっておま……やってることゲームじゃん。

 でもこいつはこういう真面目な話で、嘘つかないしな……、秘密裏に色々やってくれているのかもしれない……。それこそ、死んだ目をしながら、目の下にクマを作って。

「君、一年生かい!? 仁科プロは今大事な修行と他プレイヤーとの交流中だ。入部希望じゃないなら出て行ってくれ」

「そうだ! 仁科プロを追いかければボク達もeスポーツの全国大会へ出場できるかもしれないという希望が出てきたんだ! 練習させてくれ、今は一分一秒が惜しい!」

 チンコヘアーメガネの二人に、俺は追い出された。

 俺は他の運動系の部活も見てみようかなと思ったが、テニスも続かなかった俺はどうせ続かないし入らないだろうな、と思って学校探検するに止(とど)めた。



 神宮司 蓮――――。


 朝、とりあえずコンビニへ……という程財布に余裕の無い俺は、10分くらい歩くと着くスーパーにやって来ていた。

 安い物を探しに、スーパー入り口に貼ってあるチラシを確認する。

 ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎがよりどり二個で49円か、いや、やっぱりもやし炒めにしようかな? でも中学の頃と比べて大分痩せたしなぁ~、ジャガイモふかして食べるか……。

 と決めたところで後ろから声をかけられた。

「ふかしジャガイモっすか?」

 オレはその声にびくりとして振り返る。

「あ、なんだルルシーちゃんか」

 どっからどう見ても、中学のジャージのハーフパンツにスウェットパーカー、背中まであるストレートヘアーのルルシー・ヴァイオレットちゃんがいた。

 外人とはこうも発育のいいものなのだろうか?

 中学のジャージのハーフパンツが、尻とムッチムチの太ももを強調する、悪魔的なアイテムになってやがる……。

「あのぅ、蓮君はどうしてルルシーちゃんとちゃん呼びなんすか?」

「え? ダメだった!? 大はいいのに? もしかして大とはおな中だったり!?」

「あ、いえいえ、公明君は自然に呼んで来るからいいんすけど、蓮君はなんでちゃん付けなのかな~と思っちゃって」

「えぇ~、ルルシーちゃん俺の事君付けで呼ぶじゃん!」

「そ、それもそうっすね。それよりマヨネーズ買いませんか? ふかしジャガイモのジャガイモ代はワタシが払うんで」

そんなやり取りがあったのが朝9時頃。

 それからマヨネーズを冷蔵庫にしまおうと思ったら何か張り紙で『ご自由にどうぞ』と書かれてる。中を見るとカロリーメイトやら他プロテインバーやらその他ブロックタイプの焼き菓子とゼリー飲料でびっしりと埋まっていた。

 冷蔵庫見てからスーパー行けば良かった。

「マジかよ……こんなことならスーパーになど行く必要は無かっただろうに」

 ルルシーちゃんが悔しがってる。

「…………本が読みたい」

 結局ふかしジャガイモを食べ終わった後にルルシーちゃんが呟いた。

「蓮君、文芸部に興味はないっすか?」


その後ルルシーちゃんはシャワーを浴び、髪をセットしメガネを装着。学校へ俺と一緒に向かった。

なんかいい匂いする。

ルルシーちゃんから、シャワー浴びた後のいい匂いする。

ボディーソープだけでこんな匂いにはならない。

これがフェロモンというやつなのだろうか?

やばい、多分俺今相当キモイ顔してる。

クソ、大は毎日こんな匂いを嗅いでるっていうのか? なんで登校一緒にしてんだよ、大の奴、なにルルシーちゃんと一緒に登校してんだよクソが! ラブコメ主人公気取りかよあの野郎!

って思うだけ思って何もしないのが元野球部の俺の悲しい性(さが)なんだけどな。

野球部は恋をすること、が許されないのだ。

坊主にするくせに彼女作るなんて……そんな中途半端な気持ちであの硬い硬球を扱うべきではない。とはいえ中学は軟式なんだけどな……。軟式でさえ坊主にするんだ。

「文芸部って活動してるんじゃないの? それが嫌だってルルシーちゃん言ってたじゃん」

「大丈夫ですよ、蓮君がいればイケメンに慣れてない男女部員など、蜘蛛の子を散らすように逃げて行きますよ」

「オレは用心棒ですか」

「お願いします!」

ルルシーちゃん、髪型セットすると丁寧語になって完全にキャラ変わるんだよな。不思議な人だ。

 とりあえずくっついてって本を読むだけ。

 そして現在、文芸部部室にて読書中。

「明日アイシャさん、学校戻って来てくれるかな?」

 ルルシーちゃんに尋ねるも、ルルシーちゃんは物凄い集中力で本を読んでいた。

「驚きましたかな」

「うぉわ!」

思わずソファーから飛び起きた。

ルルシーちゃんは今のやり取りでもこちらに顔を向けない。

「ブ、文芸部員か? えぇっと、青だから二年で、先輩すか? なんでコソコソしてんすか!?」

「ルルシー先生は、この文芸部には本を読むためだけに来ておられる様なので、執筆活動を強制的に参加させるべきでは無いと思いまして……」

「え!? 読書だけでもいいってことっすか!?」

「もちろんです。ただルルシー先生のように、プロとして実績がある場合と違って、無い場合は読書感想文でも小説でも、文章になってればそれでいいので、学校祭にて販売する会誌で書いてもらう事になります」

「へぇー、あ、じゃあ俺も文芸部入部していいですか? 漫研と掛け持ちで!」

「我々は来るものは拒まない。どうぞきたまえ!」

「じゃあ入部しまーっす」

 こうして俺は、文芸部と漫研を掛け持ちすることになった。

「ようこそ文芸部へ……、おっとそろそろルルシー先生が本を読み終えるところだ。では私は隠れるよ!」

 そのタイミングを計ったようにチンコヘアーメガネは俺が座ってるソファーの背後の隙間に隠れた。

「それじゃあ本も読み終わったことですし、この後どうします? それにしても先輩たち部員がいなくて良かったですねぇ」

 気持ち良く伸びをするルルシーちゃん。

 マジで言ってるのか?

「う、うーん、じゃあこの後はアイシャさん連れ戻す方法考えようよ」

「じゃあ寮に戻ります? それにしても、文芸部で初めて一緒に本読むのは公明君じゃなかったみたいですね」

「オレでは不服だと?」

「あぁ~」

 そう言いながらルルシーちゃんは自分の額をぺチンと叩いた。

「そう聞こえても仕方ないですね、私は蓮君も公明君も比べてるわけじゃなくて、なんか公明君は漫画より文章派で、蓮君は漫画派だなぁっと思っただけです」

「……まぁ確かに俺は漫画の方が好きだけどさ、ああそうか」

「どうしましたか?」

「オレはアイシャさんに漫研が必要って答えるよ」

「そうですか、では私はどうしましょうかね? 漫画より文章の方が好きですし」

「脚本とか書いてあげたらどうだろう……、お互いプロなんだから楽しいんじゃない?」

「それは言い考えですね、頂きです」

 その後オレとルルシーちゃんは帰宅して冷蔵庫の中身を拝借した。



高木 明人――――。

 

 皆がそれぞれ行動してる中、ボクは先輩に教わってDTM(デスクトップミュージック)、まぁパソコンで音楽をつくるのだが、その使い方を教わっていた。

 これがまた面白い。

 寮ではヘッドホンを装備することで音楽に常に触れることができるし、ボクは完全にこれに嵌った。歌声もシンセサイザーⅴっていうソフト使えば作れちゃう。

 モテたくて始めたただのギターだったけど、朝から晩まで俺はこの作業に熱中し、空いた時間でギターを弾くという生活になっていた。

 先輩もイケメンと美少女のバンドだったけど、熱心に教えてくれる。

 ただイケメン先輩は、ボクのチンコヘアーメガネが気に入らないらしく、

「軽音楽部ではそのキモいの止(や)めろ!」と、チンコヘアーメガネ禁止令がでた。

 正直、明日はアイシャさんの為にアイシャさんの家に行くそうだが、未だにボクがついて行っていいのか疑問に思う。ボクはアイシャさんやルルシーさんみたいな、プロクリエイターになりたい。

 だから戻って来てもらわなきゃいけないんだ。身近に本気の人がいた方がいい刺激になるに決まってる。



 赤枝 静――――。


「先輩が去年いた漫画研究部ってどんな感じだったんですか?」

俺と瀬田夕子と、そして何故か九条アリサは、漫研の岸谷先輩を呼び出して話を聞いていた。

「去年は凄かったよ、三年生が引退するまでに賞金なんとしても獲得したいっていうから、一年生もそれ手伝って……、二年生も三年生が引退する前に良い所見せたいって言って、それがなんでこんなことになっちゃうかなぁ……」

 先輩漫研部員は泣き出した。と言っても鼻を何回も啜る程度だ。

「二年生まで全員辞めて、一年生だけで人数足りなくて廃部なんて……それがやっと一緒に漫画描ける仲間見つけたと思ったのに……なんで顧問が……誰がアイシャさんに顧問勧めたの?」

 その語尾には疑問が含まれていた。

「岸谷先輩の他の漫研部員って何してるんですか?」

「全員……筆を折ったよ」

 暗い雰囲気が空き教室を支配する。

 そこで俺は両手をパンッと、錬成陣(れんせいじん)無しで錬成するときのように合わせた。

「暗い話はここまでにしましょう。もしアイシャさんが漫画研究部に戻ってきたら、岸谷先輩も漫画研究部に戻って来てくれますか?」

「それは……もちろん」

「じゃあその時は戻って来て下さい。居場所として部室棟があった方が良いとか、ありますか?」

「あ、それなら去年の漫研の部室がまだ片付けられずに残ってるはずだから、そこ使いたいかも」

「了解です! あと犯人捜しは余り意味ないです。顧問の変態教師が裏垢でアイシャさんに連絡したのかもしれませんし、分かったとしてもアイシャさんに近づけさせないようにする。くらいしかできないでしょう。私刑(リンチ)してすっきりするんなら考えますけど、先輩は私刑(リンチ)したいですか?」

「いや、陰キャだから校門前に裸で括り付ける位しか思いつかない。男子女子関係なく」

「じゃあそうしましょう」

「後は漫研に入部させてアシ作業させて『下手くそ』って罵倒しまくる」

「ではそれも採用しましょう」

「……今はそれくらいしか……思いつかない」

「じゃあ考えといて下さい。俺帰るけど瀬田さんと九条さんは?」

「あ、私も帰る」

「私も」

「……二人とも何しに来たの?」

 瀬田さんと九条さんは俺の話が終わると俺と一緒に帰るみたいだ。

 何しに来たんだろう……。でも先輩が可哀そうなのは伝わった。



 公明 正大――――。


運命の日曜日がやって来た。


 俺は自分の分の握り飯を弁当代わりに用意し、準備を万端にした。どうやら米は盗まれないようだ。

それじゃあ行きましょう皆さん! 

「「「ウィっす」」」元気がいい返事は朝飯(カロリーメイト:桃の寄贈品、いつ何個食っても無くならない)を食ったからだろう……。

 俺も少し気合いが入る。。

あの時アイシャさんがしてた青いリボンも、懐に忍ばせておく。

俺達は公共交通機関を使うのかと思いきや、まさかの青海先生の運転。

移動中はそれはそれは静かだった。

皆胸の内に秘めたる何かがあるのだろう。

結局桃と九条さんは来なかった。

あと漫研の先輩部員の岸谷先輩は、漫画の話しか出来ない、と言い辞退。

結局参加するのは俺、蓮君、アッキー、赤枝君の男四人と、夕子、ルルシーちゃん先生の女三人。八人乗りのワゴン車。

先生が鬨(とき)の声を上げる。

「お前等アイシャ連れ戻すぞ!」

「「「「「「おおおおおおおおおおお!」」」」」」

 気合い十分に皆で車に乗り込んだ。

 道中、皆は何を考えていたのだろうか?

 俺は、ひまわり荘からアイシャさんの自宅まで、電車数駅分の距離で、近づけば近づく程手に汗が滲んできた。皆も似たような空気感の様だ。車内は熱気に包まれていた。

 先生が途中で、「あっついな~」と言ってクーラーの温度をいじる。

 だがそんな長旅でもない。見覚えのある景色が近づき、クーラーが車内の温度を調度良く冷ましたところで目的地、アイシャさんの自宅に着いた。

俺達はアイシャさんの家の前に集った。

取りあえずインターホンを鳴らすが返事はなし、

だが先生、しつこくインターホンを連打。

家の人、出て来てくれない。

これでは一昔前の借金取りや闇金の人間ではないか……、俺は言うべき言葉を胸の奥に秘めて、誰かがどうにかしてアイシャさんを引っ張りだすのを、ただひたすらに待つ。

そんななか青海先生は、アイシャさんの恥ずかしい過去をばらしていく。

「えぇ~!? アイシャさんって、痴漢に遭った過去があるの!?」

 突如大声で喋りだした。

 数日前にはニュースでアイシャさんの高校が世間の話題になっていた、タイムリーな情報。

これはご近所さんと距離が少し開いた、普通の一軒家に住むアイシャさんには胸が痛むだろう……、直ぐに玄関が開けられ、家からアイシャさんのお父さんとお母さんが出てきた。

 アイシャさんも部屋から、玄関正面向かいの二階の自室と思われる窓を開けて、俺達と自分の両親が何をするのか? とでも思ったのか、顔を出した。

「何の用ですか?」

窓を全開にしてから、アイシャさんが顔をだす。

俺達を見るその姿にもう迷いはないようだ、やはりもう通信制高校への編入。でもするのだろうか

俺はここで叫ばねば男ではないと思い、アイシャさんに大声を絞り出して喋る。以前来た時同様、少し田舎の普通の一軒家だったので、家同士は離れており、また虫の鳴き声も多く、それほど俺の魂の叫びは目立たなかったが、アイシャさんの距離には届いたようだ。

「アイシャさん!」

俺は腹から声を出した。

だがこの声はさほど響かなかった。

 届け、この思い。

 響いたのはそう、次の叫びだ。

「今から俺は恥ずかしい事を言います! 心して聞いてください!」

 その叫びはかなり響いたはずで、近所のおばちゃんや還暦迎えて家でゴロゴロしてる老夫婦には、確実に響いただろう。

「は、はぁ……」

 アイシャさんは困り顔だ。

 そりゃそうだ、いきなり恥ずかしい事言いますとか言われても勝手にしろよと思う人が大半なのではないだろうか?

 そんな困惑気味のアイシャさんに、俺はいきなり、身に宿るアイシャさんへの熱い思いをぶちまけた。


「アイシャさん、俺、オナニーが大好きなんだ!」


 「「「「「「 …………はぁ!? 」」」」」」


 言われた方は混乱する。

 さっきまで、「恥ずかしい事を言います!」

 の段階では、先生も、言ってやれ、言ってしまえ!

 という雰囲気だった。

 正直集まった皆が、俺がいったい何言うんだ!?

 そう期待していたはずである。

 そこに来てのオナニーが大好きというカミングアウト。

 いったい誰がこの展開を想像出来ただろうか!?

 そして俺の腹の底から振り絞って叫び、畳みかける怒涛の暴露!

「正直カワイイ子なら妄想で何度も汚した。始まりは幼馴染の夕子のエロい恰好を想像してオナニーした。桃も昔はいっつも下着だったからその光景を思い出して抜いた! ルルシーちゃんは銀髪ロングで背中まであるサラッサラの髪の毛にパンツとTシャツ姿を思い出してるとなんかエロ過ぎるから抜いた!……アイシャさんでも初めて会った頃から色々あって、顔かなり近い状態でアイシャさんの唾とか飛んで来る距離でしゃべられたからそれ思い出して勿論抜いた!」

「おい! いきなり何言うんだお前は!?」

 俺は青海先生のビンタで、一瞬怯んだ。

 だが俺の言葉は、止まらない。

 こっからが俺の伝えたいことの、真骨頂だああああ!

「でも俺は、俺は、オナニー以上のことはしないから!」

 そうだ! 俺は無害なんだ!

 俺はアイシャさんの敵じゃない!

「絶対に万年ヘタレの俺には、何も出来ないから!」

 そう! 俺には何かする勇気もない!

 中学校までは殆ど女子としか遊んでなかったけど、その女子を犯した、何て事件は一つも無かった。品の無い男子や女子には、「お前本当にちんちんついてんのかよ!?」と軽く笑いのネタにされるくらいに無害だ。

「だから俺は安全だから、アイシャさんの家から毎日送り迎えだってするし、ご飯一人で食べるの恥ずかしいなら一緒に食べてあげるし! トイレまでの送り迎えだってするし!

 漫研の活動だって、ラノベ書いてていいんだったら積極的に参加するし!

 女の子の日だったら、保健室まで連れてって看病するし、

 雷怖くて一人じゃいられなくなったら傍にいるし!

 雨なら俺が濡れても傘買ってくるし!

 熱いならうちわで扇ぐし!

 帰りももちろん一緒に帰るし!

 コンビニにちょっとパシッてこい、ていうパシリなら全然やるし!

 上級生に絡まれてたら、カッターナイフで黙らせるし!

 同人誌即売会とかも、参加するんならもちろん手伝うし!

 というかなんかもう俺の事、忠犬のペットとして扱ってくれても全然良いし!

 それから……それから……、あと言い残したこと無かったっけ」

 一瞬冷静になるが頭は現在沸騰(ふっとう)中、どうしても感情的になってしまう。

「ああ~~もう! とにかく俺は無害だから学校来てよ! 俺アイシャさんの居ない学校なんて刺激がない生活と同じだよ! アイシャさんでオナニーしたいんだよ! 俺は!」

 そりゃアイシャさんでオナニーしてるわけだからアイシャさんがい無くなればずりネタが一つ消えたということになるのだが……。この、俺のオナニーのずりネタになってよ! とでもいうような、下半身に正直な懇願をした事が、これまでの人生であったろうか? いや、ない! 俺はここまで自己犠牲をした自分に、自己陶酔してかつ高揚していた。

 そこまで言って場がシーンとなった。

 俺の叫びはかなり響いていたようだ。

 アイシャさんはもちろん、

 アイシャさんのご両親まで、顔を真っ赤にさせてしまった。

 少し離れた所にある畑では作業中だったのか、麦わら帽子を被り首にかけたタオルで汗を拭いながら、こちらを見てるまだまだ現役の70歳と思われる農夫が、こちらの様子を伺っていた。

 そんな俺を一人火炙りの刑にすることをさせないと、咄嗟の判断で思ったのか、

 俺の恥ずかしい過去に続い、てルルシーちゃんが俺に続く。

「そ、そうっすよ! 私なんか小説でいっつもセックスの描写生(なま)ナマしく書いちゃうから、た、たまに妄想だけじゃ耐え切れなくなって、オ、オナニーすることしょっちゅうありますし、なんだったら執筆中は濡れ濡れ大事件になってて、陰で変態ドスケベラノベ作家って言われてるんすよ! それに……」

 変態ドスケベラノベ作家だったのか! ルルシーちゃん!

 濡れ濡れ大事件だったのか! ルルシーちゃん!

「それに文章のプロのワタシがいるんすから、ワタシが脚本の漫画一緒に作ったりしましょうっすよ!」

 なんと高尚な誘い文句なんだ! ルルシーちゃん!

 俺も何かのプロだったら、それを活かして説得の材料にしたんだけどね……。

 残念ながら俺、オナニーしかねえんだわ。

 神宮司 蓮君も叫ぶ。

「お、オレだって今でこそこんな見た目してるけど中学まで坊主の野球部だったから彼女なんていたことないし、勿論童貞なんだぜ! アイシャさんがい無くなれば彼女候補が一人減るってことだろ!? そんなの嫌だよ! あとそれと……」

それと? それと何だ? まさか蓮君も高尚な誘い文句を……、

「俺の為に漫研作ってよ! 正直プロの居るルルシーちゃんの文芸部でルルシーちゃん師匠にして小説書こうかなとかも思ったんだけど、俺やっぱり漫画の方が好きなんだよ! どうせやるんなら好きなものの方がいいだろ! 俺の為に漫研作ってよ! そんで先輩の漫研部員と一緒に、俺に漫画教えてください! お願いします!」

 クソ、ルルシーちゃんといいなんてご立派な口説き文句なんだ!

 オナニーしかない俺にはとても真似できない。

 遊戯王カードで例えたら手札全部『オナニー』のカードみたいなもんだぞ!?

 なんだオナニーのカードって?

 トラップ魔法なのか?

 フィールドからモンスターカードが消えたらコッソリしこれるよ! とかそういうカードなのか? なんだよその18禁カードゲーム、そんなカードゲームが作られてたまるかよ?

 それにしてもなんか、恥ずかしい過去と性癖暴露大会になってきた。

お次は夕子だ。

「わ、わたしだってはじめてオナニーしたの……、大ちゃんに犯される妄想でオナニーしたし……ほら私だって恥ずかしい過去言ったでしょ! だから戻って来なさいよ! 大ちゃんが心配してるでしょ! 大ちゃんを困らせるんじゃない!」

 夕子はアイシャさんと絡(から)みが殆どないのに、オナニーライフについて語るか……。

 そういえば夕子とは、初めてお互いをオカズにしちゃって気まずくなった時期があったんだよな。

あの当時にエロ漫画が手に入ってたら、確実に家に呼んでセックスしてただろう、あっぶねー! 夕子と結婚するところだったああ、まぁ俺は結婚してもいいんだけど……、夕子スペック高いし……、高校生になってから気づいたけど、乳大きくなっててとても興奮するし。

高木明人も忘れてはいけない、夕子がアンタの番でしょ! とばかりに高木君の背中を叩く。

「ぼ、ボクもちんこヘアーメガネにしてるのはほんとはちょっと女子に罵られるのが好きっていう性癖があるからだし! 普通にしてたら没個性過ぎて女子と一切接点ないし! 音楽やるのだってモテたいのが動機だったし! でも今は……」

 お? 今は?

「今は本気でミュージシャン目指してる。だからルルシーさんとかアイシャさんみたいにプロがいてくれればそれだけで自分もこんな風になれるんだって、

 プロになれるんだって! ていうモチベーションになって、いいことしかないから、これからも一緒に居て欲しい……、です。最後、第六天魔王赤枝!」

「お、俺今でこそこんな見た目だけど中学までちん〇ヘアーメガネだったし! 小学校のころ色んな奴等がイジメて来る中飛び降り自殺も試みたことあるし、中学時代は太ってることで先輩にいじられてムカついて先輩呼び出してナイフで刺したことあるし!」

「「「「「「 いやこえーよ! 」」」」」」

 それとお前だけ性癖が暴露されてねーよ!

 わざとか?

 わざと俺のオナニストとしての矜持(きょうじ)、を踏みにじったのか?

 だが俺達の声と言葉はきっとアイシャさんに、アイシャさんの心に届いたはずだ!

 アイシャさん、俺達の心の奥の気持ちはどうだった? 答えを聞かせてくれ!

 俺は拳をギリリと握り、アイシャさんの方を見やる。

「ど、どうだアイシャさん! みんな恥ずかしい過去の一つや二つあるって!」

アイシャさんも、みんなが凄い勢いで恥ずかしい過去を暴露したので、顔が真っ赤になっている。

 だがアイシャさんはまだ満足しなかった。

「ま、まだ大人の恥ずかしい過去聞いて無いし!」

 するとアイシャさんは自身の、俺達の若者の叫びを聞いていて熱気に当てられたご両親を見つめた。

アイシャさんのご両親は覚悟を決めたのか、近所の目など気にせず、アイシャさんに向かって叫ぶ。

「ワ、ワタシだってアイシャが引っ越してから久しぶりに裸エプロンでお父さんに迫ってみたりして、新婚気分味わって、もう一人作ろうかって毎晩盛り上がってるのよ!」

「そ、そうだぞ! 本当はアイシャも心配だけど、アイシャがい無くなれば激しいコスプレエッチできるからいつもアイシャのことと妻のことで葛藤してるんだ!」

 いや親としてその暴露はどうなんだ!?

 あとコスプレH大好きってうちの親父と俺かよ!? 性癖被ってんじゃねーか!

「ほら、先生も……」

 夕子が、学年主席の言う事は教員であっても聴くべき、という無言の圧力を発して、青海先生に恥ずかしい話を迫る。

「ワ、ワタシは同期で教員になった坂下先生のことが好き! 内緒だからね! ここだけの話だからね!」

 全員が恥ずかしい過去を暴露しあうと、アイシャさんは走って自室と思われる二階から階段を駆け下りて、家から泣きながら靴下のまま出てきた。

「びんだごめんだざい(※みんなごめんなさい)、学校いぎまづ(※学校行きます)」

それから何故かアイシャさんのお父さんが、

「よーし! 胴上げだ! 公明君、銀髪さん、イケメン君、順番に、最後アイシャになるようにみんな順番にやろう!」

 ということで、

「「「「「「「「「 わっしょい! わーっしょい! 」」」」」」」」」

 

 皆が宙に舞う。だがここは住宅街の少し外れ、ここら辺の地域に関係のない俺達の叫びはともかく、アイシャさんのご両親には恥ずかしい思いをさせてしまった。

 それからちょうど、先生の車に一人分空きがあったということで、俺達は先生の車にのり無事に帰宅し、アイシャさんの好きなものをひまわり荘で食べることにした。

アイシャさんは焼き肉をご所望(しょもう)のご様子。車内では恥を晒した皆に向かって、

「みんなありがとう……みんなありがとう」からの車内カラオケパーティーが始まった。

 そのまま焼肉パーティーに九条 アリサと仁科 桃を誘う。

しかし俺は九条アリサに声をかけるも、九条は、「何もしてない私が参加するのは違うと思う」と言い不参加。

桃も筋の通らないことはしないのか、同じく桃に声をかけたが、ゼリー飲料とプロテインバーで過ごすから今回は参加しないとの事。

食事はひまわり荘の庭で焼肉パーティーになった。

近所のスーパーで、青海先生が、

「今日だけだからね! 口止め料も含まれてるからね!」

 と言いありったけの肉をかき集めた。

 それでも偶然本日はスーパーが『お肉の日』で肉の特売日だったのでとても大量な安い肉が手に入った。青海先生は寮の庭にある物置から、焼肉で使う道具を取り出した。

 


不思議と、恥を晒(さら)しあった仲だからか、なんかお互いがお互いに仲良くなれる様になっていた。俺はルルシーちゃんとアイシャさんに「ハイ、公明君焼けましたよ!」「どんどん食べて精を付けて下さい!」とやたらと肉を譲られた。

「夕子助けて~」

 俺は食いきれない肉を目の前に、夕子に救援を依頼した。

「任せろ! 大ちゃんの肉も肉棒も私が頂く」

 そう、夕子は焼肉大好きっ子なのだ。

 だが一向に肉は減らない、このままでは俺も夕子もリヴァースしてしまう、仕方ないのでやはり九条アリサと桃を、先生と一緒に協力して強制的に連れ出した。

「何もしてなくて悪いと思ってるなら、この肉を片付けるの手伝え!」

「そうだ! このままだと俺達の胃が、持たん」

 夕子と俺の言葉に、九条アリサと桃は渋々、と言った様子で部屋から出てきた。

全員で焼肉を食らうという、なんか青春してる高校生のようになった。

俺は食いすぎて気持ち悪くなったので、途中退場。

その日アイシャさんは、ルルシーちゃんと、彼女いない歴=年齢ゆえに童貞である神宮司蓮君が、送り届けることになった。

あれだけの俺の恥ずかしい告白は彼女にずりネタにされる=気持ち悪いという嫌悪感を抱かせてしまったのかもしれない。これは反省だ。

それに蓮君漫研が必要みたいなこと言ってたし、ルルシーちゃんは脚本と漫画家としてタッグ組みたい的な事も言ってたしな。

ハァ、蓮君美女二人と移動なんて羨ましい。

それにしてもこれ以上動けん、食い過ぎた。



 神宮司 蓮――――。


「それにしても、今日はなんか凄い濃い一日だったなぁ……それも全部大の……クソ」

 三人で会話が無かったので、気まずいと思ったオレが呟いてみた。

「まぁなんというか……、恥ずかしかったですね……公明君は」

 アイシャさんの声で、弱々しく同意してるのが聞こえる。

「神宮司君が、話す時顔合わせないのも、単に女子が苦手~とか、そういう理由なんすか?」

「あ、バレた? そうなんだよ、昔からどうでもいい女子の顔は見て話せるんだけど、カワイイ女子とか、気になってる女子の顔は見れなくてさ……情けない」

 ルルシーちゃんの顔を見て話す俺。アイシャさんの顔は見て話さなかったのに……小学生かよ。

 あ、まずった……と思いアイシャさんの顔を見て、アイシャさんは何も勘づいていないことにホッとする。

 だがアイシャさんはアイシャさんで、俺の気持ちになど気づかない程に、緊急事態だった。

 アイシャさんの歩調がゆっくりとしてきたものになったと思いきや、

「胃薬とか持ってます? こんなに食べたの久しぶりで……ヴぉぉろろろぉぉ」

 吐いた……盛大に吐いた。

俺の理想のヒロインはどうやらゲロインだったようだ。

 何処か休めるところ……と思い辺りを見回すが、目の前にでかいマンションが一棟、他には何も無い……。これは困ったぞ……と思いきや、

「あ……着きました。では私はこれで」

「え!? 家ここ!? でか!」

 なんか住む世界が違った。

「ほ、ほっとけないっすよ、せめて落ち着くまで家で待つっすよ」

 ルルシーちゃんが声を大にして言った。今のルルシーちゃんはOFFモードだ。喋り方からして普通と違う。

「お、俺も!」

 好きな女子の部屋に入ってみたいか、という下心が一切ないといえば嘘になるが、単純に心配だったからルルシーさんに同調した。

 しかしいざマンションのアイシャさんの部屋に入ってみると、自分との住む世界の違いに絶望した。特に仕事部屋としていた、何台もパソコンやモニターがある部屋の冷蔵庫に栄養ドリンク、その隣の棚に風邪薬やマスクなど、薬系のものが入ってるとのことで物色させてもらったのだが、パソコンとモニターと液晶タブレットというのだろうか? 馴染のなかった機械の数々に圧倒された。

「……本当にプロなんだな……すげぇ」

俺は酔い止めの薬でいいのだろうか? と思いつつも、当てはまりそうな薬を何個かリビングで休んでいるアイシャさんの許に持って行った。

 アイシャさんは薬を飲んで数分経つと、

「ありがとうございました。多分人生で一番食べた日が今日なんでもう大丈夫です」

 白湯(さゆ)を啜りながらそう言って、落ち着いた様子を見せた。

 俺はアイシャさんに、こんな話をするのは今じゃない、と思いつつも、どうしても気になる気持ちを抑え切れなかったので、聞いてみた。

「アイシャさん、漫研で三年間費やしたらプロに成れるかな?」

 真剣にアイシャさんの目を見て言った。

 本気度が伝わったのか、アイシャさんも真剣な表情で答えてくれた。

 落ち着いた笑い声が一切無くなって、凶器にもなるドスのようなナイフを目の前に突きつけられてる程、その場がピーンと張り詰めた。

「漫画描くのが楽しかったら成れると思いますよ? 大体原稿用紙五千枚手抜きしないで書き終える頃にはプロに成ってます。私は好きだからいいんですけど、どうも漫画描きには背景やモブを描くのが面倒くさいという人達がいまして、そういう人達は向いてないと思いますね……」

「アイシャさんは漫研で活動しつつプロとしても仕事するの?」

 アイシャさんは微笑(びしょう)を浮かべて顔の前で手を振り、

「そんなバクマンの新妻エイジみたいな超人高校生いませんよ。高校三年間は企画とネームとキャラクター作る事に集中しようかなと思いまして……でも」

「でも?」

 オレが聞き替えず。

「ルルシーちゃんが脚本って言うか……、脚本じゃなくて文章原作書いてくれるって言うならバクマンの真白最高(サイコー)と高木秋人(シュージン)みたいに生活するの面白いかもって……おもったり」

アイシャさんの言葉から生気が無くなっていく。自信が無いのだろうか?

「他に漫画描く同年代の人がいれば、その人達とこの部屋の機材泊まり込みで使ったりして、切磋琢磨したいなと考えていたんですけど……いますかね」

「だ、大丈夫だよ、先輩漫研部員の岸谷先輩がいるじゃないっすか!」

 ルルシーちゃんが叫ぶ。

 本当にそのつもりだったのだろう。俺の中学校にも漫画を描く奴はいたが漫研は無かった。

「俺が真剣に漫画描くって言ったら添削してくれる?」

 アイシャさんは少し困ったように、

「全く漫画描いたことのない人なら添削できると思いますけど、今からプロを目指すんですか?」

「やっぱ無理かな……? 普通は皆小学生で目指すよね」

 今度は俺の語尾が弱くなる。

「一週間に漫画十冊読んでネーム100ページ描いて楽しいと思えるなら才能はあると思います。添削云々は希望によりますが是非読ませて欲しいと思います。あとネームは下書きレベルで描いてくださいね、その方が画力も向上するので」

「ネームってノートに描いていいの?」

「それならコピー用紙がおすすめですね。B4サイズを縦に使うと原稿用紙一枚のサイズになるんですけど、それを半分に折って横にして二ページにするとネームとしてはちょうどいいですね、こんな感じに」

 アイシャさんは見本を見せる。

「なるほど……、コピー用紙にそんな使い方が……確かに描きやすい大きさだ!」

「あとシャーペンは0,3mmの2Bの太さと濃さがおすすめです。ちょっと待っててくださいね」

 アイシャさんは仕事部屋に消えて、戻って来た。

「これを一本差し上げます」

 差し出されたのはクルトガのシャーペンと芯。

「え、お金払うよ」

「いえ、漫研に入ってもらったお礼です。何十本もあるので気にせず貰って下さい」

「そ、そう? まぁ何十本もあるんなら……ありがたく頂戴します」

 俺はそれを貰ってマンションからルルシーちゃんと一緒にバイバイした。

 ひまわり荘への帰り道、ルルシーちゃんに直球で聞かれた。

「アイシャさんの事が好きなんすか?」

「え? なんで!?」

 何故いきなり分かったのだろう……童貞だからだろうか。

「否定はしないんすね」

「あ、いや……」言葉が続かない。

 しまった。これでは認めているようなものだ。だが違うのなら否定はするが、違わないのなら否定はしたくない。

もし、「全然好きじゃねーよあんな奴!」と言ってる所を偶然、直接的にであれ間接的にであれ本人に伝わったら嫌だからだ。

 昔それで失敗した。

 もうあんな失敗はくり返さない。

だから俺はルルシーさんの顔を直接見てハッキリと素直な気持ちを述べる。

「まだ百パーセント好きってわけじゃないけど間違いなく気にはなっている」

 まずい……、正直過ぎたか? でもこういうのは正直に言って置くことが大事なんだ。じゃないとなんか変な場面で変な答え言いそうになるし……。例えばアイシャさんとルルシーさんどっちが好きか聞かれてアイシャさんの方が好きなのにルルシーさんのこと好きって言っちゃう。みたいな?

「そ、そうすか、上手くいくといいすね」

「ルルシーちゃんこそ、大の事好きなんじゃないの?」

「神宮司君と同じ気持ちすかね、エッチまでなら出来るっす」

 思わず噴き出した。何を言いだすんなこのドスケベ痴女スウェットパーカー女は!?

 そう、特に誰も気にしなかったが、今俺の隣にいるのは尻強調パンツにスウェットパーカーを装備するという、焼肉だから許される変態スタイルだった。

 そしていきなり何を言いだすんだこの痴女は……、変態か?

「いやそれは最終到達点なんじゃ無いの!? 普通キスまでとかでしょ! その言葉を使うなら」

「う~ん、でもエッチできちゃうしな~、やっぱりアイシャさんの家の前で、いきなりずりネタにされていた、宣言の所は普通なら引きますけど、その正直な所がこれまたいいっていうか……難しいっすね」

 他にも理由があるかのように「これまたいいっていうかなんというか……」と言葉を探っている。

「所でルルシーちゃんは現在パンツにスウェットパーカー姿だけど、こっちの学校、神宮司坂高校来るまでずっとそんな恰好だったの?」

「いえ、自宅ではパンツ一丁でしたっすね。お父さんが株のトレーダーなのと、お母さんがいつも家にいたのと、インターホンのついてる家だったので、どうしても出る用事のときだけ、スウェットパーカー着て対応してる間に、こんな感じに落ち着いちゃいましたっすね」

「友達の前に出る時もそんな恰好なの?」

 ルルシーさんは、人差し指で頬をポリポリと掻きながら、

「本ばっかり読んでたんで、友達も文学少年と文学少女以外いなかったですし、家の外と中で完全にスイッチのオンオフ出来てたんで、ずっとこんな感じっすね。だから入寮初日でノックしても誰もいないと分かった時は解放感でこの恰好でしたね。今じゃ着ぐるみパジャマっすけど……、今日だけは焼き肉っすからね、そりゃあパンツにもなりますよ」

 意味不明な会話だった。

 焼肉だとパンツになるのか……人は。

 それにしても、ラノベ作家も好きな人は、やっぱりずりネタにされてたくらいじゃ引かないのか、まぁ普通公明以上のルックスの奴にオナニーのオカズにされてたって言われたら嬉しいもんだろ。

 俺もアイシャさんにオナニーのネタにされたって言われた日にゃあ、舞い上がって色んなことが吹っ飛ぶだろうしな……キモイ奴にオナニーのオカズにされたって言われたら嫌だけど……それは多分普通の反応だ。

 ラノベ作家も言葉にするのは難しいってところか、いや、きっとこんな感情に名前を付けることなど出来ないのだ。

何となく好き。

何となくエッチしたい。

 そんな人間は自分のクラスにも、他人のクラスにもいるだろう。

数え出したらきりがない。

 その後すぐに寮につくと、四組の総大将であり圧倒的覇王である赤枝君が、アッキーこと高木君と大こと公明 正大を連れて音楽で会話の内容をある程度消せるということで、アッキーの部屋で急遽作戦会議が開かれることになった。



 高木 明人――――。


俺は現在進行形で恋をしているのかもしれない。

現在、本日の暴露大会からの焼肉パーティーが終了。

所詮(しょせん)日陰者のちんこヘアーメガネは、焼き肉に使った網(あみ)やその他炭の処理など、後片付けをしている。

それもふんわりセミロングの、肩までの長さの髪のおしゃれ学年主席、瀬田 夕子と一緒にだ。

よく聞こえなかった人の為にもう一度教えて上げよう、瀬田夕子(女子)と一緒にだ!

気まずい、これは気まず過ぎる。

俺が音楽やってる理由も、モテたいからという薄っぺらい、紙のようにぺらっぺらな人間だと暴露してしまった。でも最近は本当にDTMが楽しくてしょうがないんだよ?

それに漫画のプロの、アイシャさんに戻って来て欲しいのはほんとだ。

ルルシーさんも小説のプロ、仁科 桃なんてトッププロゲーマー。そんな奴等に混じってわちゃわちゃやってたら、将来本当にミュージシャンとして、何者かになれるかもしれない。

動機がモテたいからとか、恥ずかしいよぅ。

けど言いたいことは言えた。

なんか暴露を聞いたりして皆の顔もまともに見られなかったので、

「瀬田さん、ここは俺がやっておくから、大ちゃんの様子でも診てきなよ」

 瀬田さんは黙々と後片付けの作業を、手慣れた手つきで片付けていく。

「大ちゃんなら大丈夫だよ、家同士で焼肉パーティーの機会ある、こういう時いっつも食わされる役だからね、もう慣れてるよ。それに肉をタダで食わせてもらったんだし、後片付けはしないとね」

「あ、うん、真面目だね、流石学年主席」

「こういうのに真面目も糞も無いでしょ。人として当たり前だよ」

「その当たり前の事を、君が大好きな大ちゃんはやっていないわけですが……」

 呆れる様に事実を言った俺に、学年主席は嘆息する。

「アッキーは何も見て無いね、大ちゃんが食べさせられていたのはハラミとか豚トロとか、肉厚系の腹にたまるタイプ、対称的に私が食べていたのは、カルビや牛タンなどの焼肉を楽しめる薄い部位。大ちゃんは私を動ける状態にしてくれたんだよ? ならば人として最低限後片付けはしないとでしょ?」

「なんか幼馴染特有の? そのお互いが分かりあってる感グッとくるよね」

 あ~、俺今女子と喋ってる感じするわぁ~、と脳内お花畑でいたら、瀬田さんはとんでもないことを言いだした。

「グッとくるって、チンポにグッとくるの?」

「心にだよ! チンポにグッとくるってどういう状況!?」

 顔が熱くなりすぎて、つい叫んだ。

「そりゃあお前さん、今後のずりネタにでも……」

 対する冷静な瀬田 夕子

「わあああ最後まで言わなくていいから、何となく察し着いたから!」

 そのまま、瀬田 夕子の爆弾投下は止まらない。

「時にアッキーは好きな女子いないの? プロに居て欲しいってことはアイシャさんかルルシーちゃんかな? それともプロゲーマーの桃?」

「まだいないよそんなの、あえて言うなら、瀬田さんかな」

「おい、なぜそこで私の名前が出てくる? 喧嘩売ってるのか?」

「ち、違うよ! 俺女子にまともに話しかけられたこと無いから、絡まれるとすぐ好きになっちゃうんだよね」

「そんなの盛りのついたサルでしょ?」

「瀬田さんは何も分かってない。陰キャの男子は可愛い女子に優しくされると、その女子の事が直ぐに好きになっちゃうものなんです~っと終わり! それじゃあ女子はこの後どうするの?」

「特に考えてない……大ちゃんに恥ずかしい事聞かれたし……まぁ中学時代に既に言い合ってるんだけど」

 暴露事件を思い出したのか、顔が真っ赤になる瀬田 夕子。

「もうお互いでオナニーしてるんなら付き合っちゃえよ」

「そう単純には進まないんだよ。幼馴染だからこそ……ね」

「幼馴染なんて漫画とラノベとアニメの中でしか見たことねえから分かんねーわ」

 瀬田 夕子とそんなやり取りをしつつ後片付けを終えると、狙ったようなタイミングで四組の覇者、すなわち我がクラスの第六天魔王こと赤枝君が現れた。

「アッキーちょっといい?」

 陰キャあるあるだが、クラス上位カーストにあだ名で話しかけられると犬のように尻尾振って対応してしまうのはなぜなのだろうか……いや、俺だけか。

「うん、どうしたの?」

「ちょうど蓮くんも戻ってきたしアッキーの部屋で男子会しようと思って」

男子会……とな?



 赤枝 静――――。


 とんでもないことを暴露してしまった。

 現在、アイシャさんを車に乗せた俺達は、気まずい状態で移動していた。

 先生が年長者として気を遣って会話を振る。

「い、いやー、それにしても公明がオナニー大好き人間だったとはな~、これはちょっと寮のルールを決める必要がありそうだなぁ~」

「ルール?」

 オナニーマスター、公明 正大がピクリと反応した。

「まさかひまわり荘では、オナニー禁止だなんていいませんよね?」

 その時、ようやく先ほど泣き止んで五分くらい経過していたアイシャさんが声を上げた。

「あ、それなら私のアシさん用の寝室にと思っていた部屋があるんで、そこ使ってもらえば……、生理現象ですもんね、仕方ないですよ」

 ルルシーさんもそれに続く。

「そうっすよ先生、女に女の子の日があるのと同様に、男にも男の子の日があるって言うじゃないっすか!」

「え? 何お前等女子二人して……お前等男の兄弟いた事ねえの? オナニーした後って想像以上に臭うんだぞ? 気持ち悪いほど臭うんだぞ、あと臭うだけじゃなくてその臭いが衣服や布製品のソファーとかベッドの布団とかに染みつくんだぞ?」

ルルシーさんはそんな先生を宥(なだ)める。

「まぁまぁ落ち着いて下さいよ先生、この男の子の日って言うのは、男子には皆ありまして、先生の好きな人の坂下先生は、年齢的にほぼ毎日シコシコどっぴゅんしてるんっすよ」

 いやルルシーさん、女子がシコシコどっぴゅんとか言うと興奮するから勘弁してくれ。

「さ、坂下先生はオナニーなんてしない!」

 女子小学生のような事を言いだした、二十代女教師。実は正確な年齢も調査済みだ。

「いや、するだろ」

 蓮くんがまさかの積極的肯定。この車内の中で一番カッコつけそうなのに認めた。

「じ、神宮司君もオナニーするんすか? 男の子の日があるんすか?」

 ルルシーさん大興奮気味に神宮司君に食らいつく。

「誰にでもあるよね! 赤枝君!」

 やばい、話振られた。

「そりゃああるけど……集団生活の中でもオナニー、しかもそれも同じ屋根の下で暮らす住人をおかずに出来るものなのか? 罪悪感とか生まれないのか?」

「分かってないな赤枝君は……ふぅー」

 公明君が、消え入りそうな声とは正反対の声で、やれやれという感じで反論しだした。

「俺の何が分かってないって?」

 車内の空気はシーンと張り詰める。

「罪悪感が生まれるから、人にやさしく接するんじゃないか! 俺と夕子は今赤枝君が言った、罪悪感なんて議論は中学一年時にとっくに終えたよ」

 いやさりげなく過去回想すんなよ……中学一年に何があったんだよ。

 何このオナニー博士、ちょっとウザイ。

 俺は嘆息しつつ、

「そうかよ、じゃあオナニーしてずりネタにした寮生には翌日優しく接すること。これがルールでいいんじゃねえの?」

「いや、それだと優しくした人をずりネタにオナニーしました、って言ってるものじゃないか! 可愛くてずりネタになりそうな女子には、普段から悟られないよう、優しく接するべきだ!」

「そうですよ! 女子だってオナニーしますし!」

「え? アイシャさんもオナニーするの?」

 蓮くんがアイシャさんにオナニーするのか尋ねたところで、先生がキレた。

「お前等オナニーオナニーうっせぇわ! 少しは恥じらい持てこのドスケベ高校生!」

「「「「「「 す、すいません 」」」」」」

 一番最初にオナニーの話を振ったのは先生なのに、あまりのオナニーというワードの応酬に恥ずかしくなったようだ。

 全く会話をしなかったアッキー以外の乗車員は謝罪した。

こうしてオナニー事変が終わると皆で焼肉パーティーが始まった。

公明君以外は、普通に焼肉を楽しんでいるように見えた。

 パーティー後半から、仁科 桃と九条 アリサが参加した。

 仁科 桃は普段なら着ぐるみパジャマ姿での参加が義務付けられるところなのだろうが、焼肉で油が跳ねるとのことで特別にパンツにスウェットパーカー姿で参加していた。

 ルルシーさんも背中まであるロングヘア、さらにパンツにスウェットパーカー姿だ。

 これは……、うん、ルルシーさんには優しくしよう。

 俺はパーティーに参加しつつもそれぞれの人間観察に努める。

 これはアイシャさんとルルシーさんの、公明の取り合いになるかな? と思っていた所その様子を蓮君は複雑な表情で見てる。

 おや? 蓮君はどちらかが好きなのだろうか?

そして九条 アリサ、こいつは謎だ! 何を考えてるのか顔が髪に隠れてまるで分からねえ!

密かに九条アリサを観察していたつもりだったが、仁科 桃も俺と似たゲーマータイプ。

プロゲーマーという人種は観察から攻略の糸口を探す。

相手が苦手とすること、嫌な事を時には徹底的につつく、そこに一切の情けは無い。

仁科 桃は九条アリサを観察している俺を観察していたようだ。

気づけばすぐ隣に、ゲームのやり過ぎで目にクマが出来ている面を引っさげ、俺に忠告しに来た。

ふつうなら「わあああ!」とか「うわ!」とか何かしら反応するものだが、仁科 桃はそんな反応を俺にさせる暇なく、

「言いたいことは分かる。でも今は泳がせとく時」

 俺にだけ聞こえるであろう、小さいがよく通る声で話すと、再び焼肉を味わいだした。

 俺はミステリアスな人間が好きなのだろうか?

 九条アリサは何考えてるかわかんねえし、仁科桃には死んだ魚の目で全てが見透かされてそうで、その二つがなぜだかとてもドキドキする。あとルルシーさんエロい

 吊り橋効果に類似する効果があるのだろうか?

 これは……、女子会ならぬ男子会を開く必要がありそうだな……。

 こうして蓮君が帰って来てアッキーが片付けを終え、公明君がお腹の調子を取り戻した後、俺達男子は音楽大好きアッキーの部屋で、BGMという女子には聞こえない鉄壁の防御壁を設置した上で男子会を開くことにした。

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