第8話 護ったのは、猫…でした。
目の前に迫る水流は、俺のハルバードによって真っ二つに裂かれる。左右に分割された波は辺りの地面に着地し、水溜りと化した。
「っおおお!!」
ハルバードを横に回転させて、円状の盾とする。ハルバードを中心に発動する『ディプライベーション』は、一種の防御シールドの役割を果たし、絶えずぶつかる水流を拡散し続けた。
「…嘘…」
俺の背後で、呟きが聞こえてくる。多分信じられないのだろう、声には明らかに驚嘆の色が滲んでいた。
色々と感想はあるものの、現状は水魔法の波に集中しなくてはならない。
「こいつぅ!」
横から飛び出た野党が、俺に短剣を振り下ろした。ハルバードの長い柄で塞ぐと、返しざまに敵の顎を撃ち抜く。
「うげ?!」
返す勢いでハルバードを横振りした。上下に割かれた水魔法の向こうでは、杖を構えている男女のペアが、目を見開いている。
「な、なんだよ?!?!」
「こ、来ないデェ!」
俺は生じた隙を見逃さず、勢いよくハルバードを振り下ろした。薄緑色の巨大な斧が、男の正面を斜めに引き裂く。
「あぐぅあ?!」
「レオン!」
寸前で防御魔法に防がれるが、アマスミリル鉱石を練り込んだ玉鋼は、そう簡単には止められなかった。
防御ごと引き裂いた反動も使い、女性の腹部目掛けて横殴りを仕掛ける。
「うおおああ!」
「ひいぃ?、」
ハルバードの面で横腹を殴られた女性は、そのまま吹き飛ばされた。無様に転がる彼女を一瞥もすることなく、俺は奥に隠れようとする野盗の群れを追撃する。
「く、来るなぁ!!」
飛んでくる魔法は、正面に発生させた『ディプライベーション』の壁で防いだ。マスター直伝、接触と同時に魔法の「基礎値」を減少させる、『剥奪』魔法限定の防御手段だ。
「キメェ…」
酷すぎる。見慣れないからと言って、キモいはなくないか。釈然としない俺は、訳の分からない侮辱を投げかける野盗に怒りが湧き立ち、ハルバードを思い切り振り回した。
回転する巨大な鋼の塊が、固まっていた輩を無造作に傷つける。
「うぐ?、」
「あぎ!」
「ぐご…」
まだ慣れない人間の感触に顔を歪めた瞬間、背筋に嫌な汗が流れた。
「しまっ」
遠目から俺を狙うのは、短弓だ。狭いこの空間で取り回しの効く遠距離武器は、完全に俺の頭を狙っている。
(間に合うか…?)
知ってか知らずか、『剥奪』魔法の弱点をついた攻撃は解き放たれた。目を瞑りながら避けようとする俺は、正面の『ディプライベーション』越しに、敵が大斧をぶつけてくるのを見る。
「避けて!」
咄嗟に右に顔を傾けると、耳元に鋭い風を感じた。野盗が額から血を流しながら仰向けに倒れ、左右に待機していた仲間も、次々と顔を押さえて蹲る。
「うおおお!」
最後の一人、多分首領格の男は、部下の敗戦に気落ちしたのか逃げる用意をしていた。彼の背後にハルバードを振り下ろし、壁際に追い詰めていく。
「く、くそぉぉ?!」
メチャクチャにナイフを振り回す彼に、俺は距離を詰めることができなかった。動きが止まってしまう俺の耳元に、また風の音がする。
「う、ぅ」
的確に眉間へと向かった石飛礫は、連続して顎や鼻下を抉っていった。俺は体勢を崩した首領格との距離を一気に縮め、彼のマントを掴む。
「おおおお!」
『ディプライベーション』
首領格に付与されていた防御という『追加値』を、0にしてしまった。無防備となった肉体は、俺のハルバードによる突きを喰らい、血飛沫を上げて倒れ込んだ。
「うぐぁ…」
腹を抱える男の横に立った俺は、彼の目の横にハルバードの柄を突き刺す。
「降参しろ」
「…う、ぐぅぅ…」
「しないと今度ハルバードが突き刺さるのは、お前になる」
震える脚に気が付かれたらどうしよう、なんて心配は無駄だった。言葉にならない言葉で謝り倒す男を見ていたら、初戦闘の緊張は直ぐに消えてしまう。
「やるじゃん、カーズ」
部屋の入り口近くで、水の入った羊の胃袋を逆さまにしていた俺は、野盗達を縛り上げた猫女のソフィアに褒められた。
「助かった、ありがとう」
「へぇ。謙虚さもあるんだ」
「弱点は理解しているつもり」
「そういうの、嫌いじゃないな」
ウェーブがかった赤髪をかき上げると、雀斑が浮かぶ頬を弛ませたソフィアは、俺の横に腰掛けてくる。
「今応援を呼んだ」
「手際良いね」
「準備はしているの。何が起こっても平気なようにね」
透き通った青い目が、俺を貫いた。
「あ、あのさ」
「うん?」
「ソフィアについて、聞いても良い?」
何故かは分からないが、この時を逃すと次は無いと直感してしまう。俺の心の内を知ってか知らずか、彼女は少し微笑んで頷いた。
「ええ。でもアナタについても聞かせてもらうわ」
応援が来るのは、もう少し後でいい。
第8話の閲覧ありがとうございました。ヒロイン登場に少しでも興奮した方は、評価とフォローお願いします!
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