第4話 失意の旅路
馬車に揺られてアザードの都市を後にする。なけなしの金で乗り込んだ馬車は騎手以外の乗り手は、俺を除いて数人しか居なかった。
「お兄さんはアザードの人かい?」
「……いえ……」
「そうかい、垢抜けていると思ったがねぇ。オイラなんかは北の方にあるドラの村の出なんだがよ。村ではアンタのような人とは、出会った事がねぇんだ」
(……俺みたいな間抜けはいねーよ……)
「何処の生まれだい?」
「……リンダ……」
「ふぅん、聞かねぇなぁ。おい、知ってるかいアンタは」
「行ったことはないがね、確か北西部の田舎でなかったか」
「そりゃ遠めだぁ」
話しかけてきた年配の男性は、乗り合わせた老男女に話の矛先を向ける。皆がそれぞれの出身地で盛り上がる中、俺は馬車の上でぼんやりとしていた。
宿から追い出された後調べて分かったことだが、【野犬の群れ】は解散なんかしていなかった。ただメンバーの中から一人、名前が消えていたが。
そして名前も変わっていた。【鎖からの解放】なるご大層な名前は、俺が考えもしなかったネーミングセンスだと思う。
(……くさり、か……)
荷物だと感じているだろうと、思ってはいたんだ。付与魔法師は通常、+50は効果の付け足しを行える。それが俺にかかれば、十分の一がやっとだった。
(……めいわくだったんだな……)
昔から迷惑していたとは、知らなかった。俺は弱々しい幼少期、いつもヘレンの後ろをくっついて歩く餓鬼だったのだ。
(……なんだよ……)
パーティの皆に負担をかけていた事は、良く分かった。俺がショックを受けたのは、そこではないのだ。
(……おれのいないところで……)
マテウスは特にそうだが、四人とも雑な対応をする面はあっても、陰で悪口を言う面子だとは思っていなかった。
お互いに思うところがあれば何でも言い合える、口先だけでない関係があったと信じていたのだ。
(……へれん……)
これならば全部言って欲しかった。納得できたかはさておき、自分の中で消化する手順は踏めたと、断言できる。
俺は隣で育った美人の、滑らかな青い髪を靡かせる女性を。その隣で笑う体格のいい金髪の大男の二人を思い出し、胸焼けがした。
「兄さん、兄さん」
ボーとしていると、馬車が停まっている。俺が顔を見上げた時には、騎手が後ろを振り返って顎を突き出していた。
「着いたぞ」
「へ…」
「忘れたのか。お前の持ってた金じゃ、リンダの方向までとても行けやしねぇ。有り金で行ける地点はここだよ」
そう言えばそうだった。俺は虚しくなるほど軽い腰巾着を仕舞い込み、手荷物を背中におぶさる。
「兄ちゃん、何があったか知らねーが元気だしなぁ。世の中捨てたもんじゃあねえょ」
「ハァ…」
「生きてりゃいい事ある。いい出会いもな。ま頑張れ」
さっきから話しかけてくれた老人はしわくちゃの手を差し出すと、俺の手を握ってきた。
「あ…」
「これも何かの縁だ。持っときな」
「そんな…」
「いつか、出世払いで払っておくれよ」
俺は走り去る馬車に、深々と頭を下げる。乗っていた乗客の人達は、皆俺に手を振って別れを言ってくれた。
彼等の姿が見えなくなるまで、俺は顔を上げる事はできなかった。
馬車の姿が消え、辺りは静かな風の音だけしか聞こえない。アザードからかなり離れた地点であるここは、閑散地域の間に位置し、周囲にあるのは一面の草原だけだ。
(もう…)
近くの木にもたれかかると、力が抜けてきた。悪酔いは未だに身体を蝕んでいるのか体力がなく、長い馬車旅で消耗したエネルギーは、ほぼ残っていなかった。
(どうしようかな…)
このまま故郷に帰るのも悪くない。だが思い返すと、付与魔法しか使えない俺は、故郷でも疎まれている可能性は高かった。
思い出した両親の別れの笑顔が、今は別の意味を帯びて見えてくる。
(仕事…見つけられるか…)
とならば新天地で、一から仕事を見つけるしかないだろう。どうやって?
(付与魔法しか、何で使えないんだ…)
八方塞がりだ。何も出来ない、未来が見えない。滲む視界をどうにも出来ず、俺はただただ天を見上げた。
いつの間にか日が暮れていて、天は満天の星空と化している。夜空をキャンパスとした星の瞬きは、俺の絶望を笑っているかのように、その神々しい輝きを保っていた。
「ハァ…」
第四話の閲覧ありがとうございました。
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