第2話 ショック

 皆と昼食を食べた後、俺達は解散の準備に入った。女性陣は服の調達に消え、男性陣は武器の手入れに取り掛かっていく。

その中で俺だけは、一人宿に戻っていた。


「ハァ…」


何故俺は一人なのか。理由として、行動する意味が無い。先ず服に興味はないし、次に武器も持っていなかった。護身用のナイフを腰に用意しているものの、使った事は一度も無かった。


「ハァ…」


 だって必要が無い。いつも危険な時はディガーが防御魔法を張ってくれたし、そもそも立ち位置は最後尾だった。

 虐めでは無い。俺のパーティに於ける役割を考えれば、前に出る意味はほぼほぼ無かった。


(無理だよ…)


パーティに於ける役割。それはメンバーに+の効果を付け加える、付与魔法だ。体力や魔力を表す「基礎値」に、「変化値」という数字を付け加える。


(無理だって…)


俺は対象に+5の効果を付与していた。具体的に使い方を言えば、筋量を示す『筋力』が本来20の所が、俺の手にかかれば25にできる。


(どうやって…)


でも+5の付与をできると言っても、それだけなんだ。俺自身に他に使える魔法が一つも無い。初級魔法である『ファイア・ボール』すら使えないのだ。


(ああ…)


一人一部屋あてがわれた、その中のベッドで俺はずっと寝ていた。



「これがパーティ募集のチラシです」

「どうも…」


 次の日、【アザード・ハンターギルド】の本部一階で、俺は資料を受け取っていた。太った青年が手渡した紙の束には、聞いた事が有る無いが混じって、様々なパーティがメンバーの募集をかけている。


「縁が青くなっているのは、募集期限が来週までの物です。緑色は来月、黄色はそれ以降になっています」

「あ…どうも…」


 気を遣ってくれたのかと思ったけど、そうでは無い。紙に浮かぶ数字を見ると、日数に応じて色が変わる『変化』魔法がかけられていた。


(ふーん、+数値の減少に合わせているんだ)


さっき何も魔法が使えないと言ったが、魔法以外だと別の話だ。俺は集中して見れば、対象に付与された魔法の数値が、一眼で判断できる。

例えばこの紙に関して言えば。


「『変化』+32〜 黄色

    +31〜 緑

    +7〜 青」



で、見えたらどうと言われても困る。特段便利とは思った事がない。この能力、特別なのは必要な外部要素が無いからであって、普通の人は【チェックストーン】を翳せば、同じような数値を見る事は可能なのだ。



(剣士・剣士・回復・槍士・護衛)


順に紙を捲って、募集の要員を確認する。


(回復・弓・盾・護衛・護衛・槍士・槍士)


出てくる単語には、付与魔法師のフの字も無かった。


「ハァ…」


来年まで募集をかけているチラシにも目を通すが、募集はかかっていなかった。


「あの、その…」

「他のチラシですか?残りはこれだけですよ」

「ハァ…どうも…」



 結局付与魔法師を募集するチラシは見つけられないまま、ギルドを後にしている。俺はフラフラとアザードの街を散策して、近場にあった酒場に入った。


「エ、エールを」

「あいよ」


何となく入った酒場は、立ち飲み型の店舗だった。高いカウンター席が壁沿いに並び、多くの人が酒を酌み交わしている。


「ハァ…」


直ぐに出されたエールとナッツの皿を手元に引き寄せ、俺は旨くもない酒を口にした。苦味と酔いが一気に押し寄せてくると、心の中の不安が少しだけ柔らぐ。


(付与魔法専門は、こんなに募集されないものか…)


アザードは西部屈指の都市だ。その都市のギルドで募集されないとなると、これはもう需要自体が無いと言って過言では無い。


(何だって解散するんだろ。稽古なら今まで通り皆でやればいいじゃないか…)


急に放り出されたから、つい心の中で愚痴を言ってしまう。だけど今の状況を考えれば、思う事は止められなかった。


(大事な相談なのに、俺だけ参加させないのおかしいよ)


チビリチビリとエールを口にしていたら、ふと思い出す。


『カーズなら大丈夫よ』


俺の心の不安が、また少し和らいだ。俺は魚のフライとエールを頼むと、ポリポリとナッツを口にする。

 この酒場は周辺の中でも人気店で、ひっきりなしに人が訪れていた。人と酒が密集すれば当然賑やかにもなるし、喧しさも増してくる。


「だから、もういいじゃん。話すのやめよ。酒不味くなる」


だからこんな会話なんて、ありきたりだった筈だ。


「いやだがな。やっと肩の荷が降りたんだぜ。これは祝いの席だ」

「いいのよ、そんな事さ」

「ヘレン酒入り過ぎてない?」

「酒は入ってます。だってさ」



「あんなお荷物の間抜け、やっと切り捨てられたんだから」


第二話の閲覧ありがとうございました。不穏な空気を感じて貰えたら、評価とフォローお願いします!

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