第1話 パーティ解散?

「パーティを解散する」


 エストリア大陸の西部に位置する、アザード。西部随一の規模を誇るその都市は、周辺地域から多くの産業が集約されていた。

うち一つの産業は、地域の厄介者である魔物や野獣を討伐するハンターである。


「…え」


 ハンターは通常、複数人で構成するパーティを組んで活動していた。それぞれに役目が振り当てられ、街のハンターギルドにて任務を調達し、科さられた役目を全うする。


「言った通りだ。俺達【野犬の群れ】は、活動を停止して、即刻解散する」

「待ってよ…」

「皆、今までありがとう。楽しかった」

「待ってくれ、待ってくれ」


 星一つのパーティ【野犬の群れ】に属する付与魔法師、俺ことカーズは、パーティのリーダーを務めるマテウスに待ったをかけた。

精悍な顔つきのマテウスは、俺をチラリと睨んでくる。体格のいい彼に見下ろされると、口の中に大量の唾液が分泌された。


「カーズ。言った通り、と俺は話した筈だぞ」

「だ、だから。解散なんて聞いて無い。どうして…」

「済まん、これは俺が悪かった。実はもう決まっていたんだ」

「ディガー…」


 パーティの護衛を担う防御魔法の使い手、ディガーが申し訳なさそうに手を挙げた。その両隣を挟んで高椅子に腰掛ける、マチルダとヘレンも、申し訳なさそうに目線を落とす。


「…そんな」

「前々から話し合っていたんだ。もう決めた」

「…そんな事って…」

「お前には罪な事をしたな。だが聞いてくれ。これはお前の為でもある」

「俺の…?」

「もう無いんだ。受けられる任務が」


 黒髪のディガーが俺の目の前に投げ捨てた紙には、細い文字がつらつらと綴られていた。どの文章も文頭に星が一つだけ描かれており、語尾には数字が記載されている。


「現状、アザードの街で受けられる星一つの任務は、全て受け切った」

「全て?そんな事あるの」

「ああ。正確に言えば、歴とした星一つの任務はな」


ぶっきらぼうなマテウスの注釈が、全てを語ってくれた。


「そ、そうか…」


ハンターギルドが発注する任務には、それぞれ難易度に応じて評価がされている。星の数が増えれば報酬と評価が増す代わり、達成難易度と危険性も比例してしまうのだ。

 この星評価という代物が厄介で、街ごとのギルド、もっと言えばギルド内の評価する人によって、基準がぶれている。だから俺達ハンターは、単純に星評価を鵜呑みにはしないのだ。


「今まで絶対的に星一つの任務しか、受けてこなかった。だがもうそれは出来ん」

「私達も伝手を使って、色々と尋ねたわ。でもね」

「粗方任務は受注されていて、一通り出切ったみたいなの」


回復術師のマチルダが首を横に振る。その親友である弓使いのヘレンも、溜息をついていた。


「つまり分かるな、カーズ。俺達が今後受けなくてはならないのは、星二つの任務だ。しかも正確に星二つの」

「そう、なんだ…」

「私は貴方に伝えるべきと思ったわ。でも、ほらちょっと考えこんじゃうでしょ、カーズは」


 村では隣に住んでいたマチルダが、そう言うと他の三人がハッと息を呑んだ。


「つまりね。私達もちゃんと実力をつけようと思ったの。今のままでパーティを組んでも、ただ危険に身を任せるだけよ」

「そうそう。マチルダの言う通り、私達結局田舎育ちの世間知らずだから。ここは一旦一区切りつけて、星二つの実力をつけましょうってね」

「これが俺達の話し合いの結果だ」

「それは、そうなんだとしか…でも、でもじゃあ任務を受けずに、皆で練習すればいいじゃない」


俺の提案に、ディガーは悲しげに首を振った。


「残念だがカーズ。俺達は古い幼馴染だろ。下手な馴れ合いがあるんじゃ無いか、と考えている」

「馴れ合いなんて…」

「あるんだ。あるから星一つなんだ」


 マテウスの言葉が、ズンと響く。筆頭剣士の役割を果たす彼は、太い手で木のジャッキを包み込むと、一気に口元へと運んでいった。


「もう馴れ合いはする暇が無い。これから先は、命の危険があるんだ」

「それは…そう、だろうけど…」

「そうなんだ。だからこそ、俺達は一度、成長する必要がある。その為に、別れなくてはいけない」


 俺は溜まる生唾を飲み込んで、皆に意見する。


「別れるって…皆、俺の力を知っているだろ」

「カーズ。考え過ぎよ。私達は貴方の実力をちゃんとわかっている」

「心配しなくても、カーズならやっていける。だって幼馴染のワタシが言うんだもの」


 マチルダとヘレンは、微笑みながら励ましてくれた。心の中にあった不安は、段々と消えていく。


「例え付与魔法しか使えなくても、今のカーズなら大丈夫だよ」



第一話の閲覧、ありがとうございました。カーズの今後に不安を感じて頂けたら、評価とフォローお願いします!

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