パーティを追放された付与魔法師の俺は、実は剥奪魔法の使い手でした 〜裏で馬鹿にしてきた昔馴染みを捨てて、新たな人生を踏み出す〜
永野邦男
プロローグ
「待て待て待て!!!」
息の根が絶えた事を確認していた俺の背中に、その声は呼びかけてきた。
「任務に書いてあったポイズンドラゴンでしたよね」
「そう。達成事項は対象の討伐、若しくは完全捕獲に限る」
「じゃあ任務完了だ。帰りましょう、マスター」
「長居も無駄だしね。いいだろう」
俺は師匠のアテネスに退散を促す。今日もまた、一つ大きな稼ぎが出来た。傍で戦局を見守っていたソフィアも、武器であるパチンコを仕舞い込んだ。
「おい、待てよ!おい!」
「疲れたなぁ。早く帰って飯にしたいですね」
「ああ、お疲れ様。弟子の成長を見れてよかった」
「宿の近くに、温泉が沸く洞窟があると聞きました。お立ち寄りになります、マスター?」
「いいね。愛弟子の初陣を祝うには丁度いい」
「ワタシ肩凝った。早い所行こうよ〜」
「何もしてないのに肩が凝るのかい?」
「フフ、ワタシも緊張していたから」
何だかマスターとソフィアの間で火花が散っている気がするのは、俺の勘違いだろうか。
「カーズ、折角だから奮発しよう?今が前に言っていた懐の解放時って奴」
「でもお金をそんなに使うのはなぁ」
「ポイズンドラゴンの報酬で賄えばいい。確か五十万ゴールドだったね」
「ハイ。完全討伐かつ損傷も少ない為、交渉の余地も残ってますよ」
「ああ、交渉か。カーズ、お前できるか?」
「そんな…一緒に交渉して下さい、マスター」
「師離れしてもいいんだけどね。しかしそう頼まれては、私としても断る余地がないな」
「カーズ。ワタシが一緒に行くから心配しなくてもいいわよ」
「あっ、そうか。頼んだソフィア」
「任されました〜」
「ム…」
「ちょっとアテネスさん、除け者にされたからって、そんな顔しないで下さいよ〜」
「してない。知らない」
「ハァ〜。その顔でそれは、本当にね〜」
周りに投げ捨てていた荷物を払い上げ、俺達は帰路に着く。俺を挟んでワイワイと騒ぐソフィアとマスターだが、決して喧嘩している訳じゃなかった。二人とも無言の中でも、互いの背中を警戒し合っている。
だからこれも、防ぐ意味はないのだが。
「無視すんな!」
「な……」
男は絶句した。
「嘘……」
女は口を押さえた。
「何が……」
もう一人の女は腰を抜かした。
「……馬鹿な」
もう一人の男は、手にした武器を下ろした。
皆手を伸ばした俺を、一様に驚愕の目つきで見てくる。
「お前、何が、何で……」
「魔法だよ、ただの」
「ふざけないで!アンタは魔法なんか使えないじゃない!」
「そ、そうよ!あんな下手な付与魔法、出来たに入らないでしょう?!」
口々に喚く様は、醜さと浅ましさに満ちていた。俺は肩を竦めるマスターに頷きつつ、右手に漂う『魔法』を見せつける。
「これが『付与』魔法に見えるか?」
「ああ。カーズ、お前が使うんだからそれ以外無い」
リーダー気取りの男は、俺に対して一歩踏み出した。俺の右手に漂う魔力が波動となり、男の身体を突き飛ばす。
「ガァ?!?!」
呆気なく背後に倒れた男を、マスターは軽蔑の視線で睨んだ。
「おいおい、流石に怪しい魔法の効果範囲ぐらい、少しは危ぶめ」
「本当。カーズ、こんな奴らと一緒にいたなんて」
「こうなるとソフィアの方がマシに思える。ここまで馬鹿ではないものね」
「褒め言葉として受け取っていいの?」
「ああ。歴とした褒め言葉だ」
背中をぶつけた男は腰をさすりつつ、右手に握った無機質な鉄の塊を何度も裏返す。
洞窟内の光るキノコを反射する剣は、男の見開いた目すらも反射していた。
「な、何で…」
「お、おい。変なミスするなよ」
「そうよ、ふざけないで…」
「ふさげている筈がないだろ!ふざけてなんか、」
「じゃ、じゃあ何で何も無いのよ?!」
四人は知らない。
「剥奪したんだ。剣に付与される筈だった、火という付与を」
「はく、だつ…?」
「無知もここまで来ると、哀れだね。知恵さえあらば、このような醜態を晒さずに」
マスターの小さな嫌味が、四人の心を突き刺した。
「アンタ、何者なのよ…」
「俺か?俺は」
「『剥奪』魔法師。この世にある➕を掻き消す、➖の使い手」
俺の右手が力を解放する。
「消してやる、全部な」
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