第2話 女にされてしもうた!
恐怖を初めて感じた。
「父さん、この子はなんて名前なの?」
「うーん。知らないし知らなくていいかな、じゃ殺そう」
凍った身体はもはや動こうとすらしない。悍ましい力に満ちた魔剣が振り下ろ——し切られず、吾輩のすんでのところで静止した。
「な、何故…」
「子どもの前で殺生は良くないよな、多分」
「くっ…若造ぉ」
「よし、外で殺そう」
「殺しちゃうの?」
魔剣の若造に握られる吾輩をメスガキはじっと見つめる。何か好奇心を刺激する要素でもあったようだ。
「痛くて寒そうだよ、この子」
「幼体扱いするでない…」
「うーん。シーマ、いいかい」
魔剣の若造は屈んでシーマに視線を合わせながら時折吾輩を小突いて続ける。
「これは昔父さんがやんちゃしてた頃に斬ってたのと同じ邪悪そのものなんだ。そこに在るだけで世界を歪め生命を脅かす厄災…早い話が悪ーい奴なんだ」
「そうなんだ」
「…」
「でも、寒いって言ってたよ! 悪い子でもそんなの可哀想だよ」
「シーマ…」
「…」
舐めおってからに…傷が癒え元の力を取り戻したらこのガキから業火にて灼きつくしてくれよう。それを見て動揺した隙に魔剣の若造も殺すとするか。ククク、今からその時が楽しみだ…!
と思うておったら、握る力が強まってアホみたいに締め上げられる。
「ほら、今メチャクチャ恩知らずな事考えてたよ」
「そうなの?」
「がっ…」
「でも! 優しくして上げたらきっと良い子になると思うの」
「シーマ…なんて優しい子なんだ、よしよし」
「あぎゃ」
シーマに見えない角度でゴリゴリと指先を突き立てられている。が、あ。なんか出そう。
「うーん。よし、じゃこれはシーマが預かってて」
「うん!」
「出…出…出ない」
下腹部にあたる部位から何か出そうな気がしたが何も出なかった。排泄器官が再生しつつある予兆に違いない。まあ竜王は必然、ドラゴンはウンコなんかせんがな!! …この娘、いやに暖かいな。肉体的な話に留まらず精神的にもだ。
「うーん。ちょっと待って」
「どうしたのお父さん?」
「うーん。このままじゃ愛着が沸くし、処分しにくいなぁ」
「お前バカじゃろ!! 沸かんわ」
暫しうんうん唸ったセンスのおかしい若造は、無理やり吾輩の魂の形を変え始めた。当然、肉体も各々が全方位に向けて動き出す。
「イダダダダダダダ」
「その子大丈夫?」
「うーん。むしろ治して上げてるくらいだよ」
よくもまぁそんな冗談が言えたものだ!! 並の人間なら10回は死んでおるぞ??
「わ〜!! 大きくなっちゃった」
「うーん。我ながら完璧な仕上がりだな」
若造に渡された手鏡を覗き込むと黒く長い毛皮を生やした人間のメスが写り込んでいた。奇妙な事にソイツは吾輩の動きを完璧に真似る。信じられない程の精度で。口を開けば口を開くし、腕を挙げれば腕を挙げる。
「無礼ぞ!! 吾輩は偉大なる竜王であ…あれ?」
「それね、鏡って言って自分の顔が写るんだよ!!」
「…吾輩の?」
「うん!」
おかしい、確かめるとしよう。吾輩は現在唯の肉切れ、焼肉のカルビを彷彿とさせる哀れな存在のはずだ。
「腕、ある」
細っちい白い指が5本だけ生えている。今にも千切れてしまいそうな心許なさ。
「足、ある」
脂の乗ったムチムチした長い足。こんなん大地を踏みしめたらへし折れるじゃろ。
「ちんこ、ない」
股ぐらの妙な空白感の正体はそれだった。偉大なる覇者に相応しい立派なイチモ…ダダダダダダダダダダダダ!!!???? 頭が…割れる…!
「ウチの子の前でマスかいてんじゃねーぞトカゲ…蹴り殺すぞ?」
「か、かいてません…ごめんなさい」
くっ殺せ!! こんな矮小なヒトカスにこの吾輩が謝罪などッッッ!! …あれ? なんでこんなに魔法が使いにくいのだ???
「うーん。言っておくけど、今のお前の力は本来の…」
「本来の?」
「3,000分の1倍だ」
「な、なんじゃそりゃああああああああああ!?!?!?!?」
吾輩は生まれて初めて卒倒した。
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