第40話 ガルムと侵入者

 いつ来るか分からない脅威に、シンも眷属たちも緊張していた。動きの無い様子にハザマは一度、創造神の元へ帰ってみると話した。


「秘書たちから連絡があり、人が足りなくて仕事が山積みだそうで。すみません」


 ハザマは急いで聖域を出て行った。

 そんなある日、聖狼が再び訪れた。後ろには小さなフェンリルを連れて。

 仲間が増えた!と幼い3人は大喜びだ。特にシンは犬好きであるから、もうメロメロだ。聖域内だが、少し遠くにいる聖猿の第7秘書も、羨ましそうに見ていた。


『私は猫科だから、シンは私の弟子をあまり好きではないのかな』


 と、聖虎はちょっとからかって、シンを困らせた。エウポリア、シンバン、ネロから早く契約して!とせがまれて、小さなフェンリルと契約する。


「んー?じゃあ…ガルム!ガルムにしよう!」

「がう!」


 返事をしたガルムは光に包まれ、その光はガルムの中に消えた。待ちに待った3人はガルムと早速駆けって遊ぶ。


『意外だな。ちょっと頑固な子を選んだのだが、すぐ溶けこんだようだ』


 聖狼は驚いたように見つめる。


『うちの弟子はまだまだだな。シンとの再試合を望んでいるようだぞ』

「良いんですか?そっちを放っておいて、ワタシを鍛えても」

『いいんだよ。私の1番弟子に頼んでいるし。こっちが無事終わったら、稽古をつけるさ』


 聖虎はシンとの稽古で学びがあるらしく、毎日手合わせをしている。


『なるほど。こういう避け方もあるのか』

「ええ。こう来たら、こう!」


 2人で対戦しながら来る日に備えている。合間に星の様子を見ながら、シンはクルクルと星の成育を頑張っている。眷属が4人増えたが、ガルムは他の3人より幼いので、寝たり起きたりを繰り返している。エウポリア、シンバン、ネロはネロの祖母にも教えを請うている。


 聖猿と第7秘書はそんな眷属たちを遠くに見ながら、ルーダの眷属、聖狼と話をしている。


『聖竜が見廻っているが、あまりこれといって変わりはないな』


 聖狼が眷属を連れてくるときに聖竜に会い、話をしていた。


『他の秘書達も、だいぶ怪我は良くなったようだ。私の秘書も大丈夫なようだ』

『創造神は何か言ってたか?』

『いや。破壊神もまだ帰ってきていないみたいだ』


 聖狼はその大きな体でちょこんと座っていた。隣にルーダの狼がいる。


『まぁ、アレだよな。狙いはこの星なんだろうが、果たして俺たちの思い通りにいくものかね』

『どういう意味だ?聖猿よ』

『あいつの本当の狙いが見えねぇ。自分が死に目にあった時の復讐か?はたまた、ただの道楽か?そもそも、何回も転生を繰り返しているのはなぜだ?その意味が分からねぇと、あいつはまた繰り返すぞ』

『そうだな…ここでその道を断たねばならないか』


 するとそこへ、ひと休みをしに来たシンと聖虎が加わる。ルーダの蛇は意外と2人の稽古に興味があったらしく、そばでじっくり見ていた。お互いの拳や蹴りが当たりそうになるたびに、体をビクッとさせて驚くため、シンはちょっと気になって、聖虎からの攻撃に遅れることもあった。


『何を話してたんだ?』

『いや、あの者の狙いは何か?という話だ』

「ワタシの星が欲しいのではなく?」

『それもあるだろうが、本当は違うかもしれねぇ。と、なんとなくだ』

『聖猿のなんとなくは当たるから怖いなぁ』


 聖虎は笑いながら、眷属たちを見ていた。何があれば、すぐにでも駆けつけれるように。今はガルムが起きてきたので、子どもたちは輪になって話している。聖蛇もネロの祖母もクルクルもいるので、守りは固いはず。それになぜか、第7秘書も輪に加わっているようだ。ガルムの毛並みが柔らかいのか、にこやかな顔で触っている。


「この毛並み、さすが聖狼様の眷属ですね」

「わたしも触るー!」

「キュキューイ!」

「尻尾もふわふわね」


 ガルムはもみくちゃにされながらも、わきゃわきゃ笑いながら遊んでいる。


『こういう平和なのが続けば良いのだがな』

『そうだな。何の前触れもなく突然来るからな』

『私もそう思うなぁ。シンよ』

「はい?」

『皆を避難させな…』


 聖虎が言いきる前に、聖虎の後ろから黒い空間が現れ、そこから腕が伸び、聖虎の首を掴む。


『ぐはっ!』

『聖虎!』


 聖狼が声を上げ、自身の爪で伸びた腕を切り裂く。


 ガキーン!と音がし、爪が弾かれる。しかしその反動で手が少し緩み、聖虎はその手から素早く離れることが出来た。


『ぐふっ。はぁはぁ』

『大丈夫か、聖虎!』

『あぁ。しかしあいつには触れないな、見ろ』


 聖虎が自分の首をシンや聖獣達に見せる。


『やべえな。ただれてるじゃねえか』


 聖猿の言うように、聖虎の首は掴まれた跡が火傷のように爛れている。


『私の爪も触れただけでボロボロだ』

『嫌な予感がしたんだよな。よりによってハザマがいない時にやつが来るとは』


 聖狼の爪も刃こぼれのようにボロボロになっている。聖虎は踏ん張っていたが、一瞬にして意識を失い、倒れた。聖狼がその体を支える。聖猿は2人のそばで身構えている。

 シンは急いで眷属達を避難させた。聖蛇は二重三重にも結界を張っている。中では、ガルムが前に出て、黒い空間を威嚇している。シンバンも横にいて一緒に威嚇している。

 ルーダの狼と第7秘書は結界の外で守るように立っている。


「私には感知できなかった…力を増したというのかしら」

『わたくしも分からなかったわ。あれは…今までとは違うわ。困りましたね』


 聖蛇は冷や汗をかく。前に自分の結界を突破されているため、眷属達を守れるか不安なのだ。


「聖蛇さま…私も微力ながら手伝います」


 ルーダの蛇が励ますように訴える。


「そうだよ、聖蛇さま!それに神様だって強いもん」

「キュキュキュ!」

「神様が倒してくれます」

「が?…がう!」


 新参者のガルムはまだシンの強さが分からないが、可愛がってくれるから皆と同じように肯定した。

 シンは眷属達のやり取りを耳にして、頑張らねばと思った。


 そして、黒い空間から伸びた腕はだらんとしていたが、ふっと消えるとその空間から足が見え、中から黒いスーツを着た男がシンの聖域に入ってきた。


『あぁ?第13秘書じゃねぇな』


 聖猿が右手に自分のハンマーを持ち、臨戦態勢に入る。戦うのは得意ではないが、一応は戦える。要はやつの体に触れなければよいのだ。男は全身黒のスーツに、手も黒い。顔は切れ長の目に薄い口。しかし目の色は真っ赤だった。


「あぁ、この顔か。前の体のやつは聖竜のブレスで崩れたからな。これが俺の本来の顔だ」


 男は薄気味悪い笑みを浮かべ、シンの聖域を見た。


「なんもねぇな、ここは。まぁ、俺が新しく作り直してやるよ。安心しな」

『バカ野郎が。お前なんぞが神になれるわけないだろうが!』


 怒った聖猿がハンマーを男の顔に渾身の一撃を入れる。しかし受けた男は何の衝撃も感じずニヤリとし、聖猿の顔に触れようとする。


『やばっ』


 スピードの劣る聖猿は覚悟した。その手が触れる瞬間


「ワタシの聖域になにか問題でも?」


 聖猿と男の間にシンが一瞬で入り、バチン!と男の手を弾いた。弾かれた男の手から煙が出ている。


「なんだ、お前。ひょろひょろが入ってくんじゃねぇよ」

「お前こそ、自分に対抗してくる者が怖いのでは?」


 シンが聖猿の前に立ち、男を睨みつけている。


「この聖域、星はワタシが受け継いだものだ。お前に譲るわけにはいかない」


 シンは男にそう言い切る。絶対に奪われてたまるかとシンは決心した。

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