第39話 破壊神

「確かにシンなら…神聖魔法が備わっているならいけるかもしれん」

「神聖魔法?それは聖魔法とは違うんですか?」

「まぁ、使えるのが限られているからの。聖魔法は癒しに特化した魔法で、神聖魔法は悪そのものを滅する魔法だ。光魔法の最上級だな」

『我よりも格上だぞ』


 聖竜がちぇっと舌打ちする。聖獣の中ではトップクラスだが、神聖魔法を持つものは滅多に現れない。しかもまだ神に成りたての若僧にこの世界を託されたのだ。何か不思議な力があると思っていたが、まさかだった。


 シンはそういえば、と創造神に問いかける。


「その悪いヤツに対抗できるのは、ワタシだけみたいですが」

「んん?今のところはな」

「でも、その悪いヤツの背中にマークをつけた方がいるではないですか。その方はどうなのですか?」

「あぁ、破壊神か…」


 えーと、と創造神はハザマに目を向ける。


「破壊神様はただいまバカンス中でして。もうそろそろ戻ってこられる予定なのですが」

「こんな時に?」

「破壊神はな、次元が違うんじゃよ。わしと対の存在でな。一緒の次元には長く居られないんじゃ。だが自分の専用の空間を作ってな、そこに住んどる。たまに遊びに来て話すが、ほとんどルーダのところに居たな」


 ちらっと聖猿やルーダの眷属たちを見た。


『自分が破壊神だから、何かを生み出すやつに興味があるようで、ルーダの聖域は破壊神もお気に入りだったな。空気が美味いとか、森が綺麗だとか』

「私たちは恐ろしくて、離れていましたが破壊神様は気にせず、ルーダ様と話されていました」


 ルーダの蛇が思い出しながら応える。


『なぜか俺にも興味持たれたな。何でだ?』

「それはルーダ様の夫で、ものづくりをしてたからじゃないですか?」


 第7秘書が長い髭を触りながら話す。


「あやつにも助力を頼む予定だが、いつ帰ってくるか…しかしなー、この騒動を破壊神が聞いたらと思うと、わしは胃が痛い。…一応ハザマよ、爺やに連絡しといてくれ」

「分かりました」

「爺やとは?」

「破壊神と唯一暮らしとる使用人じゃ。」


破壊神と一緒にいるなんて、実は凄い人では?とシンは感心した。


「爺やの料理、ワショクと言ったかの。また食べたいもんじゃな」


 ワショク?ってもしかしてあの和食?シンは懐かしく思った。


「とりあえずじゃ。あの男が回復次第、また現れるはずじゃ。それまでにシンの神聖魔法を鍛えとかないと」

『それなんだけどね、創造神様』


 聖虎が机に頬杖をついて創造神に目を向ける。


『この間、うちの弟子とシンが手合わせしたんだけどね。まぁ、うちの弟子がコテンパンにやられたわけ』


 ふふふ、と聖虎が笑う。


『確かにシンは強いと思うよ。だけど魔法を放つ系の操作は苦手というか、合わないと思うな』


 格闘術のプロの聖虎は、戦いにおいても実践が豊富だ。相手の得意不得意もすぐに分かる。


「では、どうするのだ」


 創造神が不安そうな顔をする。


『私の見立てでは、放つではなく、纏う。体に纏って戦うほうが良い。実際にシンは、手や足に魔力を纏って動いていた。シンにはその方がイメージしやすいのではないかな』

『ふうん。面白れーじゃねえか』


 聖虎の言葉に、聖猿が興味を示す。


『多分だけど、前世で格闘系の稽古とかしてたんじゃないかな』

「そうですね。若い時に護身術で柔道とか空手、合気道とか嗜む程度ですけどやってたかな」

『内容はよく分からないけど、その癖が今も役立ってるんだね。外からの魔力より、内側からの魔力の方がシンはコントロールしやすい。シンが良ければ私が鍛えてあげられるよ』


 2人が話す中、ネロの祖母はネロを撫でながら、周りを見ていた。


「おばあちゃん、大丈夫?あんまり探知を使ったら疲れるんじゃない?」

「大丈夫だよ。私が出来るのはこれくらい。それに聖鯨様もハザマ様も警戒してるからね」

「おばあちゃんは私たちが守るから!」

「ふふっ。ありがたいねぇ」

「キュー」

「わたしも!」


 シンバンとエウポリアも頷いた。

 クルクルはシンの横で聖虎の話に、


『主人どの、聖虎様の教えを受けましょう。あの子達3人は私が見ていますので』

『そうですわね、その杖がそう言うのなら、わたくしも身を守る術を教えましょう』


 聖蛇のその声が聞こえたのか、ネロはやる気に満ちていた。頑張るぞ、おー!と3人は拳を挙げる。


「とりあえず、シンと眷属3人の修行、任せるぞい。わしは帰ってやることがあるからの。他の皆はどうする?」


 聖猿と第7秘書は残ると言い、ルーダの眷属やネロの祖母も同じく残った。

 聖竜と第5秘書は他の聖域が被害にあっていないか、見て回ると言う。

 聖狼はシンに合う眷属を探しに一旦帰ると話した。他の聖獣も自分の聖域を心配し、帰るという。ハザマはあの男が現れないか、見張ると申し出た。


 聖牛はシンのところに行き


『うちのバカが迷惑をかけるわね。いえ、もう私の秘書ではないわね。あの子は、あの男の罠にかかったのかしら…』


 聖牛は自分の本当の秘書がもう居ないことを感じていた。シンと聖虎は顔を見合わせて


『他人の精神や体を乗っとるのは、その者が瀕死である状態が1番やりやすい。こう言ってはなんだが、乗っとられた時点で第13秘書は亡くなっている可能性が高い。もし、その子の魂が漂っているのなら、早く見つけてあげなければ、存在そのものが消滅してしまうよ』

「本当の第13秘書の姿を知っているのは、聖牛さまではないですか?探してあげてください」


 2人の言葉を聞き、聖牛は少し安堵した。自分にもまだやるべきことがある。それを近くで聞いていたハザマが


「調べるなら創造神様の聖域か、聖牛さまの聖域近くてす。その者が多く関わっていた場所が可能性か高いでしょう。しかし、油断は禁物です。必ず1人では行動しないようにお願いします」


 この場ではハザマが唯一戦った相手だ。強さも狡猾さも知っている。


『分かったわ。用心しておく』


 聖牛は手を振り、帰り際にエウポリアの頭を撫でた。

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