第38話 輪廻転生

 そこには黒い渦巻き状の絵が描かれていた。


「聖猿殿、何故我らにこれを黙っていたのか」

「そうです。ルーダ様を陥れたやつの目印では?」

『すまん。これはな、近しいお前たちには関わってほしくなかった。ルーダが俺に頼んだのだ。何もなければそのままにしてくれと』


 ルーダの眷属である狼と蛇は、聖猿を責めた。しかしルーダの願いであるならそれ以上は言えない。


「これ、どういう意味ですか」


 シンは初めて見るそれに疑問を口にした。普通の渦巻きなら何も思わないが、それに突起がところどころ付いている。


「これは普通は知らなくて良いものなのじゃ。簡単に見えるものじゃない。魂に刻まれているからじゃ」

「魂に?」

「そうじゃ。これはな、その者が何回生まれ変わったかの回数が分かる。その突起がそれじゃよ」


 改めて見ると、その数がおびただしい。10や20どころではない。大きさはそれぞれ違うが50は超えている。


「輪廻転生ってワタシの前世ではありましたけど、これって生まれ変わり過ぎでは?」


 創造神はそうなのじゃよ、と頷く。


『シンよ。これは魂に刻まれていると創造神が言ったが、こいつの場合それが自身の背中に現れていてな』

「背中に出るもんなんですか?」

『それを目撃したのは、創造神、聖狼、我だけだ。聖猿はルーダの見たことを心を通して教えてもらっただけで、実際には見ておらぬ』


 聖竜はちらっと後ろにいる第5秘書を見て


『あ、秘書もいたな』

「忘れないでくださいよ」


 第5秘書はキラリと眼鏡を光らせる。


『私が見たのは、ルーダの星が爆発するときだった。あのときは意味が分からなかったが、あとでその紙と創造神に教えられた』

『まさかあいつが生還しているとはな。黒焦げじゃなかったか?』

『一瞬だったからな。それでもあの爆発に耐えられていたとは…』


 聖竜と聖狼がそう話しているのを聞いて、シンはおっかないなと思った。


「で、その背中のマークがあの秘書にもあったんですね?」

『そうだ。決定的だな』

「そうですね、私も見ました」

「しかし、その魂に刻まれているのに背中に出ているというのは…」

『普通は出ないな。普通は』

「というと、なんか訳ありですか?」


 そう問いかけるシンに聖竜はうーんと悩んだ。


「あー、こやつはな、やらかしたんじゃよ。その悪い方にな」

「やらかす…」

「あまりに酷いもんでな。国を滅ぼしたり、大量虐殺したり。それが生まれ変わっても毎回な。それがうまい具合に姿をくらますから、わしらでも見つけられなかった」

「ふむふむ」

「それでこやつを最後に見つけたのが、助っ人にきてくれた破壊神でな…」

「破壊神!?」


 シンはその名前を聞いてひぇぇと怯えた。


「破壊神といっても、やたらめったら破壊はしない。むしろ破壊はあまりしたくない神でな。でもこやつの悪行を聞いたら怒り心頭で、戦争中の下界に殴り込んでいって背中に刻んだんじゃよ。激痛も一緒に」

「恐ろしいですね」

「そして約束させた。次に非道なことをすればまたお前の前に現れると」

「でも、また同じことをしたんですね」


 三つ子の魂百までとはよく言ったものだ。


「それがルーダの星の時でな。わしはこのマークを前回破壊神が教えてくれたから、頭を抱えた。しかし、そう何度も転生できるものか。今度こそ最後だと思ったわ、あんな爆発に巻き込まれたんじゃからな。破壊神も手を下さずに済むと。そしたらまぁ、今回の騒ぎだ。もういい加減にせんとな」


創造神はもう飽き飽きしていた。トラブルメーカーすぎる。すると、エウポリアが手を挙げた。


「はいはーい!」

『エウポリア、何だ?』


 聖竜がエウポリアに声をかける。


「その悪い人はどうやって見つけるんですか!」

「そうじゃのう。ハザマでも聖鯨でも見つけるのは難しいのじゃ。かくれんぼしておるからの」

「あの…」


と、ネロの祖母が口を挟む。


「聖蛇さまが襲われる前に、他の蛇が標的だと話したらしいですが…」

『そうですが、もしや!?』

「その標的は私ではないですか?」

「おばあちゃんが?」


 ネロはまさかと祖母を見る。


『俺もそう思う。最初に見つけた時と今回、どちらもお前が察知してくれた。あいつは知っているんだ、お前が阻んだとな』


 聖猿も予想はしていた。ネロの祖母が原因の一端を察知したおかげで敵を見つけることができた。今回も偶然ではあるが、最悪の事態は避けられた。ならば次に現れるとき、ネロの祖母を襲うはずだ。


「そんなの、絶対にさせない!」

「当たり前じゃん!」

「キュキュキュ!」


 シンの眷属は闘う気満々だ。しかし実力が足りない。


『しかしな、ハザマが怪我するような相手だぞ。君たちでは刃が立たないが』


 聖虎が思いとどまるように諭す。


『ならば、主人どのが良いのでは?』


と、今まで黙っていたクルクルが話す。


「突拍子のないことを。シンでも太刀打ちできるのか?」


 いくら創造神の代行者で力があるとしても、聖竜の息吹でさえ躱わす相手に、手が届くのか、創造神でも分からない。それにシンの星もまだ全然完成していない。それを放おって悪者退治など許可はできない。


『これは主人どのにも関係あるのでしょう?主人どのの記憶を消し、その存在をも消そうとした。なぜそうしようとしたのか。自分がこの星の所有権を取ろうとしたのではないですか?』


 クルクルが左右に揺れながら話す。


『自分がこの星の神候補に上がるのなら、実力をつければ良いはずです。しかし気づいてしまった。まだ未熟ながらも、近いうちに覚醒する、自分よりも能力が格上の主人どのがいる。自分がどうあがいても、主人どのには追いつけない。ならば、ここでの記憶を消し外に追いやる。まだ魂の段階の主人どのなら、何回も転生してる自分の方が今は力が上で、記憶を消し去る方法も前世で身につけていたのかもしれません』

「だが、聖猿がシンに目印をつけ、わしが見つけ出した…」

『そうです。だから今度は自分が体を手に入れ、秘書になり自由に外を動き回れるようになった。聖牛さまと連れ立って主人どのと対峙した時も、まだ主人どのに及ばないことに、プライドが傷つき、それなら周りから壊そうと思い立った』

『前世で自分を邪魔した我らを排除しようと?』

『秘書になっているのですから、そういう情報は簡単に手に入ります』


 と、聖竜が問いかけるとクルクルは自分の予想を口にする。すると聖牛が


『ちょっと待って。あの時すでに中身が代わっていたのなら何故、シンに危害を加えなかったの?』


 あの時、秘書がすでにそういう状態だったのかと思うと、聖牛は冷や汗をかいた。


『私の予想なんですが、主人どのはその悪しき者とは逆の性質を持っているのでは?』


 クルクルは隣りにいるシンの方を向いて話した。


「ワタシにそんな性質持ってたかな?」


 シンは不思議に思い自分の体を見る。

手も足も普通の少年だ


『先程、ハザマ様の呪いをこの子達は見抜き、治療しました。元はそんな力はありません。聖獣様方の能力の派生なら持ってますが』

『呪いならば、聖猪でも分かるはずだ』


 聖鯨は、聖猪に顔を向けた。聖猪は渋い顔をして


『確かに自分は呪いや病気に対し、耐性があり治療に詳しいが、あんな高度な呪いは見抜けないぞ』

「それは…シンと契約したからなのか?」


 創造神がハッとして問いかける。クルクルが体を揺らしながら


『そうだとすると、対抗できますよね?主人どのなら』


 シンは自分が唯一対抗できる存在なのだと言われ、えっ?と戸惑った。

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