第37話 会議
聖牛は自分の秘書が犯した出来事に落ち込んでいた。まさかすぐ近くに得体のしれない者が紛れ込んでいたとは。
「そんなに落ち込むな」
『でも、あの空間魔法は…わたしの魔法に似ているわ』
「しかしな、性質は全く違うぞ。あやつ自身が空間に入るなどと…わしなら怖くて出来んわ」
『そうなの。命ある者が空間に入ると気が狂うはずよ。わたしの魔法は絶対に物しか入れないもの』
「ふむ…」
創造神と聖牛が話し込んでいる。そこに遅れて聖猿が第7秘書とやってきた。今いるこの場所は、聖竜の聖域である。創造神の部屋は第13秘書とハザマの闘いで、壊れてしまったからだ。聖竜の聖域はめったに他の聖獣が来ないため、眷属達は非常事態だと察し、進んで守りを買って出る。そこには聖鯨も鎮座していた。
『おう。大変だったみたいだな』
『大変だったなんて!わたしの秘書がしでかしたことなのよ!腹が立つじゃない!』
『しかし誰も命に別状はないんだろ?』
「まぁな。おぬしがハザマに連絡してくれたお陰で、間一髪誰も死んではおらん」
『礼ならネロの祖母に言いな。あの蛇が察知してくれたんだから』
「ネロとは?」
『シンのところの聖蛇の眷属だ。あの子の祖母が俺に訴えてくれたんだぜ』
『あら、うちのエウポリアと仲が良い子ね』
力なく、聖牛が話す。
『とりあえず、今回のことも含め、創造神よ。これは俺に、いや俺達に関係あることかもしれん』
「わしもそう思っとった。どうじゃ?これはシンにも話を聞いてもらわなければ。あやつも被害者じゃ」
『そうだな』
「え?どういうこと?シンにもって」
聖牛が心配な声を上げる。シンにも迷惑をかけていたのか?
「聖竜に頼んで、シン達も連れてきてもらおう」
『あいつの聖域はどうなるんだよ。危ねえだろ』
「そうだな…じゃ、わしらがシンの聖域に行くか」
『げっ。いいのかよ。新米の星に聖獣全員と残りの秘書が行くんだぞ』
「非常事態だ。今後の対策を立てねば」
『わたしの秘書がなぜあんなことをしたのか、分からない限りは動けないわよ』
『なんとなく察しはついてる』
聖猿は創造神と聖牛の顔を見て、目を瞑った。
「えーと。何が起こったんですかね?」
シンの聖域には、全聖獣とハザマ、第5秘書、第7秘書。ネロの祖母と、聖猿の聖域にいたルーダの蛇と狼がいた。
エウポリアは聖牛に、ネロは祖母に会えて嬉しそうだ。シンバンは聖竜の隣に座っている。それぞれ思い思いの場所に座っている。シンはまだ見たことのない聖獣にちょっとビビっている。中でも聖狼ファンリルには何故かすごく目をキラキラさせている。
『ちょっと…君はなぜそんな目で私を見る?』
「え?いやー、その毛並みと佇まいがカッコいいなって」
「でしょう?シン様!私もそう思っております」
と、聖猿の第7秘書が同意をする。何だ、仲間か…と聖猿は顔をしかめる。それを聞いた聖猫が
『なんだと!お前、犬派かよ!だからオレを省いたんだな!』
聖猫が悔しがる。自分は派遣を提案された身だからだ。
「省いてないじゃないですか。必要なときはお願いしますと言ったでしょう?」
『聞いてねぇぞ!』
『そうか…しかし私は犬ではなく、フェンリルだからな。あとで君に眷属の提案をしよう』
「ぜひお願いします」
『ちぇーっ』
聖猫がふてくされるのを、聖鼠がクスクスと笑う。聖牛の膝の上にいるエウポリアは、聖鯨の後ろにいるハザマを見て
「あれ?あのおじいちゃん…」
『どうしたの?』
「キュキュ」
「あら?いけないわね」
と、ぞろぞろとエウポリア、シンバン、ネロがハザマの周りに集まった。
「どうされましたか?」
ハザマが3人を見て尋ねる。ネロがハザマを頭からつま先まで見て
「あぁ、やっぱり。肩のところかな」
「そうだね」
「キュー」
「?」
ハザマは言われて訳が分からない。
「シンバン、治してあげてよ」
「キュキュー」
と、シンバンはハザマにしゃがんでもらって、肩に手を当てた。するとハザマの肩が淡く光り出し、そして消えていった。
「一体何が…うっ、ゴホゴホッ」
『ハザマ、大丈夫か?』
それを近くで見ていた聖鯨が声をかけた。ハザマは咳き込み、はぁはぁと息を整えた。手の中に吐き出したものを見れば、黒い液体でそれはすぐに消えていった。
「どうしたのじゃ?」
創造神がハザマに声をかける。ハザマの代わりにエウポリアが応える。
「えっとね、黒いモヤモヤがおじいちゃんの肩にあったの」
「ハザマ様の肩、少し傷があったからそこの周りにモヤモヤっと」
「キュー」
3人がそれぞれ頷く。聖獣達は不思議がった。自分達には何も見えなかったのだ。
『えっと、それは何かいけないものだったのかしら?』
聖蛇が3人に聞いてみる。シンバンが言いたそうだったが、まだ人語を喋れないので、ネロが代わりに話す。
「まだ小さかったから良かったですけど、あれは呪いですね」
『呪いだと?』
聖鯨が青ざめてハザマの肩を見る。ハザマも自身の肩を触り呆然とする。
「どこかで怪我とかされましたか?」
シンが創造神に聞く。創造神は心当たりがあるようで
「あやつとの闘いでつけられたのかもしれんな」
「誰とですって?」
「聖牛の秘書じゃな」
「えっ!そういえばこの場所にいないですけど…」
『あなた、感知できて?』
「いえ、私には分からなかったです」
聖蛇がネロの祖母に聞いてみたが、祖母も見えなかったらしい。孫たちの能力はこの場の誰よりも異質のようだ。
『それにしてもその呪いを治すとは、我の眷属の中でもおぬしは才能があるのう』
と、戻ってきたシンバンに聖竜サンザスは笑みを零す。シンバンはシンに頭を撫でろと催促する。
『ぬ、そこは我じゃないのか』
「ワタシが良いらしいです」
と、シンはシンバンの頭を撫でる。あんなに引っ付いていた殻がちょっとズレてきた気がする。能力を上げたら殻が取れるのだろうか。
「まぁ、いろいろ疑問があるじゃろうが、まず何故シンの聖域に皆が集まったのか、シンに説明せねばのう」
創造神がシンに自身の部屋であった事件を話す。シンやエウポリア達は驚きを隠せない。
「え?あの弱っちい人が、暴れたの?」
「よく分かんないけど、見た目によらないのね」
「キュー」
「でもあの人は最初から聖牛さまの秘書だったんでしょう?何故今更?」
そう言われて聖牛は言葉が出ない。
『それが分からないのよ。あの子からは禍々しい魔力なんて皆無だったし。何かあればハザマが対処してたはずでしょ?』
「そうですが、私の探知でも引っかからなくて。ただ、あの部屋で対峙したときは、今までの第13秘書と中身が違っていまして」
『あの時もそう言っていたな。中身が違うというのは…』
聖狼がその先を促す。
「第13秘書の魂ではない、ということです」
「え?それってつまり、別人っていうことですか?」
「そうです。最初の頃と魂がまるっきり違うのです」
『外側が一緒で、中身が違う…あの子に何が起きたの?』
聖牛は嫌な予感がして堪らない。
「体を乗っ取られたか、もしくは…」
ハザマはなんとも言えない顔をして、拳を握りしめている。その言葉を聞いて聖牛は顔を青ざめた。エウポリアが心配してぎゅっと抱きしめている。
『だが、誰がその秘書の体に入ったのだ。生半可な術では自分が身を滅ぼすぞ』
聖猪がその大きな体を揺する。
『それは、聖竜、お前見たんじゃねぇのか?あいつの正体』
聖猿が聖竜の方を見て促すように言った。
『そなた、我の心を読むのではない』
『読んでねえよ』
『はぁ。あやつの正体、それは…ルーダの星を滅ぼしたやつだ』
そう言い放った聖竜に皆の視線が集まる。ネロの額に何かが落ちてくる。それは祖母の大量の涙だった。
「おばあちゃん?」
「やはり、やはりそうですか。あの気配は。間違いなかった…」
ネロはハンカチが無いか探したが、そういえば第7秘書に貸したままだった。するとクルクルが現れて、ハンカチを差し出す。
「ありがと」
『いいえ』
そう言って、ネロは祖母の涙を拭う。
「あの者が何故また現れたのか。詳細は分からぬが…」
『おい、創造神。お前、ルーダが見たあれ、みんなにも見せろよ』
そう言われた創造神は、胸ポケットから一枚の紙を出す。なんだろうと皆が群がる。そこには黒い渦巻き状の絵が描かれていた。
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