第36話 襲撃
創造神は、聖獣達が揃ったところで、秘書達は部屋の外に待機させ、本題を話し始めた。
「さて…揃ったかの?」
『聖竜と聖猿が居ないぞ』
「聖竜は通信で繋ぐし、聖猿はあとで話す」
聖虎がこの場に居ない2人を指摘すると、創造神はそう答えた。
『今日は何の話?急いで来たから、羽根がボサボサになったじゃない』
おしゃれに気を違う聖鳥が文句を言う。
「それはすまんかったのう。さて…集まってもらったのは、ここ数ヶ月の間の異変についてじゃ」
『それって、この前聖蛇がブラックホールに吸い込まれそうになったこと?』
聖牛が聖蛇を見て話す。
「それもそうだが、まずシンのここでの記憶が失われ、宇宙に流されてしまい、わしが探すハメになったこと。聖蛇の聖域に空間が現れ、聖蛇が宇宙に放り出されたこと。
シンを邪魔に思う者が、地下牢から消えたこと。あとそれぞれの聖域内での小さな揉め事など」
『聖域の揉め事は少なからずあるだろ?』
尻尾をフリフリしながら、聖猫が応える。
「それはそうだが、最近頻繁に起こっておる。それも本当に些細なことでな」
『私のところでも、いざこざがありまして。原因はなんなのか聞いてみたら、あいつが悪口を言っていたとか、言ってないとか』
長い耳を持ち、切れ長の赤い目を持った聖兎が、溜め息をつく。
『そうして告げ口をしたのは誰だ?と聞いたら、覚えていないなど、誰か忘れただの。ほとほと困り果てました』
ふぅ、と言った聖兎に皆の視線が集まった。聖兎はびっくりして
『え?どうされました?』
『いや、わしのところも同じじゃ』
『僕のほうも』
『…私のところも同じく』
聖鼠、聖鹿、聖羊などほとんどのところで、告げ口した者の正体が分からないという。
『創造神、主の不安はそれか?』
創造神と同じような出立ちだが、口の両端から長い髭が垂れているのは聖鯨だ。
「聖鯨、これはもっと深い意味があると、わしは思うておる。シンや聖蛇の件は単なる目眩しかもしれん」
『なんだと?』
聖鯨が驚いて席を立った。次の言葉を吐こうとしたとき、聖鯨のセンサーが何かを察知した。
『ん!?いかん!聖蛇!この部屋に防御の魔法を張れ!』
『え?なぜ?』
『理由はあとだ!急げ!』
『は、はい!』
応えたと同時に聖蛇がシールドを張った途端、部屋の扉が物凄い音を立てて破壊された。爆風で部屋のガラスの窓も全て割れた。
闘い専門の聖獣達はすぐに臨戦態勢に入る。その中で創造神は自分の勘が間違いではないと悟る。何者かが自分たちのすぐ近くにいたことを。
部屋の中の煙が落ち着くと扉があったそこには、扉側を背にした少年の姿と、こちらを向いている者は…
『ちょっと…あんた何してるの!』
聖牛が信じられないとでもいうように、声を上げた。聖獣達がその者の姿を見て唖然とする。
そこには、背中を丸くしいつも書類を腕に抱えて持っていた第13秘書が、両の手を黒く染め冷たい目でこちらを見ていたのだ。その後ろには他の秘書達が息も絶え絶えにうずくまっている。かろうじて聖鼠、聖猫の第8秘書と聖兎の第10秘書、聖虎の第9秘書が他の秘書達を守るように盾になっている。
「うーん、まだまだ体力は万全ではないな…」
「そんな細腕からとんでもない力を出したくせに、まだ万全ではないと?」
「嫌だなぁ。そちらも力を出してないだろ」
少年はふぅと息をつくと、みるみる背丈が伸びていく。するとそこには白髪のスーツを着た初老の男性がいた。その男は髪を撫でつけ
「私の部下達に酷いことを」
「俺も部下だけど」
「中身が違うでしょう?」
「流石だねぇ。鋭いこと」
そう第13秘書が言うと、扉の向こうにいる聖蛇を見つけ睨みつける。
「ちぇっ。せっかく宇宙に放りだしたのに、戻ってきやがって。しぶといな」
『あれはお前のしわざか!』
聖虎が怒りをあらわにして叫ぶ。
「ま、本当は別の蛇が標的だったんだけど、主がいなくなる方が苦しむかなって」
『他の蛇って…』
「そんな防御の魔法使っても、俺には効かないんだよね。そら、もう一度…」
と、瞬時に移動し聖獣達のシールドに手をかけようとした。しかしバチン!!と跳ね返される。その手から煙が出る。
『聖蛇だけの防御だと思ったか?』
聖鯨の超音波と、聖猪の硬い毛皮で二重三重にも守っている。
「はぁ!腹立つな。しかしこれだけの聖獣達がいると、俺も身が持たない。目的のために退散させてもらうよ」
と、第13秘書が部屋に現れた空間に逃げようとする。すると初老の男が、
『聖虎様!窓から外へ投げてください!』
指示された聖虎が逃げようとする第13秘書の腕を掴み、シンが前に見せた投げ技で一瞬にして外へ飛ばす。
するとそこに、空から駆けつけた聖竜が待ち構えていた。
『我から逃げられると思うな』
すぅっと息を吸うと、口から光の息吹をカッと第13秘書へ向けて攻撃する。第13秘書はそれをもろに受けるが、ニヤッと笑い空間の中へ消えていった。
『あやつ…我の息吹を受けても平気とは、不死身か?』
「そんなわけないでしょう。何かしら耐性があるんですよ」
『しかし見たか?あやつが消える一瞬を』
「えぇ。まさかとは思いましたが。決定的ですね」
そう聖竜と第5秘書が空中で話しているなか、創造神の部屋の前で倒れている秘書達を聖獣達は介抱していた。
「すみません。部下達に怪我をさせてしまいました」
「いや、おぬしがいたからこれだけで済んだのじゃ」
「聖猿様から連絡を受けて、急いで駆けつけたのですが」
「聖猿から?」
「えぇ。聖蛇さまのところの眷属が聖猿様に忠告したそうで」
と、初老の男性、ハザマが自身が受けた怪我も気にせず創造神に報告する。
第7秘書から直通の連絡を受け、創造神の部屋に急いだところ、すでに第13秘書は他の秘書に危害を加えていた。創造神の部屋から外の音が聞こえなかったのは、防音の魔法をかけていたからだ。それも第13秘書は計算に入れていた。静かに始末出来るかと思ったが、秘書達も意外と手強く、ハザマが到着するまで時間を稼いでいた。ハザマの蹴りを第13秘書は腹で受けたが、少年の体だったハザマの重さが足りず跳ね返され、扉の前で爆風を受けた。間一髪、聖鯨に信号を送ったが部屋は無残に壊されることになる。
「とりあえず秘書達は、救護室へ移動させるのじゃ。あの秘書が逃げたとしても、聖竜の攻撃を受けたのじゃ。時間は稼げた。その間、わしらは別の場所に行き、対策を立てるぞ」
「分かりました。聖猿様にも連絡しておきます。場所はどちらに?」
「聖竜の聖域じゃ」
創造神は集まった職員達に指示をし、聖獣達にも声をかけて、聖竜の聖域へ急いだ。
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