第34話 星の最期

 聖猿とルーダは、それから頻繁に会うようになった。もちろん第7秘書もルーダの眷属も一緒だ。

 彼女の前世の話、聖猿が作ったものをルーダがアレンジしたり、それが聖獣や秘書達に好評だったりと、順調に日々は続いた。そしてどちらからともなく、一緒に暮らそうと約束し、聖猿は自分の聖域もあるため、通い婚という形になった。


 それから2000年過ぎたとき、ルーダの星が危機に直面し、それから急速に衰退化していった。

 ルーダもどんどん衰弱していく。2匹の眷属や聖猿も一生懸命支えるが止まらない。真っ青なルーダの星もその頃には赤く染まっていた。

 その頃には眷属の子達も聖域に引き上げていて、ルーダの周りに集まっていた。創造神や聖竜、聖蛇や聖狼もいた。

 ルーダの眷属の青目の狼は、ルーダを蛇に任せて、創造神と聖獣を呼び寄せた。


「これはここ100年くらいで分かったのですが、この衰退化の原因かと思われるものを我らの子が目撃していたとのことです」

「原因じゃと?」

「はい。権力者の近くには必ず参謀がいます。全部ではないですが、我らの子が情報を出し合った結果、それら参謀が実は1人ではないかと」

『あれだけの数の国家があるのに、それが全部1人のせいだと?』

 

 聖狼フェンリルが眷属に問いかける。白い毛並みの金眼のフェンリルが体を震わせる。


「はい。信じがたいことですが、我らの主人の星の生き物は魔力がほぼありません。しかし、その者を注視すると魔力が流れているのが分かるようです。蛇の1人の子が魔力の流れに長けているのですが、確実に魔力があるとの報告です」


 ルーダの星の住民はみな、魔力が無かった。魔法に頼らず自身の力で文明を築くのが当たり前だった。

 しかしそこに1つ有益な異物が混入することで、権力者はそれを手に入れ、他の国より優位に立とうと考える。

 その者は手を変え品を変え、それぞれの国の参謀となり、国同士を衝突させ、ルーダの星を壊していく。顔や性別をかえても、自身の魔力は変えられない。それで気付いた眷属たちはその魔力の大元を探すが見つけられないという。


「誰かが意図的にルーダの星を壊していた…」


 聖猿は拳を握る。そうと分かれば自分が行って犯人を直接殴りそうな勢いだ。


「待て待て。わしらも下界には手を出せない。おぬしと下界では別次元なのじゃぞ。干渉は出来ぬ」


 創造神は急いで聖猿を止める。


「だからといって、ルーダも星もこのまま見殺しか?そいつの顔も姿も分からぬまま、野放しか?俺は…我慢できん!」


 ルーダの1番近くに居た聖猿の言葉に、創造神も他の聖獣も何も言えない。


 静寂の中、か細い声が耳に届いた。


「創造神様…」


 ルーダが弱りきった体を無理に起こし、こちらを向いていた。蛇はルーダの背中を支えている。


 聖猿が1番にルーダのそばに行き、蛇と代わり、ルーダの背中を支え手を握る。


「創造神様、私の星は終わりを告げようとしています。先程、核を破壊すると私に言ってきました」

「それは本当か?」

「えぇ、何度も止めようとしましたが、星も悲鳴を上げています。私もここまででしょう」


 ルーダは力の無い手で、聖猿の手を握り返す。


「あなた。最後までそばにいてくれて、ありがとう」

「逝くなよ、ルーダ。まだこれからだろう?」

「ふふっ。そうね、まだまだ生きたかったわ、あなたと」


 そう話しながも、ルーダの星は崩れかけている。


「聖蛇さま…手伝ってほしいことが」

『何ですか?』

「まもなく私の星は爆発します。その時に他の星に被害が及ばないよう、星にシールドを張ってもらえますか?私も最後の力を振り絞って抑えます。どうでしょうか」


 聖蛇はその訴えに少し考え、頷いた。そこに聖竜が


『我も手伝おう。2人だけじゃ荷が重いだろ』


 聖竜はルーダに眷属を渡してはいないが、聖猿と同様にルーダを見守ってきた縁がある。聖蛇と聖竜は星にシールドをかけ始めた。ちらっと創造神に目配せした聖竜。創造神が近付くと


「なんじゃ」

『ルーダのそばを聖猿と眷属たちだけにしてやれ。まだ話し足りないだろう。あと…星から目を離すのではないぞ』


 キュウッと目を細めた聖竜は集中し、創造神は聖狼と共に星を注視する。聖猿と眷属たちはルーダのそばを離れない。少し下がって第7秘書がいるが、もう大号泣である。そこに狼の子が1匹付き添っているが耳はルーダに向けている。


「私が消えたあと、あなたたちは聖獣様の元へ帰りなさい。この聖域も崩れてしまうから」


 長年一緒に居た眷属はそれぞれ悲しい声を出している。ある者は手に触れ、ある者は頬を舐め、あるものはルーダが冷えないように体を寄せている。


『ルーダ。お前1人が背負うことなんてない。俺や眷属がいるだろう。俺は、俺は何もお前にしてやれなかった」

「そんなことはないわ。あなたと一緒で良かった。あなたと居て、とても楽しかったわ」

『そうか』

「そうよ…それに…え?…何、これは…」

『どうした!』


 ルーダの異変に聖猿と眷属は冷や汗をかく。


「あなた、みんな。私はここで消えてしまう。でも、まだ終わりじゃないわ。嫌な予感がするの。あなた、私の思ってること、見えるでしょ?意図的に閉じてたみたいだけど」

『当たり前だ。どうしても見えてしまうとき以外はな』

「じゃあ、私が今見たことをその能力で良く見て頂戴。これが何かのヒントになるはずよ」


 そうルーダはひと息にいうと、どっと疲れが出たのか、聖猿にもたれかかった。聖猿は支えながらも、ルーダの心を見た。一瞬目を閉じ、そして開けた時は目が真っ赤になっていた。


「聖猿殿!」

『大丈夫だ…ルーダ、分かった。ちゃんとみんなに伝えるから。もう無理するな。最後まで俺たちがお前を支える』

「えぇ、お願い。それに、また会える気がするわ。こんなことを思ったのは初めてよ」

『そうだな。また会える。必ず』


 聖猿の言葉を聞いて安心したのか、ルーダはそのまま星を見ながら、残りわずかな力を星の爆発を抑えることに使い、聖猿の腕の中で静かに消えていった。


 ルーダが消えたあと、聖猿は自分がルーダから見たことを、紙に写し、創造神と聖竜に渡した。2人は顔を見合わせ背筋を凍らせる。

紙に現れたものもそうだが、聖猿の今にも爆発しそうな感情に、心が痛くなる。


 そこへ、ルーダの眷属2人が聖猿の左右に寄り添う。


「我ら2人、しばらく聖猿殿のそばに付き添いたい」

「これはルーダ様からお願いされたことです。聖猿様が無理をしないよう、一緒にいてくれと」


 創造神は目を細め、2人を見た。2人の眷属も泣き出しそうなのをグッと堪え、聖猿のそばにいる。


「よろしい。期限は設けない。聖猿のそばにいておくれ」

「分かりました」


 眷属の狼と蛇は聖狼と聖蛇にも断りを入れ、聖猿の聖域に入ることを決めた。


 創造神たちから離れ、自分の聖域に行く途中、聖猿は2人の眷属に問う。


『いいのか、お前たち。あいつらの元を離れても』

「いいのです。私たちは家族でしょう?」

『家族か』

「我らの主人はルーダ様だ。だか、聖猿殿も契約はしていなくても同じだ」

『そうか』

「一緒に泣き、笑い、怒るのだ。ルーダ様の願いだ。また会えると約束した」

『そうだな』


 聖猿は2人の頭を撫でた。その後ろで第7秘書の涙は枯れそうになかった。聖域に着いた一行。そこにいた猿たちは聖猿の様子と2人の眷属の登場に驚いたが、ルーダの最期を知って涙を流し、眷属たちも迎え入れた。


 その頃、創造神と聖竜、聖狼、聖蛇と秘書たちは、聖猿が置いていった紙を見て、険しい顔で佇んでいた。

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