第33話 ルーダ
立ち話もなんなので、座ろうとしたが、椅子が足りない。地べたに座るか?
『しょうがねえな。俺が作ってやるよ』
と、右耳を触ると、そこから金色のハンマーが出てきた。エウポリアとシンバンはキャッキャと騒ぐ。材料は?と思っていると秘書が服の中からズルズルッと出してくる。聖牛と同じく空間魔法が使えるらしい。板や革、丸太などいろいろ出てくる。それを聖猿と秘書は手際良く作業する。金色のハンマーは形を変えてノコギリにも、ノミにもなる。あっという間に人数分の椅子と大きなテーブルが出来上がった。
『椅子は座った者に合わせて高さや、形が変わる。人数が増えたら俺に言いな』
「あの…」
『なんだよ』
「さっきから気になってたんですけど、秘書の方ってもしかして、ドワーフ?」
みんなの視線が秘書に集まる。秘書はニコリと笑い
「ご存じでしたか。確かにドワーフ族です。モノづくりの得意な種族には珍しく、秘書をやってます」
「魔法も使ってたけど…」
『こいつは変わり者なんだよ。モノづくりにはもちろん興味はあるが、興味の幅が広くいろいろ手を出してな。聖牛に空間魔法を教えて貰ったりもしたし。だから、荷物持ちも兼ねてる』
あの聖牛に教えて貰ってよく理解できたな、とシンは思った。興味があることに貪欲なのはさすがドワーフだ。
さて、本題に入る。聖猿と前任者の神との関係だ。
「えっと、ご夫婦だったとか」
『そうだな』
「すいません。てっきり男性だと思ってて友達だったのかと」
『創造神も聖竜も言わなかったのか』
「秘書さんも話さなかったです」
『…神というのは性別は対して問題ではない。お前も今は男だろう?』
「前世に引っ張られて、男ってだけです」
『まぁ、あいつもそうだった。あいつの前の前にあった星の住人だったそうだ』
「前任者も前世持ちだったんですか?」
『断片的にしか覚えてないみたいだったが、それこそ稀だ。覚えていると、自分がいた世界に星を似せてしまって大変だ、と創造神が言ってた』
ワタシは自分のこと以外、周りのことは覚えている。それは間違いなのだろうか。
そう話すと、聖猿は言った。
『お前が死んでから記憶は薄れるはず。こっちの世界で見習いをしていた時の記憶は?』
「全く無いです」
『それがおかしい。お前を邪魔に思っていたヤツがいたことは知っている。そいつがお前の記憶をどうこうできるはずがない。…これは俺達や創造神が考えることだ』
あまりシンを危険に晒すのは良くない。防ぐのは自分達の役割だ。
『とにかく、あいつも断片的に記憶があったから、自分を女だと思い過ごした』
前任者に会ったのは、創造神が面白い神がいると聞かされて、一緒について行ったある日のこと。その神の聖域は、緑に生い茂った森と、森が開けたところには小さな池があった。池の前に黒髪のショートカットで、膝まである薄紫のワンピースを来た女性がいた。創造神が声をかけると、その女性は振り向き、
「いらっしゃい」
と一言だけ。それだけだが、なぜか聖猿は懐かしさと、胸がソワソワした。
「近くで見ていた私は思いましたね。あぁ、恋に落ちたと」
第7秘書は目を閉じ、うんうんと頷いた。真っ赤になった聖猿は秘書を睨み、チッと舌打ちをして話を続けた。
前任者の名前はルーダといった。ルーダはその池から自分が創った星を見ているのだという。聖猿は覗いてみると、そこには青く輝く星があった。
「私にはなぜか前世の記憶が断片としてあるの。私がいた星は、ほぼ砂漠化していて水が貴重だったから、私が創った星は水に不自由がないようにしたかった」
それでも、そこに暮らす生き物は水を求めて争いをする。
「私は直接干渉できないから、聖蛇の眷属や聖狼の眷属に、地上を監視してもらっているわ」
そういうルーダの手には、水色の蛇が巻きついていた。聖狼もいるのか…といきなり背中がゾワッとした。振り返ると、体は白いが目が青い聖狼がいた。自分達よりも二回り以上大きい聖狼が、創造神や聖猿達を見下ろしていた。
「あまり感じない気配だったので、戻ってみれば、創造神様と聖猿殿だったか」
聖狼の眷属はのしのしと2人を通り過ぎ、ルーダの横に座った。我の主はルーダだというように、体をルーダにすり寄せて。
第7秘書は輝いた顔で、聖狼の尻尾に夢中である。豪胆な性格だ。
「あら、戻って来ていいの?」
「我の子達がいるからな。蛇の子も。そう幾年も主を寂しくさせない」
ルーダの眷属は2体居て、どちらかは必ずルーダの側にいるらしかった。聖蛇が海や川などを、聖狼が大地を管轄していた。
「もっと眷属を増やせと、この間聖竜に言われたわ。でも私にはこの子達がいれば良いの」
ルーダは満たされている、と笑った。
「じゃあ、この男なんかどうじゃ?眷属云々じゃなく、話し相手としてたまに会っては?」
と、創造神は聖猿の背中をパン!と叩いた。
『痛って!何すんだよ!』
「おぬしはもっと人と話せ。秘書だけじゃ、華が足らん。秘書はいろいろ繋がりがあるが、おぬしは物を作ることに夢中になりすぎじゃ。もっと息を吸って吐いて、周りを見ろ」
「私は全く問題ありませんよ。この方の尻尾さえあれば」
『この犬好きめ!俺が決めることじゃなく、彼女が決めることだ。初対面の男と軽々しく約束しては…』
「良いですよ」
ルーダは即答した。聖猿はしどろもどろになりながら
『いや、だから得体の知れん男が、ただ話に来るのは、秘書も居るが…危なくないか?』
「何が危ないというの?私にも2人が居るし、それに本当に危ない人なら、創造神様が連れてくるわけないでしょ?」
『そりゃそうだが…』
そんな2人のやりとりを、創造神と秘書はニヤニヤしてしながら見ていた。
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