第32話 聖猿と前任者

「それで、創造神の代わりに来た、と?」

『そうだな』


 いきなり扉が現れ、そこからオートバイとサイドカーが飛び出してきた時はびっくりした。ガハハと笑い聖猿と第7秘書は降りてきた。

 前世で見慣れたものだが、何もないこの聖域には刺激が強い。エウポリアやシンバンは初めて見るものに、興味深々だった。


「これは何?」

「これはヘルメットといって、頭を守るものです」

「キュキュ?」

「これは日差しから目を守るサングラスです」


 2人が質問をして第7秘書が答える。秘書の長い顎ひげが揺れる。シンバンの言っている言葉が分かるんだなと思った。その姿を見ながらシンは、


「ここには何もないでしょ?真っ白い世界で殺風景だから、何か飾ったり置きたいんですよね」

『なら、俺があとで作ってやるよ。それよりほら、お前が創ってる星を見せな』


 と、聖猿が言うので星を遮っている壁を見せた。聖猿はブスっとした顔になり


『ちぇっ、なんだこりゃ。この星はお前自身だぞ。お前が"お前"を見えなくしてどうするんだよ』


 星から目を背けてしまった自分を、見透かされてしまったようだ。


『お前は神だろう?自信を持て。じゃないと、俺がお前を見つけた意味がない』

「え?それはどういう意味ですか」

『そのままの意味だよ。いいか、もう一度言うが、この星はお前自身だ。創造神も言っていただろう。この星とお前は運命共同体だ。どちらかが壊れれば、片方も壊れる』


 確かに、前任者も星と共に消えた。


『最初は覚えていただろうが、いろんな聖獣がひっきりなしに来たり、星が勝手に成長したから、星の事を少し置き去りにしていただろう。この回転スピードや周りにある粒の調整もしなくてはならない。お前ならできるはずだが、怖気付いたな』

「はい、まぁ、ごもっともです」


 星が勝手に成長するから、任せていた。急にスピードが早くなりあわあわしたのは、本当だ。


「クルクルも大丈夫だと言うので…自分の甘えです」

『クルクル?』

「はい、そこにいる杖です」


 と、シンが指差すほうにクルクルは立っている。自立している杖。何も反論せず、ジッとこっちを向いている。


『杖が、喋る?』

「はい。ワタシが名前をつけて魔力を注いだら話しました」


 シンはクルクルが喋り出したあの日を思い出した。いやにテンションが高かった。聖猿は片眉を上げ、秘書の方を見た。秘書も立派な顎ひげを触りながら、ふむふむと頷く。エウポリアとシンバンはその長いひげに触りたそうで、ソワソワしている。エウポリアの首に巻きついているネロに我慢しなさいと嗜められた。


『そうか。まぁ、そういうこともあろうな』

「他の神の杖は喋らないんですか?」

『喋るのは聞いたことはないが、働き者なのはみな共通だ』

「あぁ、クルクルもそうです」


 ちらっ、とシンはクルクルを見た。クルクルは左右に揺れる。照れているのだ。


『話が逸れたが、お前の役割は星を創ること、発展させること。星が成長すればお前も成長する。今はお前の力の方が強すぎて、星が焦っておるからな。星の状態が悪くなると、どうなるか知っているよな?』

「前の星みたいに、痛ましい状況になります」

『…そうだ。しかし、あれは本当に極端な場合だ。しょうがなかった』


 聖猿ははぁ、と深いため息をつく。シンは聖猿が何かを知っているようで気になった。


「聖猿様はそのぅ、近くにいらした?」

「近くも近く。前の神様のそばにいらしてました」


 いつの間にか隣に秘書が居て、聖猿と同じ顔をする。


『創造神も聖竜もいた。俺もいたのに、何もできなかった。あいつの判断しか、あの星は救えなかった。あいつも苦しかっただろうに』


 前の星が消え、神も消えた日のことを今も鮮明に覚えている。忘れてなるものか。思い出すたびに胸がキリキリと痛む。


「仲の良い方だったんですね」

「仲が良い、というか…」


 言おうか言わまいか、秘書は悩んで聖猿を見る。聖猿はチッと舌打ちをして


『前の神はな、俺の妻だったよ』

「えっ」


 聖獣と神って結婚できるの?というか、前任者は女性だったのか。一気に新しい情報が入ってきてシンは混乱する。それを静かに聞いていたネロは、ポロッと目からひとつ涙を流していた。

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