第31話 創造神の代理
やっと繋がったシンの連絡を受けた創造神だが、忙しくて手が回らない。どうにか抜け出そうとするが、第3秘書の目が怖い。
どうしたものか、と悩んでいると、いきなり創造神の部屋の扉がバーン!と開いた。
第3秘書は即座に身構える。
『なんだなんだ!創造神よ。何日もデスクワークだと聞いたぞ!シワだらけの顔がますます深くなってないか!?』
ガハハと笑いながらフードを被った老人が、手には金色のハンマーを持って部屋に入ってくる。
「おぬしは…そんな物騒なものを手に入ってくるな」
『なんだと。これは俺の大事な商売道具で相棒だぞ。片時も手放しはしない』
グイッと創造神の目の前に差し出したハンマーは、老人の言葉に応えるかのようにキラリと光った。
「分かった分かった。で、何の用事なのじゃ」
机に目を戻して書類作業を始めた創造神は、そのまま老人に問いかける。
老人は自身の伸びた顎ひげを触りながら
『水くさいぞ、創造神。お前、なぜ俺に教えてくれなかったのだ。あいつの星が復活しそうなんだろ?あいつの友達だった俺に1番に連絡するのが筋だろうよ』
どうやら老人は、シンの星、前任者に関係があるようだ。
「それはおぬし、あの星の最期を知っておるじゃろ?あの時のおぬしの落胆した顔、88番目の神を失った悲しみを背負ったおぬしを、確信のないまま喜ばせるわけにはいかない」
創造神は仕事をしながら答えた。
『それはそうかもしれないが、見てみろ、こいつの顔を。ずっとニコニコしてて気色悪いんだよ』
と言って指さしたのは、老人よりも10センチ以上背の低い、こちらも顎ひげを蓄えた老人だ。
「すいません、創造神様。私も嬉しくて思わず顔に出てしまいましたよ。それを見られちゃったから、黙ってたんですけど吐かされてしまいました」
あまりにも創造神にフランクな物言いをする老人は第7秘書だ。創造神は顔を上げて
「しょうがないのう。2人は特にあやつと仲が良かったからの」
『で、お前今忙しいんだろ。俺がちょっと見に行ってやるよ』
任せろ!と自身の胸をドンと叩く。ちらと第3秘書の顔を見ると、うんうんと頷いている。創造神が出かけるとその後の仕事が山積みになるからだ。
『聖竜だって、いろいろ飛び回っているらしいからな。2人とも、仕事熱心で感心するなぁ』
ガハハとその老人は笑う。隣で第7秘書はニコニコしている。それを見て創造神はこの聖獣のお守りも大変だなと思った。それを察した第7秘書は
「大丈夫です。私達の種族と考え方は似ているので楽です」
『なんだぁ?俺のことを言っているのか?』
老人はジロリと第7秘書を見る。
『とりあえず、俺が行くからお前はちゃんと仕事をしとけ。有事にはお前の力が必要だからな』
「は?何かあるのか?」
『俺のカンだよ、カン。ここ最近の空気というか雰囲気というか。お前が抱えている悩みはもしかしたら複雑なものかもしれねぇ』
じゃあな、とその老人が秘書と共に扉に向いて部屋を出ていく。その老人のフード付きコートの下からは茶色い尻尾の先が覗いている。バタンと閉まった扉を見て、ふむ、と創造神は腕組みをした。
「あやつに隠し事はできんな。思ったより大変なことになるかもしれん。第3秘書よ」
「はい」
「至急ハザマに連絡を取れ。それにすぐ集まれる聖獣達や秘書にもな」
「聖竜様はどうしましょう」
「サンザスは聖羊に念話で繋げてもらう」
「聖猿様はあとでお話に?」
「そうじゃな、わしから後で話すとしよう」
だいだいは分かっているふうだったが、これも確信はない。シンの聖域へ行ったら、あやつだったら何かが分かるかもしれない。少し期待を持ちつつ、創造神は手持ちの仕事を片付けるために高速で書類に目を通し始めた。
「聖猿様」
『何だ?』
「本当はずっと分かっていたでしょうに。88番目の神様の後継者のこと」
『分かっていたとも。俺は聖獣だからな』
秘書と連れ立って歩くフードの老人は聖猿だ。ある扉の前で秘書はボタンを押す。扉が開くと狭い部屋が現れた。そこに2人は入り、また扉が閉まる。秘書は数字の書いてあるボタンを押すと、その部屋が動き出した。
「そうじゃありませんよ。最初からでしょう?」
『ふふん。お前は俺の次にカンがいいな』
「私とて、長い間あの方と交流をしていたのですよ。あの方の関係であなたが何もしないのはありえないことですから」
まっすぐに前を向きながら秘書は応えた。チーン!と音が鳴った。目の前の扉が開き、外に出たとき
「あー!ちょっと扉を抑えてて!」
バタバタと秘書とともに駆けてくるのは、聖牛だ。後ろには第13秘書もいる。第7秘書が扉を抑え、
『おう、聖牛。どうした慌てて』
『どうしたもないわよ、創造神様に呼ばれたのよ。あなたはなぜ帰るの』
『俺は今から噂の星に、創造神の代わりに行くんだよ。星の状態を見てくれってな』
『あら、そうなの?全聖獣と秘書に声をかけたみたいだけど、あなたは…まあ後でもいいみたいね』
『まぁ、俺が焚きつけたかもれないが…』
『あの子の星に行くなら、わたしの眷属もいるから、様子を教えてね』
早く乗り込んで!と第13秘書に言うと、第13秘書は聖猿と第7秘書にペコペコお辞儀をして乗り込んだ。
『あいかわらず忙しないな、聖牛は』
ガハハと笑うと、聖猿は建物の外に出てポケットから丸いものを出すと、それを親指で押した。ブウーーーン!!と何かが近づいてくる音がする。聖猿と秘書の前に現れたのは、年代物のオートバイとサイドカーだ。フードを外し、ヘルメットとサングラスを装着し
『えーと、どこにあったかな。その星』
「わざとですか。頻繁に通っていたくせに。あちらですよ」
秘書もヘルメットとサングラスをかけ、サイドカーに乗り込んだ。聖猿はコートを魔力で短くしジーンズとブーツでバイクにまたがり
『うっせえなぁ。そもそもサイドカーはあいつを乗せるために作ったのに、お前が乗るんだもんな』
「私の技術もないと完成できなかったでしょ。さぁ、レッツゴーです」
ブルルン!!と聖猿はエンジンをふかし、シンの聖域へハイスピードで向かった。
その頃、シンの聖域では星が高速で回っていた。
「これ、大丈夫かな」
『うーん、分かりませんが、なんとかなるんじゃないですか?』
「なんでそう言えるの?」
『私のカンです』
不安がっていたネロにクルクルは、さらっとそう言った。
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